第13話
ギルドから宿に戻ってきたカイとケンの忍びの2人はランディ、ローリーと合流して市内のレストランで夕食を取る。明日は完全休養日だ。水の補給はするがそれ以外には予定がない。
「滑らない靴は持ってるか? 揺れる吊り橋の上で足を滑らせるとそれだけで死んでしまうからな」
ランディが言った。カイもケンも持っているので問題ないという。
「ここからは手探りで進むことになるが最後に見たあの風景から俺とローリーである程度予想をした」
その説明によると帰る前に見た38層はおそらく吊り橋が続いていてその吊り橋と吊り橋の間にある地面には魔獣が待っているだろう。吊り橋は常に揺らせれていると思った方が良い。
「そして向こう側の地面にいる魔獣を倒して次の吊り橋を進む。こんな流れになるだろうな」
「38層かその下の39層になると吊り橋を渡った先にいくつも吊り橋が伸びていて渡る橋を間違えると行きどまりになっている可能性もある。そして下に降りたらあの吊り橋のフロア全体の視界が悪くなっている可能性もある」
「視界が悪くなる?夜のことか?」
カイが聞いた。
「夜かもしれない、雨かもしれない、そして霧かもしれない。いずれにしても見通しが悪くなるフロアになるんじゃないかとみているんだ。攻略はさらに難しくなる。同じ系統のフロアが2つ3つ続くことがある。そして2つ目、3つ目になるほど鬼畜仕様になっていくんだ。俺達はあの吊り橋が2つ3つ続くんじゃないかと見ている」
ランディがそう言うとその後にローリーが続けて言った。
「だから休める時はしっかり休んでコンディションをベストな状態まで戻すんだ。1日で無理ならそう言ってくれ。その時は2日でも3日でも休むからな。これから下に降りるとコンディションの良し悪しが生死を分けると言っても過言ではなくなる。体調面については隠し事やごまかしは無しで頼む」
この先を読む力があるからこの2人は龍峰のダンジョンもクリアできたのだと再認識する忍の2人。目の前で穏やかな表情で食事を摂っている2人だがその頭の中は常にフル回転している。
蘇生薬を求めて地獄のダンジョンに挑戦をする2人。このダンジョンは興味半分で挑戦するダンジョンではない。彼らの様にボスを倒してレアアイテムを狙うという明確な目標を持ってそれに合わせてしっかりと準備をする。当たり前の事を徹底的にやって初めて挑戦することができるダンジョンだ。
自分達も最初よりはしっかりと目標を持って攻略している。ボスを倒すという目標だ。金策をしたい訳じゃない。このダンジョンの最下層のボスを倒してその場に立っているという未来図を描き、それに向かって挑戦している。このスタンスがぶれてはいけないとカイとケンは思った。
翌日を完全休養日として4人は体調が万全になっていた。お互いが問題ないと確認しあうと宿から火のダンジョンに向かう。
38層に飛べばそこには2日前に見た風景そのままだった。階段を降りた先にある吊り橋、その先には半径10メートル程の地面がありそこはSSクラスの魔獣が1体徘徊している。その地面からはさらに別の吊り橋が伸びているのが見えていた。
「魔獣は前衛ジョブだな」
「ああ。ガチで行ける」
「カイ、ケン、頼むぞ」
「任せろ」
ローリーの強化魔法から攻略が始まった。吊り橋を走ると橋が左右に揺れるがそれをものともせずにほぼトップスピードで駆け抜ける4人。身体能力を強化していないと無理だが彼ら自身が持っている身体能力の高さに加えてローリーの魔法でさらにその能力をアップされた身体は難なく吊り橋を渡っていく。近づいてくる魔獣がこちらに気づいた時は既にランディが吊り橋を渡り切っていて挑発スキルで魔獣のタゲを取る。すぐに後から3人が地面に着くとそのまま戦闘になってあっさりと魔獣を倒した。
誰もがこれはほんの序の口だと知っている。休むことなく次の吊り橋を渡り始めるランディ。動きに無駄がない。2つ目の吊り橋の先の魔獣を倒し3つ目の吊り橋を見るとそこには先の地面ではなく吊り橋の途中にいる魔獣が目に入ってきた。
ローリーが精霊魔法を撃つとうなり声を上げて近づいてくる魔獣。それを盾でしっかりと受け止めると左右から刀で攻撃をしてあっという間に魔獣を倒した。ここまでは順調というか相手が弱すぎる。38層がこんな訳がないとケンが思っていると、
「今度は3体だ ただしランクはSじゃない。低いぞ」
というローリーの声がした。長めの吊り橋から2体が前後に並んでこちらに向かって来ており、すこし間を開けてもう1体の魔獣が吊り橋に手をかけた。
「3人は前の2体を頼む。一番最後の奴は魔法使いだ。俺が倒す!」
ローリーの声を聞いた3人は直ぐに吊り橋を渡りはじめる。ランディが挑発スキルを発動したタイミングで背後から来る魔獣に向かって精霊魔法を発動したローリー。相手の魔獣も魔法を詠唱しようとするがすぐにローリーの2度目の魔法が命中して敵の詠唱が中断される。その間に1体を倒した3人は2体目と戦闘をしていた。ローリーの3発目の魔法が命中して魔獣が光の粒になるのと前衛3人が相手をしていた魔獣が光の粒になって消えたのはほぼ同時だった。
そのまま吊り橋を渡りその先にあるマグマの川の中にある小さな土の広場に着いた4人。
「疲れてないか?」
「これくらいなら大丈夫だな」
「じゃあ行くぞ」
短いやり取りで攻略を再開する。
何度も吊り橋を渡りその先にいる魔獣を倒しつつフロアの奥に進んでいった彼らの前に
山肌をくりぬいた洞窟が見えてきた。そこに入っても直ぐに腰を下ろさずに周囲を警戒する4人。洞窟は20メートル程の長さがある。
ここは地獄のダンジョンの38層だ。どんなトラップが仕掛けられていてもおかしくない。例えば通路の壁が突然崩れてそこから魔獣が出てくるかもしれない。警戒を解かずに洞窟の壁、床、そして天井を調べていく。
ローリーの様に100%ではないがある程度の気配感知が出来る3人。忍びの2人もジョブ特性なのか気配感知能力に優れていた。
「どうやら安全そうだな」
「俺達にも何も感じられない」
ランディの言葉にケンが答えるとようやく緊張が少し緩んだ。そして4人で洞窟の端に移動してその先を見る。そこは今までと同じ様に吊り橋が伸びているがこれまでとは違って吊り橋の下はマグマの池や川ではなく底が見えない程に深い谷になっていた。視線を下から上に上げて周囲を見ると火山からマグマが谷の底に流れて落ちているのが見える。
ぐるっと周囲を見回した4人は洞窟の中に戻るとそこで腰を落とした。
「結構時間が経っているはずだ。今日はここで野営だな」
「そうしよう」
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