第12話

 収納から取り出した食事をとりながら話をしている4人。2人ずつトンネルの壁に持たれて座り食事をしながらも左右を警戒している。


「ローリーの言う通り敵がPOPしないな」


 通路の左側、自分たちが攻略してきたフロア側を見ているカイが言った。


「とは言っても地獄のダンジョンだ。何が起こっても不思議じゃない。2人ずつ交代で休もう」


 交代でしっかりと休憩をとった4人。ダンジョンの中は時間の感覚は無いが体内時計では今は明け方、地上では夜明け前位だろうと見当をつけるローリー。全員しっかりとストレッチをして身体をほぐしてからトンネルの出口で向こうに見える景色に注目する。


 相変わらず溶岩石は絶え間なく空から降り注いでおりそれがマグマの池や川に落ちると今度はしっかりと水しぶきならぬ火のしぶきを立てているのが見える。


「地面に落ちたのはその瞬間に消えているが河や池に落ちた溶岩はマグマの火しぶきを飛ばすのか。いやらしいぜ」


「道の端を行けば安全という訳でもなさそうだな」


 前を見ながらランディとローリーが話をしているのを聞いている忍びのカイとケン。

 下層に降りて来てからは作戦はこの2人に任せている。カイもケンも2人の指示が的確で注文を付ける必要もない程だ。


 ランディを話をしていたローリーが2人に顔を向けて言った。


「見ての通り道の端が安全とは限らない。見ていると端から1メートル離れるとマグマの火のしぶきを受けることはないだろう。つまり3メートル程の幅と言いながら実際に使えるのは2メートル弱だと思った方が良い。左右同時に来たら中央1メートルだけだ。落石をよく見て左右に避ける以外に前後に避ける事も意識しながらダッシュするぞ」


 分かったと頷く2人。ランディの準備はいいかという声に3人が頷くとローリーが全員に強化魔法を掛けた。


「行くぞ!」


 その声と同時にランディが走り出した、その後にカイとケンが続きローリーが最後にトンネルから駆け出す。


 今までとは違い左右に落下してくる溶岩石の着岸地点を予想しながら瞬時に右、左、そして速度を上げたり落としたりとしながら石の東屋を目指していくが道幅が狭いというだけで難易度がアップしている。


 今までは走るスピードをあまり変えずに右、左と移動して自分をめがけて落ちてくる石だけを避けながら進んでいたが道幅が狭いのとマグマの火しぶきを浴びる可能性があるので常時左右の確認が必要になる。自分に向かっていなくてもマグマの中に落ちれば場合によっては道に火しぶきが飛んでくるのだ。


 これはきついなと首を左右、前そして上と絶え間なく動かして溶岩石が落ちない場所を想定して走り続ける4人。


 何とかローリーが石の東屋に飛び込んだ時は全員がはぁはぁと疲れ切った表情だった。


「しっかり休もう。集中力が切れたら終わりだ」


 疲れたのは肉体的な疲れよりも集中力の持続による疲れだ。周囲を警戒しながら落石に合わせて走るスピードに変化をつけて前に進む。1度でも失敗するとよくて大怪我、悪いと命を落とす場所だ。全員が集中力を切らさずに無事に安全地帯まで来たがクタクタの状態だった。


 降りしきる溶岩石の雨、石造りの東屋でしっかりと休んだ4人は再び通路を駆け出した。土の道路というか通路は道幅が3メートルと狭いこともあり左右に走るだけではなく時にはその場で立ち止まって落石を避ける必要がある。従って4人は十分な間隔を開けて東屋から次々に飛び出していった。


 最後にローリーが東屋を出て駆け出した。上と左右を注意しながら身体を左右に移動させて走っていく。前方左側のマグマの池に大きな溶岩石が落ちるとその火しぶきが上がって道路の左側に落ちてきた。

 

