第2話
魔法陣に乗って地上に戻ると時刻は昼ごろだった。空の真上に明るく光って地上を照らしている星が見えていた。
男は周囲を一通り見てからゆっくりと歩き出した。このダンジョンからリゼの街までは徒歩で2時間弱の距離だ。ここリゼはダンジョンの街と呼ばれており街の周辺に多数のダンジョンがある。その関係で朝から夕刻までの間、街道はダンジョンに向かう冒険者、ダンジョンから戻ってくる冒険者、そして商人らがいるので人の流れはほとんど途切れることがない。
人の流れに紛れて男は街道を歩いていく。リゼの街が見えてくると城門の列に並び門番の衛兵にギルドカードを見せて街の中に入ると真っ直ぐに冒険者ギルドを目指した。
リゼはダンジョンシティと呼ばれるだけあって冒険者の数が多く、またその冒険者達をあてにしている店も多い。街は24時間いつも賑やかだ。
その街にある冒険者ギルドも他の店同様に24時間開いている。その両開きの扉を手で押して中に入ると左手にある酒場、右手にあるクエストが貼られている大きな掲示板には目もくれずに真っ直ぐに正面にあるカウンターに向かった。その時にたまたま酒場にいた冒険者達が入ってきたローブ姿の男を見てヒソヒソと言葉を交わす。
「Aランクのローリーだ」
「ああ。賢者ローリーだ」
ローブ姿の男が一人でカウンターに近づいて来るのを見ていた受付の女性が立ちあがると男より先に声をかける。
「こんにちは、ローリーさん。今日はどういった御用でしょうか?」
ローリーと呼ばれた男は声をかけてきた受付嬢を見ると低い落ち着いた声を出した。
「アン、すまないがギルマスのダニエルと話をしたいんだがいいかな?」
アンと呼ばれた女性がわかりましたと一旦ギルドの奥に行くとそう待たずに受付に戻ってきた。
「こちらからどうぞ」
女性についてギルドの奥にあるギルドマスター執務室に案内されると机に座っていた大柄な男が席を立ち、机を回り込んで近づいてきた。
「ローリー。ダンジョン攻略中だと聞いてるが休息で一旦戻ってきたのかい?」
そう言ってギルマスが勧めるソファに向かい合って座るローリー。受付で対応をした受付嬢のアンが飲み物を持ってくるとローリーはアンにも座ってくれないかという。訝しげな表情をしたアンだがギルマスに座れと言われてギルマスの隣に腰掛けた。
「龍峰のダンジョンをクリアしてきた」
いきなりローリーがそう言った。その言葉を聞いてポカンと口を開ける2人。暫くの間があってから
「お前さん、今龍峰のダンジョンをクリアしてきたと言ったんだよな?」
ローリーを真っ直ぐに見ながらゆっくりとした口調で問いかけてきたギルマス。
「そうだ。地獄のダンジョンと呼ばれている内の1つ、龍峰ダンジョンの最下層、50層のダンジョンボスのブラックドラゴンを倒してきた」
そういうと収納魔法の中からボスの魔石、盾、そしてガラスの小瓶を取り出してテーブルの上に置く。今までにない大きさの魔石に視線を送る2人をじっと見て
「今テーブルに置いてあるアイテムとあとは金貨、そして俺が今着ているローブが宝箱から出た。そして……ダンジョンの最下層から戻ってきたのは俺1人だ」
「!!!」
ローリーが言った言葉の意味を瞬時に理解するギルマスとアン。
「嘘だろう?」
「嘘でしょ?」
同時に声を出した2人を見て顔を左右に振る男。
「俺も嘘ならどれだけ嬉しいか。残念ながら嘘じゃない。仲間の遺体は俺の収納空間に収めている」
そう言ってローリーは4つのギルドカードを空間から取り出すとテーブルの上に置いた。
「何があったか聞かせてくれるか? あっ、その前にアン、これらのアイテムの鑑定を頼む。ローリーもローブを脱いでアンに渡せ」
ローリーはローブを脱ぐとアンに渡した。彼女はテーブルの上に置かれた小瓶、盾、魔石、そしてローブを手に持つとギルマスの執務室を出ていった。
アンが出ていくとローリーはギルマスの前で話を始めた。
龍峰のダンジョンはその名の通りドラゴン系の魔獣が出てくるダンジョンだ。低層でも中型のリザードが登場し、さらに深く降りていくとそのリザードは炎のみならず氷や水、雷でも攻撃してくる。ドラゴン系だからと言って炎系の魔法を防ぐ対応だけしていると下に降りていけないという鬼畜仕様になっているダンジョンだ。
40層以下になるとワイバーンが空を飛び、地上ではミニドラゴンが複数体固まっておりその中を進んでいかなければならない。ローリー達が攻略する前までもっとも深層まで攻略していたパーティの攻略フロアが35層だった。
「45層からはミニドラゴンがノーマルドラゴンになりワイバーンの数も増える。フロアは洞窟じゃなくだだっ広くなっているが空と地上に魔獣がいて身を隠せる安全地帯が少ない」
「よくまぁそんなフロアを攻略できたもんだ。尤もお前さん達はパーティ構成が歪というかとんがってるからな。だから攻略できたんだろう」
ギルマスのダニエルの言葉に頷くローリー。
「ギルマスの言う通りだよ。俺たちはほぼ最初からこの構成だ」
ナイト ランディ
戦士(斧x2) ビンセント
戦士(片手剣x2) ハンク
狩人(弓) マーカス
賢者(杖) ローリー
「前4人、後ろが俺1人。普通ならまずないだろう」
ローリーの言葉にお前さん達くらいだよというギルマス。
普通はナイト、戦士、戦士あるいは狩人と前衛ジョブが3人で後衛ジョブは僧侶と精霊士の2人というのがオーソドックスな構成でありほとんどのパーティはその構成で組んでいる。ただローリーらは最初から前4後1の超前のめりの構成でやってきていた。
これはパーティのリーダであるランディの方針で攻撃力を全面に押し出して力で敵を捩じ伏せるという脳筋パーティに仕上げたからだ。最後にメンバーになったのは狩人のマーカスだが彼が入るときもランディは僧侶を選ぶということをせずに遠距離攻撃のできる狩人に声を掛けてパーティに入れたという経緯がある。そしてパーティメンバーは全員男だ。これもランディの意向で、野郎ばかりの方が行動しやすいということだがこれにはローリー他メンバーも同意している。パーティで活動するときに無用な気遣いをしなくて済むからだ。
「その結果お前さんにはかなりの負担が掛かったんじゃないか?」
「最初はきつかったがな。慣れたよ。それと前の4人は金に糸目をつけずにポーションがぶ飲みで戦ってたからな俺は賢者と言いながらほとんどが精霊士みたいな仕事しかしていない」
ローリーの話を聞いているギルマスのダニエル。彼はローリーの実力を知っている数少ない部外者の1人だ。賢者というジョブをとことん極め回復、治癒、強化魔法は僧侶並み、そして精霊魔法は精霊士並みのレベルまで鍛え抜いたローリーがどれほど厳しい鍛錬をこなしてきたかを知っている。普通の僧侶と精霊士2人分の仕事を事もなくやってのけるローリー。他のパーティメンバーの4人もローリーのその実力を十分に理解しているからこそ後ろを気にせずに前のめりで敵に突っ込んでいけたとも。
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