第15話
地上に戻ってきた4人は明日と明後日の2日間を休養日とする。地獄のダンジョンは肉体的にも精神的にもタフでないと攻略できない。肉体の回復は自分自身で確認できるが精神面は気が付かない事が多い。
思い切って2日休みにしてリフレッシュすることにした。ケンとカイは一旦アマノハラの自宅に戻りそして馴染みの武器屋に顔を出して刀を研いでくるという。今なら最終のアマノハラ行きの船に乗れるそうだ。
「明後日の夕刻にこの宿に来てくれ」
「わかった。そっちもしっかりと休んでくれよ」
忍びの2人と別れたランディとローリー。
「さてどうするか」
見送ったランディが顔をローリーに向けて聞いてきた。
「のんびりするさ。時間の使い方はお互い慣れてるだろ?」
「まぁな」
ランディ、ローリー、そして今はまだ眠っているビンセント、ハンク、マーカスらの5人。彼らはパーティ活動では抜群のチームワークを発揮するがだからと言ってプライベートも常に一緒ではない。むしろ休養日はお互いが好きなことをして過ごしていた。丸1日や2日仲間と合わないのもザラにあった。仲が良いからこそ各自がプライベートを大切にしていた。
今回も2日の間ランディとローリーは別行動だ。
「じゃあな」
「明後日の夕刻に会おう」
ランディはぐっすりと寝た翌日は午前中を部屋で過ごし午後は船でアマノハラに出向いて武器屋や防具屋をまわっていた。買う気はないがそう言う店を回るのが好きなランディ。武器は今手に持っているもの以上のはないだろうがこの片手剣はいずれハンクに渡すつもりだ。その時に自分が新しい片手剣を持たなければならない。すぐの話ではないが相場感や新商品の情報は手に入れたいと考えている。
ただここは忍びの国アマノハラ、片手剣はあるが量も質もイマイチで食指が動かされない。うーんと唸り声を上げながら陳列されている片手剣を見ているとこの店の店主らしき男が声をかけてきた。
「片手剣を探してるのかい?」
陳列ケースを見ていたランディが近づいてきた男に顔を向けた。この国特有の服装に黒い髪、黒い瞳。ツバル人だ。
「ああ。ただお国柄か刀が多いな。ここにある片手剣は悪くはないが飛び抜けて良いという物でもない」
「なかなか見る目がありそうだ。冒険者ランクを聞いてもいいかい?」
「ランクSのランディ、トゥーリア出身のナイトだ」
ランクSと聞いて店主の目の色が変わった。
「なるほど。ランクSか。わしはこの武器屋を見ているツクモという。ランクSならここに陳列してある商品じゃ買う気にならんだろうな」
ちょっと待っておれと言って店の奥に引っ込んだ店主のツクモ。しばらくすると両手で細長い箱を3つ抱えて戻ってきた。その箱の形を見ただけで中に何が入っているのか想像が付く。よいしょと言いながら3つの箱をテーブルの上に並べるとそれぞれの箱の蓋を開けた。中はランディの予想通り片手剣が入っていた。
「これはツバルのダンジョンの下層やボスから出た片手剣だ。知っての通りこの国の前衛はほとんどが忍びで片手剣を持つ奴らは少ない。そしてこの片手剣はいずれも値段が高くて普通の冒険者は手がでない代物だ。Sランクのあんたなら払えるし使いこなせるだろう」
ツクモによると分不釣り合いな武器は売らないのがポリシーなのだと言う。
「剣だってそれに見合った実力のある奴に使ってもらいたいものさ」
そう言って蓋を開けた3つの片手剣について説明をするツクモ。1つは攻撃力+10の剣だ、2つ目は攻撃力+10、STR+8の剣だという。STRが上がると力強くなり一撃の威力が大きくなる。攻撃力は武器の威力、STRはその武器を持つ者の力が上がる。
「この2つはまぁそこそこのレベルだ。そして最後のこいつだ」
そう言って箱から取り出した片手剣はランディがパッと見てもなかなかの業物だとわかる。
「こいつはダンジョンボスを倒して出てきたらしい。攻撃力+30、STR+10、そして素早さ+20の剣だよ」
「これは見事だな。今自分の持っている片手剣よりはやや落ちるがそれでも滅多に見ない業物だ」
持ってみていいぞと言われたランディが手に持って軽く振ってみる。重くもなく軽くもなくちょうど良い感じだ。
「予備の剣としちゃあ申し分ないな。これを買おう」
自分の持っているこの片手剣はいずれハンクが持つことになる。その代わりとして目の前にある片手剣は十分その役目を果たしそうだ。
ローリーも東の島からアマノハラに来ていた。ただ彼は朝からこちらに移動してきている。彼は船がアマノハラに着くとそのまま市内をぶらぶらとする。
アマノハラの街はトゥーリアともネフドの街とも違っていた。まず建物は殆どが木造だがそれがかなり頑丈な造りになっている。自分達の国だと木造建築と言えばせいぜい納屋くらいだがそれとは比べものにならない程頑丈な造りの建物が並んでいて綺麗な街並みになっていた。街の中に緑も多い。
その街を歩く人の服装も独特だ。下はズボンの様なのを履いているが上半身は厚めの布を身体の正面で合わせる様な服を着ている。市内にある服屋を覗くと商品名に”小袖”と書いてあった。こういうのを見て回ると良い気分転換になるなと市内をのんびりと歩くローリー。
防具屋にも顔を出してみたがお国柄から忍びの装束ばかりが陳列されていた。街の中にはローリの様な他国の人間もそこそこ歩いているが装備関係についてはこの国で良いものを手当するのは難しそうだ。
丸1日アマノハラを観光してリフレッシュしたローリ、夕刻の船で東の島に戻ると翌日は殆ど一日を部屋で過ごした。
夕食の時間になって宿の1階に降りていくとほぼ同じタイミングでランディ、そしてケンとカイがやってきた。
「皆リラックスできた様だな」
4人そろったところでランディが言った。
「リフレッシュできたよ。これで明日から頑張れる」
「俺もだ。刀もちゃんと研いで貰ったし」
4人はそのまま宿を出ると市内のレストランに入った。ここには個室があるので周囲を気にせずに会話が出来る。
「明日からだがあの吊り橋のフロアの攻略には時間が掛かると思った方が良いだろう」
「2日以上かかることも考えているって事だな?」
ランディの言葉にカイが聞いてきた。その通りだと頷くランディ。
「2日以上かかるだろうと腹を括っておいた方が良いってことだよ。一本道じゃないだろう、分岐を間違えると当然時間がかかる」
「確かに」
「こんなはずじゃなかった。そう思った時はもう遅いんだ。だからこんなはずじゃないというはどんな場合なのかを常に考えておく。自分の予想の範囲内であればこんなはずじゃないという発想にはならないからな。常にいくつもの最悪の手段を考えてそれに対処する方法を考え、可能な限り準備しておくんだ。難易度の高いダンジョンでは肉体的にはもちろんきついがそれ以上に精神面で落ち込むとその時点で詰む」
2人の話を聞いている忍びの2人。気持ちはすでにダンジョン攻略モードになっていた。リラックスタイムは終了だ。
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