第14話
各自が水を飲んでいると忍のケンが洞窟の出口に顔を向けて言った。
「この先は底なしの渓谷の上にある吊り橋か。同じフロアでも奥に進むといやらしくなってくるな」
「いや。今までと同じだぞ。大したことない」
「そうだな。このフロアは下層の中では楽なフロアだ。助かってるよ」
ケンの言葉にローリーとランディの2人が言った。最初に言ったケンとその隣にいるカイが驚いた表情をしている。
その表情を見たランディが2人に言った。
「同じだろう?ここまではマグマの池や川の上の吊り橋、ここから先は谷に掛かっている吊り橋。どちらも落ちたら死ぬことに変わりはない。さっきまでは吊り橋がマグマの川や池のすぐ上に掛かってたから楽なのか?これから先は谷底が見えない深い谷の上に吊り橋が掛かっているから難しいのか?この2つに何の違いもないぞ」
「ランディの言う通りだ。心理的に圧をかけているだけだよ。池の上なら何となく落ちても助かるんじゃないか、谷底には落ちたら終わりだ。そう思ってるとしたらダンジョンの罠にはまってるぞ。底が見えない谷底に掛かっている吊り橋だから恐怖にかられて動きが悪くなる。それを狙っているんだ。良く考えてみよう。吊り橋から落ちたらどちらも同じなんだと」
2人の話を聞いたカイとケンは合点がいった表情になる。無意識のうちにすぐそこに見えている池や川は安心で底が見えない谷はそうじゃないと思い込んでいた。2人が言う通りだ。川には煮えたぎったマグマの川が流れている。吊り橋から落ちたらどちらも命を落とすのは間違いがない。
「言われてみればその通りだな。どうしても橋のすぐ下が池や川なら安心、谷底ならやばいという思いになりがちだ」
カイがそう言うとローリーが言った。
「それが狙いさ。だからこの場所を安全地帯にしているんだろう。今までマグマの川や池を越えてここまで来ているがここで一晩寝ると通ってきたルートの恐さが薄まってくる。そこで谷底を見せられると高所に吊り橋が掛けられているという事で足が竦んでしまう様になってる。ちょっとしたトリックだが効果は高い」
そのちょっとしたトリックに引っかかっていた忍の2人は苦笑するしかなかった。
それにしてもトゥーリアの冒険者の2人は本当に冷静だ。龍峰のダンジョンをクリアしているだけじゃなく今までの冒険者としての生活で得た知識やノウハウを完全に自分のモノにしているのだろう。常に冷静に周囲の状況を分析している。
「今まで通りにやればいいんだ。ここは楽なフロアだぞ」
ランディの言葉に3人が頷いた。
洞窟でしっかりと休養を取った4人。朝食を食べて身体を動かすとランディの言葉で洞窟の先の吊り橋に向かって歩き出した。向こう側で徘徊しているのはSSランクの魔獣だ。ランディの挑発とローリーの魔法で攻撃を開始すると近づいて刀と片手剣で倒していく。ケンとカイの刀の二刀流が魔獣の身体を切り刻んで倒していく。
いくつか吊り橋を渡り、敵を倒しながら進んでいき吊り橋の先に下に降りる階段を見つけた。ただその前には2体の魔獣が斧や剣を持って待ち構えているのが見える。そのランクはSSクラスだ。複数体のSSクラスがここで登場した。
「1体は俺がタゲを取るのでもう1体を2人で頼む」
吊り橋を渡る前にランディが指示を出す。分かったと頷く2人の忍に強化魔法をかけて、ランディにも同じ魔法をかけると2体に突っ込んでいくランディ。こちらに気がついた魔獣が吊り橋に近づいてくるがその時には橋を渡り切っていたランディが挑発スキルで1体のタゲを取るとほぼ同時にケンの刀がもう1体に切り掛かってタゲをとった。相手の剣を避けながらケンとカイが攻撃を加えている魔獣にローリーの精霊魔法が当たると一瞬動きを止める魔獣。そのタイミングを逃さずに2人で4本の刀で切り付けていく。
ローリーは精霊魔法を撃つとすぐにもう1体のランディがタゲを持っている魔獣にも精霊魔法をぶつけた。盾で相手の攻撃を受け止めならその盾を突き出すと敵の動きが止まった。
ナイトの持っているスキルシールドバッシュの発動だ。
動きが止まると同時にランディの右手に持っている片手剣が突き出されて魔獣の体に傷をつけていく。
交互に魔法をぶつけながら前にいる3人の状態をチェックし、傷を受ければすぐに回復魔法を放つローリー。1人で後衛2人分、いやそれ以上の働きをするが当人は慣れたものだ。相手がSSクラスだったが危ない場面もなく2体を倒し切った4人は階段を降りて39層にたどり着いた。
「予想通りだったな」
前を見ながらそう口にするランディ。目の前の風景はランディとローリーが予想した通りだった。フロア全体に小雨が降っていて視界が非常に悪い。吊り橋の向こう側は霞がかかっていてどうなっているのかが見えない状態だ。そしてその吊り橋は深い谷底の上にかかっていた。
「火のダンジョンと言いながら目の前にそれらしきものはない」
ケンがそう言うとそれを聞いたローリーが前を見たままで言った。
「ということは途中からあると考えた方が良い。単に小雨で視界が悪いだけじゃないだろう。何と言っても39層だからな」
「38層の吊り橋と同じだと思って橋の上を突っ走っていくとまずい気がする。ここの攻略は今まで以上に慎重にやろう。罠が隠されてるのは間違いないだろう」
目に見える範囲を一通りチェックした彼らは39層に降りたところにある石盤にカードをかざして記録させるとそのまま地上に戻っていった。
東の島の市内に戻ってきて宿にある食堂で夕食をとっている4人。周囲には人はいない。大抵の冒険者達は外から帰ってくると街の中にあるレストランで酒を飲みながら夕食をとるが彼らは禁酒状態を続けている。
「視界が悪くなるだけじゃなくてどんなギミックが予想されるんだ?」
ケンが箸で野菜を掴んで皿に乗せながら聞いてきた。ケンとカイは箸をうまく使えるがランディとローリーはそうはいかない。彼ら2人はフォークを持ってここツバルの料理を食べている。
「まず考えられるのは吊り橋の歩く部分の板が所々外れているか穴が空いている可能性だな。踏み外すと落ちるか足を挫くかもしれない。そして38層と違っていくつかルートが現れるかもな。もちろん下に降りる正解ルートは1つだけだ。他は行き止まりになっているだろう」
ローリーの説明を聞いていたランディがそんなとこだろうなと相槌を入れた。2人ともシビアな内容の話をしているが表情に悲壮感は全くない。
「落ち着いているんだな」
「事前に考えられる可能性を探し出してそれに対処する方法を身につけておけば慌てることはないだろう?それに何よりも俺たちは強い。吊り橋の上で2、3体に攻撃されてもこのメンバーなら問題ないさ」
ケンを見てランディが言う。相手は強くなるがこっちだって強いんだと思い込むのも大事なんだよと言われて納得する2人。
確かに俺たちだって最初よりはずっと強くなっているんだ。
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