第3話
扉がノックされ受付嬢のアンが両手にアイテムを抱えて部屋に入ってきた。テーブルに置かれたアイテムに視線を送るギルマスとローリー。
「お待たせしました。まず魔石ですがダンジョンボスのブラックドラゴンの魔石でした。そして盾ですがこれは神龍の盾と言い、物理、魔法のダメージを50%カット及び受けたダメージの40%を自分の体力に還元する効果がついています」
「おい、そりゃとんでもない盾じゃないか」
アンの説明を聞いたギルマスが声を上げた。
「ええ。鑑定した職員もびっくりしたそうです。というかこの盾以外にこのローブも普通じゃありません」
そう言ってありがとうございましたと濃紺色のローブをローリーに渡すとローリーが着ようとしている姿に視線を送りながら言った。
「そのローブは魔力、体力の自動回復及び魔法の40%の威力増大、一方使用魔力は30%の減少、そして敵対心マイナスの効果がついています。自動回復の数値はこのローブを着ている人のスキルに依存しているということでこちらでは鑑定できませんでした。ローリーさんが実際に使用して検証してくださいとのことです」
受け取ったローブを着るローリーを見て
「盾のみならずローブもこの世に2つとないものだ」
と再び感嘆した声を出すギルマス。アンは最後に小さな小瓶を手にもつとローリーに渡した。
「最後にそのガラスの小瓶ですがギルドの鑑定士が見ても何かわからないとのことでした。ただ相当に貴重な液体だということが外から見てわかったので瓶の中の液体は取り出していません」
「なんだそりゃ?ギルドの鑑定でも分からないってのか?」
素っ頓狂な声を出すダニエル。ギルドには日々冒険者から様々なアイテムが持ち込まれてくる。それらを正確に査定をして報酬を渡す為に各ギルドではクラスの高い鑑定士を常駐させている。
すみませんと謝るアン。ローリーはわかったありがとうと言ってボスのブラックドラゴンの魔石をギルド買取りにした。他の商品は自分自身で持つ。ローブは身につけた。
「魔石代金はいつも通り口座入金でいいですか?」
「それで構わない」
アンの言葉に答えたローリー。ガラスの小瓶を盾と一緒に収納空間に収めるとダンジョンの攻略の続きを話始めた。アイテムを持ってきたアンもギルマスの隣に座って話を聞いている。
「ワイバーンとドラゴンのフロアを攻略して50層に降りた俺たちは十分に休んでからボス戦に挑戦した。部屋に入ると今までフロアにいたドラゴンの比じゃない20メートル以上もある真っ黒なブラックドラゴンが1体、フロアの中央に座っていて俺たちが入るとすぐに四つ足で立ち上がって火を吹いてきた」
ローリーはその時の情景を思い出していた。全員が準備をしランディの行こうぜという声と共に自分が扉を開いて中に入ったと思ったら立ち上がったブラックドラゴンがいきなり入り口に向かって炎のブレスを吐き出した。
全員が戦闘準備をしていたので左右に広がるとナイトのランディが挑発スキルでボスのタゲを取り他の2人の戦士がその周囲でそれぞれ両手に持った2本の剣と斧でその硬い巨体に襲いかかった。
狩人のマーカスはドラゴンの目と口を狙って何度も属性矢を放ちゆっくりだが確実にボスの体力を削っていった。
「時間がかかるのは想定内だった。俺たちは焦らずに各自が自分の仕事を全うしてボスに対処していた」
時折吐くブレスは炎や雷、氷とランダムだが5人はそれを避けながら上手く対応していた。ローリーもナイトのランディに回復魔法を入れ他のメンバーには強化魔法が切れる前に魔法を上書きし、そして自分も精霊魔法でボスの体力を削ることに貢献していた。
「ドラゴンはずっと四つ足でその場に立ったまま俺たちに対峙していた。俺もそうだが他の4人もこいつは飛ばない、いや飛べないドラゴンだと思っていたがそれが大きな間違いだったんだ」
ローリーはそのボス戦を思い出しながら話す。
「かなり削ったぞ。敵もへばってる。もうすぐだ」
ボスのヘイトを一手に受けながらランディが叫んだ。俺たちもランディと同じでボスはもうすぐ倒れるだろうと思いながら攻撃していた。
「もうすぐ倒せる。そう思いながら攻撃していたら突然ボスが羽ばたいて飛翔したかと思うと首を左右に振り回しながら今までのは何だったんだという程強烈な雷のブレスを自分の周囲にばら撒いたんだよ。あっという間の出来事だった。ランディとビンセント、そしてハンクの3人はモロにブレスを喰らってその場で倒れ込んだ。残ったのはボスから離れた場所にいた狩人のマーカスと俺の2人だ。マーカスは弓を打ちながらブレスを同時に食らわない為に俺から離れていった。そして俺が精霊魔法を、マーカスが属性矢を撃つその全く同じタイミングでブラックドラゴンが今度はマーカスに向けてブレスを撃ったんだ。マーカスがぶっ飛ばされたのと同時に俺の精霊魔法とマーカスの矢が同時に着弾。ボスは地上に落ちてそのまま倒れ込んだ」
ローリーの話が終わるとしばらくギルマスのダニエルも受付嬢のアンも言葉を発しなかった。壮絶なボス戦だ。このリゼの街でもトップクラスの5人のランクAの冒険者達が全力で立ち向かっていって4人死んだ結果の最難関ダンジョンのクリアだ。
「そうだったのか。辛かっただろうが報告ありがとう。それでこれからどうするんだ?」
話を聞き終えて沈黙していたギルマスのダニエルが正面からローリーを見て言った。
「俺だけが生き残った。俺は仲間4人の故郷を順に回って生まれ育った地に彼らを戻す義務があると考えている」
決意に満ちた表情でギルマスを見返してローリーが言った。その目を見たギルマス。
「わかった。お前は好きにして構わないぞ。そしてだ、お前達5人をランクSにする申請を出しておく。最難関ダンジョンをクリアしたんだ。ローリー以外の4人も全員ランクSに申請する。ギルド内での承認は問題なく取れるだろう。王国でも有名な最難関ダンジョンをクリアしたんだ、ランクSへの昇格を反対するギルマスはいないさ。アン、申請の手続きを頼む」
「わかりました」
アンはそう言うと部屋を出て言った。ダニエルは再び顔をローリーに向けると、
「ランクSになるとどこに出向いてもギルドの指名クエストやクエストノルマから逃れられる。別格扱いだな。そして移動の際にもどの街に出向いても特別な城門が使える、国境越えも楽になるなどメリットが多い。今のお前はランクSの実力がある。ギルドで承認を取ったら連絡する。その時に新しいカードを受け取ってくれ。お前があちこち動き回るのに便利だろう」
「わかった。ありがとう。よろしく頼む」
頭を下げたローリー。それを見ていたダニエル。
「すぐにリゼを発つのか?」
「いずれ旅立つだろうがまずはこの街でガラスの小瓶について調べようかと思っている。この街にいる鑑定士で無理なら優秀な鑑定士がどこにいるかといった情報を集めてみようかと。ギルドの鑑定士でも効果が分からない程レアなアイテム、それもダンジョンボスから出たアイテムだ。決して自分、いや自分達に益のない薬じゃないと思うんでね」
「どこに行こうと自由だがリゼの街を離れるときは俺かアンに一言言ってくれるか?」
「わかった。そうしよう」
そう言ってソファから立ち上がったローリー、ギルドの受付に戻ると数人の冒険者達がローリーを見ていたが彼はそれらを全て無視してギルドを出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます