第18話

 この行き止まりの洞窟で4時間ほど休憩と仮眠をとった4人。


 休憩後の40層の攻略もそれまでと同じ様にマグマの川をジャンプして飛び越え、リンクしているSS、時にそれ以上のクラスの魔獣を倒しながら奥に進んで行く4人。


「まだ見つからない。もうちょっと頑張れ」


「大丈夫だまだまだいけるぞ」


「俺もだ」


「俺もいける」


 マグマの川を飛びこえた先で待ち構えている魔獣に剣や刀を振りながらローリーの言葉に答える3人。


 大休憩を取ってから体内時計では4時間以上は経っている。そろそろセーフゾーンが見つかってもいい頃合いなのだが。ひょっとして見過ごしたのか?


 そう思って戦闘を続けていると2つ目の川の右側に洞窟らしきものを見つけたローリー。


「川を2つ越えたら右だ。洞窟らしきもの発見」


 背後から魔法でサポートしながら大声を出すとその言葉がモチベーションになったのか今までよりも早い動きでリンクしている魔獣を倒した3人が次々と川を越えて右に走っていった。その手前にいた1体の魔獣も3人で瞬殺するとランディが先に洞窟に入っていく。


「行き止まりだ。奥と左右の壁をチェックする」


 洞窟にはいってすぐにその場で座り込みたいところだがまずはしっかりと安全を確保する4人。洞窟を隅々までチェックして罠がないのを確認するとようやく4人が地面に腰を落とした。


「きつかったな」


 ローリーから貰った冷たい水を一気に飲んだケンが言った。他の3人も同様に水分補給をする。次にローリーが収納から食事を摂りだした。今夜はここで野営だ。


「ようやく半分位か?」

 

 食事を口に運んだランディがローリーを見て言った。彼は頷くと、


「恐らくそうだろう。ただこのフロアの安全地帯のサインが分かった。左右の壁際に1体だけ立っている魔獣がそのサインだ」


 その言葉に忍の2人もローリーを見る。


「さっきもそうだったが洞窟の入り口に立っていた1体は倒すとその後リポップしてこない。他の場所だと時間が経てばリポップするがここの洞窟の入り口をさっきからチェックしているが倒した後でリポップしないので決まりだ」


 なるほどといった表情になる3人。

 

「サインはフロアの中では変わらない。龍峰のダンジョンでもそうだった。だからここから先を進む時には左右の壁の近くに1体だけ立っている魔獣を見つけたらそいつを倒してくれるか。安全地帯の可能性が高いからな」


 このフロアのサインを見つけたので4人の表情は明るい。


 今は洞窟の中で座り込んだ4人が収納から取り出した夕食を思い思いに食べている。誰も何も言わないが今夜はここで野営だ。いくら装備が優秀で実力があっても4時間以上も格上の敵と絶え間なく続けていれば相当疲労が溜まっている。


「40層はこういう感じだとして41層以降のフロアの予測は出来るのかい?」


 美味いと言って暖かい串焼きを口に運んだカイがローリーを見て言った。


「分からない。俺達も龍峰のダンジョン1つしかクリアしていないからな。ただ火のダンジョンと言いながら下層に降りてきてもワイバーンを見ていない。こいつは間違いなく下にいるだろう。フロアの造りについては全く予想が出来ない。何があってもおかしくないからな」


「ワイバーンか。ローリーの出番だな」


「ランディ、ローリーの出番ってどういう事だい?」


 ランディはそう聞いてきたカイを見て言った。


「ワイバーンは空を飛んで火のブレスを吐いて襲ってくる。ランクはSS以上になっているがこいつは皮膚が柔らかくて魔法をぶつけると下に落ちてくるんだよ。空を飛んでいる時はSS以上だが地上に落ちるとそのランクはグッと落ちて俺達から見たら雑魚になる」


 ワイバーンはこのツバル島嶼国にある他のダンジョンでも登場する敵だ。空を飛びながら火を吐くので討伐が難しいと言われておりツバルの冒険者達は手裏剣を投げて落とそうとするが手裏剣の射程距離とワイバーンが吐く炎のブレスの距離がほぼ同じということもあり手裏剣を投げるのもかなりリスクが高いと言われている。


 そのワイバーンを魔法で落とせば雑魚になると言い切るトゥーリアの2人。確かにローリーの魔法ならワイバーンがブレスを吐く前に魔法で落とせるだろう。自分達のやってきた方法が全てではないと再認識する忍の2人。


 ローリーは時折洞窟の入り口に視線を送るが倒した1体はリポップしない。間違いないと大きな息を吐いた。その仕草を見ていたランディ。


「もう大丈夫だろう」


「ああ。ここでしっかり休養しよう。明日1日で40層をクリアできるといいが無理はしないでおこう」


 ローリーの言葉にその通りだと頷く3人。

 野営と言ってもテントを張るわけではない。食事が終わると皆思い思いの格好になる。洞窟の壁に持たれて足を伸ばしてリラックスした格好だ。


「ローリーとランディはあちこちのダンジョンを攻略してきたのかい?」

 

 壁にもたれたまま顔をランディの方に向けたカイが聞いてきた。


「トゥーリアのダンジョンは結構攻略したよ。当時は5人で無茶しながら進んでた。俺たちは前が4人で後はローリー1人の前のめりパーティだ。ガンガン敵を倒しながら下層を目指してたんだよ。ただ龍峰のダンジョンはそれを許してくれなかった。中層あたりで今までの攻略方法じゃまずいってわかってね。一旦攻略を中断して他のダンジョンでやり方を変えた鍛錬をしてから挑戦したんだ」


「攻略のパターンが1つじゃ厳しいってことか」


 ランディの言葉を聞いていたケン。その言葉にランディが頷くと彼が続けて言った。


「その通りだ。地獄のダンジョンは無理が通るダンジョンじゃないって分かったんでね。スピードよりも安全、確実性を上げないと攻略出来ないって理解したんだよ」


「ただそれだけじゃダメなんだ。時には思い切って進まないといけない局面もあった。見極めが難しいよ」


 ランディに続いてローリーが言った。2人が言うには一筋縄では行かないのが地獄のダンジョンだと言う。


「フロアが変われば攻略方法が変わる。臨機応変に対応する適応力が求められるのが地獄のダンジョンだ。もちろん敵のレベルは上がるから当然戦闘スキルや魔法スキルは必要になるがただ強ければ攻略できるというものでもないんだよ」


 確かにそうだと大きく頷くカイとケン。いくら強くても何時間も連戦すれば疲労が溜まるし集中力が落ちてくる。先を読む力、そして安全地帯を見つける観察力や敵の攻撃のパターンを見破る洞察力。冒険者として必要とされる技量の全てを高いレベルで持っている者のみが下層に降りていく資格がある。ただそれでも必ず最下層にまで辿り着いた上でそのボスを倒せるという保証はない。


「カイとケンもこのダンジョンを攻略し始めの頃と比べたら格段に成長している。でないと4人で40層まで降りてはこられない。慢心は禁物だが自信を持っていこう」


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