第11話
アイテムと装備を整えた4人はしっかりと休んで体力と気力を回復したこの日、37層の階段を降りた所に飛んだ。目の前にはこの前と同じく空から雨の様に絶え間なく真っ赤に燃える溶岩石が降り注いでいる。地面はへこまないが衝突の衝撃音がフロアの中に鳴り響いている。
「順に走り出そう。一つ言っておくと人の事は気にするな。空から降ってくる岩を避けながら東屋を目指すんだ。自分の事だけを考えるんだ」
ランディが言うと分かったと3人。ローリーが3人に強化魔法を掛ける。
「でかいのが直撃したらこの程度の強化魔法だと意味がないかもしれない。ただ周辺に落ちた場合や降りかかってくる火なら少しでも衝撃を和らげることはできるだろう」
最後に自分に強化魔法を掛けたローリーが言った。
「行くぞ!」
その声と同時にランディが走り出した。地面を左右に動いて溶岩を避けながらひたすら岩の東屋を目指して走っていく。ランディに続いてカイ、ケン、そして最後にローリーが階段から飛び出した。
前方と上方に注意を払って全力で溶岩石の雨の中を走る4人。最初の避難所である石造りの東屋までは階段から直線距離で200メートル程だが左右に避けながら地面を駆けるので実際はその2倍近くの距離をほぼ全力で休みなしで走らなければならない。
前を見るとランディが東屋に飛び込んだのが見えた。続いてカイが飛び込んでいく。ケンが飛び込んだその直後にローリーも東屋の屋根の下に飛び込む。全員が荒い息を吐いていた。
「何とか最初はクリアできたな」
全力疾走してきたカイがぜえぜえ言いながら言うと同じ様に両手を両ひざにあてて同じ様に荒い息を吐いているランディが言った。
「ああ。これからまだまだあるぞ」
まだ最初の東屋に着いたばかりだ。これからいくつあるのかも分からない。フロアは広く途中に岩山等もあるので奥まで見通せない。
「装備を買っておいてよかったな」
「全くだ。少しの積み重ねが効いてくる」
カイとケンのやりとりを聞き聞きながら水を飲んでいるローリー。400メートルをほぼ全力疾走するのはキツイ。だがまだここは最初の避難場所だ。石の東屋の周囲には溶岩石が絶えまなく降り注いでいる。屋根の下でフロアの奥を見ているランディが言った。
「次はあそこだな。距離は同じ位か」
「しっかり休んでから走るぞ」
彼らは再び降りしきる溶岩石の雨の中を石を避けながら全力で走っては石の東屋の下で休み、走っては休みを繰り返した。大きい岩は避けながら走っているが小石が何度も身体に当たる。ローリーの強化魔法が無ければ小石とは言え高温の石をぶつけられれば無事では済まなかったところだ。
5つ目の石の東屋の下で休憩をとる4人。フロアはまだ広く奥が見えない。
「慣れてきたときが怖い。ここらで大休憩にしないか」
ローリーの提案でこの場で腰を下ろして食事と体力の回復に努めることにする。
「それにしても流石に地獄のダンジョンだな。ギミックが半端ない」
米を固めたおむすびというツバルの郷土料理を食べているカイが言った。ローリーの収納に入れていたのでホカホカのおむすびだ。
「確かにな。魔獣がいないから楽だって気が全くしないよ」
「それが狙いなんだろう。魔獣がいない、空から落ちてくる溶岩石を避けて進むだけだと思わせておいてそう簡単じゃない」
ケンの言葉にランディが答えた。確かに3つ目の石の東屋から先は地上で立ち止まって落ちてくる石を左右に避けて進む必要が出てきていた。ただ走れば良いというものではなくなっている。そして立ち止まると危険度がアップするので常に周囲を見なければならない。
「ランディとローリーの感覚でいいんだがこのフロアの半分は攻略した感じか?」
カイの言葉に2人で顔を見合わせた後でローリーがカイとケンを見る。
「まだ半分にも行ってないだろう。3分の1か4分の1くらいじゃないかな。ただ走るだけで半分攻略できる程甘いダンジョンじゃない」
「となるとこれからもっといやらしい仕様になってるということか」
「と俺は思うんだよ。常に悪い方を予想しておいた方が外れた時に嬉しいだろう?」
残念ながら2人の予想は外れなかった。
しっかりと休憩をした後で再びフロアの中を走っては移動していた4人。それから更に数度石の東屋で休んでは前進をしていた彼らの目の前に洞窟というか長さが20メートル程の岩を切り出しただけのトンネルが見え、その中に入って出口側から向こうを見た4人の足が止まった。
「まぁ、予想通りだよな」
「ああ。それにしてもえぐいな」
そう言っているランディとローリ。4人の目の前には相変わらず空から雨の様に降り落ちてきている溶岩群があった。これ自体は今までと同じなのだが今までと大きく違う点があった。
下がマグマの池なのだ。その池の中に幅3メートル程の土の1本道が奥に伸びている。
「進む方向はあれで分かるにしてもだ。左右の幅が3メートル程か?逃げる選択肢が狭いな」
ランディが前を見ながら言った。
「少し早いがここは安全地帯の様だ。野営しよう」
「大丈夫か?敵がPOPする可能性は?」
ローリーの言葉に心配そうにケンが聞いてきた。
「この通路に入って10分は経過している。普通敵がPOPまたはREPOPするのは10分以内だ。そしてこのフロアには魔獣がいない。POPする可能性は低い。更に言うとここで無理した場合、先に野営が出来る場所があるという保証が無い。俺はむしろ無い可能性が高いと思う」
まだ時間があるしもう少し進もうという気にさせる場所にあるトンネル。これをどう見るか、そしてどう判断するかも冒険者の技量だ。
「休める時に休むという事だよな?」
「その通り。しかも見ても分かる通りここから先はさらにきつくなる。しっかり休んで回復した方が良い」
ローリーの言葉に全員がトンネルの地面に腰を下ろした。
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