第10話

「ここからが本当の地獄のダンジョンだ。今までのペースでは無理になるのでゆっくり確実に進むぞ」


 ダンジョン攻略を開始して2ヶ月で35層までと半分以上を攻略している4人。カイとケンは思いの外順調に進んでいると思っているがトゥーリアの2人によると今までのフロアは他の難易度が高いダンジョンレベルでそう難しくはないんだよと言う。


 ただケンとカイにしてみれば25層以降で相当難易度が上がったと感じていた。


「それは俺とローリーの装備のせいだ。これがもし今までの装備だったら俺もローリーも2人と同じ感覚だろう。それくらいに装備の質が上がったことによって攻略が楽になっている」


 出発前の打ち合わせ兼朝食の席で忍の2人の言葉に対してランディが言った。


「ただここから先は何があるか分からない。おそらく想像もつかないギミックがあるだろう。今以上に気を引き締めていこう」


 36層は階段を降りた時に見ていたが35層と基本同じ造りで魔獣は多いが彼ら4人にとってはそれほど苦労することなく攻略を進め、ダンジョンの中で野営をして2日かかりで37層に降りる階段を見つけた。


 そして37層に降りた彼らは目の前に広がっているフロアを見て言葉を失った。


「これは…」


 思わず声を出したカイ。目の前に広がる景色、いやこれは景色とは言えないだろう。彼ら4人の目の前では空から雨の様に多数の溶岩の岩石が地面に落ちてきている。よく見ると岩石は広大なフロアの左右にある山の上から絶え間なく放出されてそれが地面に落ちてきていた。火の玉の岩石は大小様々だがどれもが空から地上に落ちると大きな音を立て、火の粉をばら撒いている。しかもこの岩石は地面に落ちると火花を撒き散らかしているが地面は少しも凹んでいない。ダンジョンの不思議がここにもあった。もちろんフロアも桁違いに広く空があって天井が見えない。


 そしてその地上に魔獣の姿はない。


「魔獣はいないが溶岩石の雨の中を進めということか」


 地上に戻る前にもう少し観察したいというローリーの言葉で階段に立ったままフロアを見る4人。


「落ちてくる岩石に規則性があるはずだがまだ分からない。それよりあれを見ろ」


 ローリーがフロアのある方向を指差した。


「あれは避難所になっている。あそことそしてその先にもある」


 それは硬い岩を組んだ建物だ。壁はないが天井部分にも頑丈な石が乗っている。なんとか5人ほどは避難できそうな広さがある様に見える。


「あの避難所を転々と移動しながら奥を目指せということか」


「ああ。そしてこの先、下のフロアに行くと避難所がないか、あるいは岩石に加えて魔獣闊歩しているか。それともその両方か。はたまた溶岩石の数がもっと増えてくるか」


 ランディが言ったあとにローリーが言う。そのやりとりを聞いているカイとケン。

 2人は空から落ちてくる岩石、火の玉の岩石だけを見ていたがその間にローリーは地上の様子を探うと同時にこの先の展開を予想していた。


 流石のSランクだ。普通なら圧倒されて気がつかないだろうがローリーはしっかりと状況を見ていた。そしてこの下のフロアの予想を立てている。


 こいつには勝てない。ここまでの冒険者は見たことがない。

 カイは隣に立ってフロアをじっと睨みつけているローリーの横顔を見ていた。


 たっぷりと1時間ほどフロアを見ていたローリーが帰ろうかと言ったのをきっかけに4人は37層のクリアを記録させて地上に戻ってくるとそのまま防具屋に顔を出した。


「素早さの上がる靴かアイテムがあれば装備した方が良い」


 というローリーの意見に賛同した3人。あの火の玉岩石の中を走り抜ける為には少しでも素早く動けた方が楽になる。


 防具屋で素早さが上がる靴を手に入れた4人は続いてアイテム屋に顔を出した。


「装備とアイテムは重複しないからな。重ねがけの効果は大きい」


 そう言って素早さの上がる腕輪を購入した4人。いずれも安い買い物ではないがダンジョン攻略には必要だ。金をケチって命を落としたのでは何にもならない。カイとケンもそこは理解しているので当たり前の様にお金を出し装備を充実させる。


 装備を買い揃えた4人。市内のレストランで打ち合わせをする。


「37層は見た限り魔獣の姿は見えない。かと言って安心できない。武器や盾は装備したまま走った方が良いだろう」


 目に見える範囲で敵がいなかったから大丈夫だと思うのは早計だと言うローリー。


「地獄のダンジョンの下層に近づいている。嫌がらせの様な仕掛けが出てくるだろう。一瞬たりとも気が抜けない」


「じゃああの石作りの東屋みたいな建物の屋根も壊れるかもしれないってことか?」


 ランディの言葉を聞いたカイが言った。


 ランディとローリーから東屋?という声が出たのでカイが説明をした。ツバルではよくある建物で木で作られた建物で屋根と柱でできており壁が無く解放的な建物の事をそう呼ぶらしい。ツバルでは公園の中に休憩所として多く建てられているという。あれは木じゃなくて石だから厳密には東屋ではないがなと笑いながら言うカイ。


 なるほどと言ったローリーが続けた。


「地獄のダンジョンでもフロアには何故か安全地帯があるんだ。あの石の屋根、東屋がそうなのかはわからない。他にもっと安全な場所があるのかも知れない。行ってみないとわからないな」


 ローリーによるとダンジョンがどうやって形成されたのかは知らないがダンジョンを作った何者かの意思が各層にあるのだという。


「つまり安全地帯まで作ってやってるのに攻略できないのか?というある意味挑戦状的なものだと俺は理解している。だからその意思というかヒントを見つけることができればそこでしっかりと休むことが出来るんだ。上層では安全地帯は比較的わかりやすいが下層になるとそうじゃなくなる」


 ローリがそう言うと続けてランディが2人の忍びに言った。


「ローリーが言った通りでね。各フロアに必ずヒントがあるんだ。敵を倒しながらそれを見つける為に常に全方向に注意を払いながら進まないといけない。今までもそうだったがこれからはその意識を今までよりも強く持ってくれ」


 その言葉に大きく頷いたカイとケン。


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