 まともに食らったら終わりだな


 走りながらそんなことを考え慎重且つ大胆にと言え場聞こえがよいが実はあっとかやばいぞとか叫びながら走っているローリー。


「無意識に声が出るもんだな」


 何とか東屋にたどり着いたローリーが言うと先に着いている忍びのカイも、


「俺も叫んでるんだよ。思わず声が出ちまう」


 ランディとケンもそうらしい。


「もう少しだろう」


 息が落ち着いてきたローリーが言った。


「ここで気を抜くなよ」


 その後も2度東屋で落石を避けて休憩を取った4人はようやく38層に降りる階段を見つける。階段を降りて石板に踏破を記録してから38層を見る4人。


「これはまたいやらしいフロアだな」


「切れないんだろうな」


「ダンジョンだからなそこは大丈夫だろう。ただ足元は不安定だ」


 カイ、ケンそしてランディが言っているのを聞いているローリー。

 目の前はマグマの池というか川の上に掛かっている吊り橋だ。太い丸太で支えられている吊り橋は隙間のある底板とロープで吊るされているがその吊り橋がゆっくりと左右に揺れている。吊り橋の向こう側の地面に立っている魔獣が時折吊り橋を掴んで揺らせているのだ。


「戦闘になるとかなり揺れるぞ」


「ああ。それで足を踏み外したら溶岩の池に落ちて終わりだ」


「敵のいないフロアが終わったと思ったらランクSSクラスの敵が吊り橋の上で待っているって事か」


「あいつは前衛ジョブだ。いずれ後衛ジョブもいるだろう」


 その後も少し話をして4人は地上に戻っていった。



 夕食前にカイとケンが東の島のギルドに顔を出した。ギルマスのタクミに攻略情報を説明するためだ。


「4人も雁首揃えていく必要もないだろう」


「それに俺達が行くと地獄のダンジョンの攻略記録を更新しているのが俺達だとバレる。忍なら問題ないんじゃないの」


 ランディとローリーの話を聞いてじゃあ2人で行ってくると言ってギルドに顔を出した2人。ギルマスの執務室に入ると早速タクミが聞いてきた。


「今カードを見たら37層までクリアしているな。きついか?」


「きついなんてもんじゃない」


 そう言って話出したカイの説明を黙って聞いているギルマス。


「正に地獄のダンジョンだな。よくまぁフロアを攻略出来ているもんだ」


 聞き終えて半分呆れた声でギルマスが言った。


「俺達もそう思っている。トゥーリアのSランク2人がいないと絶対に無理だ」


「やっぱりあいつらはそれ程のレベルか?」


「間違いない。あの2人は俺達が見たことがない位に優秀で勇敢だ。持っている装備が優れているだけじゃない。冒険者の質も超がいくつも付く位の一流だよ」


 カイがギルマスに説明をする。


「ケンもそう思ってるのか?」


 タクミが顔をケンに向けて聞いた。


「カイと全く同じ意見だ。あの2人は人間じゃないんじゃないかと思う程だ」


 そうして二人が言ったのはまず状況判断が素晴らしいという事だ。決して無理はしないが臆病ではない。ダンジョン攻略中、瞬時に目の前の状況を見極めてその中で最適手を考えて実行していく。


「正直俺達はあの2人に付いて行っているだけだと言っても良いくらいだ」


 そして戦闘能力についても半端ないという。


「龍峰のダンジョンのボスから入手した防具や武器は素晴らしいがそれを完璧に使いこなせる技量がないと宝の持ち腐れになるがあの2人はその装備を完璧に使いこなしている。そして賢者のローリーだ。彼自身が持っている魔力量は半端なく多いし、打ち出される魔力の威力も見たことが無いほどのレベルだ」


 ただ状況判断が良いだけでは下に降りられない。そして装備を鍛えただけでも下へは降りていけない。当人のスキルと装備が揃って初めてまともに挑戦することが出来る様になるのだということだ。


「今までのダンジョン攻略が何だったんだと思う位に地獄のダンジョンの下層はきつい。俺達が挑戦するまで踏破されたのが26層だっけ?今37層にいると分かる。26層なんて普通のダンジョンにちょっと毛が生えた程度の難易度に過ぎないってことが」


 カイが言った。隣で聞いているケンもまさしくその通りだと思っていた。そして自分達はまだ37層だ。ダンジョンは50層がボス部屋だと聞いている。つまりこれから下、特に40層以降はどんなフロアになっているのか全く想像がつかない。


 ただあの2人なら絶望的と思えるフロアでもしっかりと攻略方法を見つけて進んでいくのは間違いないと思っていた。

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