第16話

 翌日市内で食料や水を買い足してから地獄のダンジョンに向かった彼ら。39層に飛ぶと小雨が降っていて視界が悪いフロアが目の前にあった。


「飛ばさない。慎重に進むぞ。底板が抜けているところがあるかもしれないから足元にも注意」


 前を見ながら言うランディに強化魔法をかける。忍びの2人にも強化魔法をかけ最後に自分に魔法をかけたローリーがOKだというと戦闘のランディが吊り橋を渡り始めた。左手に盾を持ち右手には片手剣を持っていつでも対応できる姿勢でゆっくりと吊り橋を渡り始める。2人目、3人目と渡り始めると吊り橋がギシギシと音を立てて左右に揺れる。その中をローリーは最後に吊り橋を渡りながら常に足元そして背後を警戒する。


 地獄のダンジョンの39層だ。常識外のところから魔獣が襲いかかってくる可能性もゼロじゃない。


 4人の想像通り39層の攻略は簡単ではなかった。小雨が降る中吊り橋を渡ると向こう側から魔獣がやってくる。魔獣が吊り橋に掛かると大きく揺れて不安定になる中ローリーの魔法で傷をつけカイとケンが止めを刺す。このやり方で3つ程吊り橋をクリアしたところの先にある場所からは吊り橋が3方向に伸びていた。3つの吊り橋は長くてその先は靄がかかっていて見えない。


「ぐずぐずしているとこの場所にリポップしそうだな。右から行こう」


 そう言ったランディ。誰も正解を知らないのでどのルートでも同じだ。右の吊り橋を進みだしていく4人。結局魔獣はいなかったが渡り終えた場所からまた3か所に吊り橋が伸びていた。右に行きかけたランディに背後から声をかけて止めさせるローリー。どうしたという表情で振り返っているランディに向かってローリーが言った。


「ここで休憩しよう。渡った時に魔獣がいなかった。安全地帯だろう。この先あるという保証はない。しっかり休んでおこう」


 確かにと納得した表情になるランディ。ケンとカイもなるほどといった表情だ。まだフロアを攻略してそれほど時間は経っていないがじゃあ疲れていないかといえばうそになる。バランスの悪い吊り橋を渡り、数度にわたってランクSSクラスの魔獣と戦闘をしている。


 昼飯時、夕食時等は関係なく休める時には休むというローリーの考えを理解する忍びの2人だった。


 4人は4つの吊り橋の方にそれぞれ身体を向けてその場に座り込むと水分を補給し、ローリーの収納から取り出した軽食を口に運ぶ。お互いに背中を向けあって外を向きながらの休憩なので顔は見えない。お互いが外に顔を向けたままの会話だ。吊り橋のはるかした、谷底にはマグマの川が流れているのだろう谷底から上がってくる空気が熱を持っていた。


「次も右に行くぞ」


「ランディの好きに行ってくれて構わない。誰も正解なんて知らないのだから」


 ケンが言った。ローリーもその通りだと言ってから


「ダメだったら引き返せばいい。気楽に行こう」


 初めてで手探りの攻略だ。楽観的な考えも必要だと理解している4人。休憩をとると右の吊り橋を渡り始めた。この吊り橋では戦闘になった。SSランクが1体向こう側から襲い掛かってきたがそれを不安定は橋の上で倒して向こう側に渡るとそこは行き止まりでそこから伸びている吊り橋は無かった。


 引き返して今度は中央の吊り橋を進む。現れる1体と戦闘しながら2つ進むと行き止まりだった。また戻る4人。そして左の吊り橋を渡るとそれも行き止まりだった。最初の釣り橋を渡った所まで戻ると今度は中央の吊り橋を進んでいく。魔獣を倒して渡りきると

2つの吊り橋が伸びていた。小雨で視界が悪い中、右の吊り橋を渡っていくと魔獣が3体遅い掛かってきた。それを倒して反対側に渡ると3つの吊り橋が伸びている。


 ローリーは思う所があったがまだ確証が取れないので黙っていた。また右から渡り始めると魔獣が1体襲いかかってきた。倒して向こう側に渡るとそこは行き止まりだった。引き返して中央に行くとそこは3体の魔獣が遅い掛かってきた。最後尾の魔獣はローリーが魔法で倒し、前の2体は3人で倒す。倒して渡りきると2つに分かれていた。右側は魔獣がいないが行き止まりで戻って左に行くとまた3体の魔獣との戦闘になったが倒して渡りきると行き止まりだった。


 結局最初の吊り橋を渡った所に戻ってきた4人。右、中央が騙しのルートで正解は左のルートだというのは分かっている。最初の吊り橋を戻って階段を降りた所にまでかえってきた4人。結局全く進んでいないのと同じだ。


 大休憩にしようとランディが言って全員がその場に腰を下ろした。無駄足だったこともあり全員が疲れていた。


 水分を補給し食事を口に運びながらローリーが言った


「確証は無い。もう少し結果が必要だが今までの戦闘を見ていて思ったことがある。魔獣のいない吊り橋、1体現れた吊り橋、そして3体現れた吊り橋。結局全部外れだ。2体現れる吊り橋があればそれが正解のルートかも知れない。なので休んだ後は2体いるルートを探して進んでくれないか?考えたくないが4体のケースもあるけどな」


「わかった。途中で襲い掛かってくるのが1体、もしくは3体の場合は倒した後に前に進まずに戻って違うルートを行ってみよう。早く法則を見つけないと時間ばかり食って疲れてるだけだからな」

 

 一見迷路の様になっていてもそこには必ず何かの法則がありそれに沿ってルートが伸びているはずだと言うローリー。


「地獄のダンジョンが俺達に投げかけてくれているヒントは必ずある。俺はそう信じている」


 カイとケンはダンジョン攻略についてはランディとローリーに任せている。任せてはいるがまさか法則があると予測するとは考えもしなかった。闇雲にルートを探して行くフロアだと思っていた2人だ。もしローリーの言っていることが確かであれば攻略がずっと楽になる。と言っても常に2体を相手にしなければならないのだが。


 1時間程休憩をした彼らは左のルートを進みだした。橋の上に1体、そして橋の向こう側に1体の合計2体の魔獣の姿を見つけると一気に2体を蹴散らした。向こう側に渡ると3つの吊り橋が掛かっている。左に進むと1体のみ徘徊していたのでそれを倒して戻ってきた。中央のに進むと2体の魔獣がいる。倒して向こう側に渡るとまた2つの吊り橋が見える。


 そうやって2体いる吊り橋だけを進んで3,4時間程経った頃吊り橋を渡った場所は今までより広い場所でそこには魔獣がいなかった。そしてその広場の隅に宝箱が置いてある。


 警戒して宝箱に近づいたランディが蓋を開けると中には金貨と指輪が入っていた。


「カイとケンの物だ。取ってくれ」


 カイが本当にいいのかとランディに聞いたが事前の約束通りそっちの物だよと言われる、金貨と指輪をカイが持参している魔法袋に入れた。


「金貨以外には指輪だけだったな」


「こんなもんだろう。残念だけどそう簡単に蘇生薬はないだろうと思っている。その腕輪は地上に戻ってからギルドで鑑定してもらうといいんじゃないか」


 カイとケンに取っては地獄のダンジョンでの初めての宝箱だ。宝箱が空になると4人は改めて周囲を見る。渡ってきた吊り橋が背後にあり、今いる土の地面の周囲には2つ吊り橋が伸びていた。この広場の周囲には柵がなく広場から地底に向かって崖の様になっている。まるで浮かんでいる様だ。


 その2つの吊り橋に目を遣ったままランディが言った。


「2体の魔獣がいる吊り橋を攻略するのが正式ルートっぽいじゃないか」


「このまま進んで下に降りる階段を見つけたらそう言ってくれ。まだ何があるか分からないからな」


 暫くこの場所で話をしていたが魔獣がPOPする気配はない。4人はここで野営をすることにした。


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