第4話
ローリーはギルドを出るとまずはリゼの街にある自分達のパーティハウスにしている一軒家に戻ってきた。不在の間もギルドの低ランク冒険者のクエストとして家と庭の掃除を頼んでいたので家の中に入ってもまるで昨日外出して今日戻って来た様に綺麗だ。
1階のリビングのランプに装着してある魔石に魔力を通して灯りをつけるとソファに深く座る。そうして収納からガラスの小瓶を取り出してテーブルの上に置いてじっとそれに視線を注ぐ。しばらくじっと見てから収納に収めたローリー。家にある保冷庫の中から取り出した水を一口飲んでから立ち上がると一軒家を出てリゼの公立図書館に足を向けた。
図書館には冒険者にとって有用な情報も本になって纏められている。図書館に入ったローリーは司書に聞いた場所に移動するとそこには彼が探していた本がいくつか棚に並んでいた。
『アイテム集』『レアアイテムと呼ばれるアイテムについて』
2冊の本を棚から取るとテーブルに座って目を通していく。1冊目のアイテム集はいわばアイテムリストで、そこに載っているアイテムのほとんど全てはローリーの知っているアイテムだった。一応最後まで目を通したがガラスの小瓶に入っている液体の記載はない。最初に読んだ本を閉じ次の本を手に取ると今度はゆっくりそれに目を通していく。
その本を読んでいたローリーの視線が止まった。
<蘇生アイテム>
ー 過去から言い伝えられているレアアイテムの中で最もレアなアイテムといえばこれだろう。この世界には死んだ人間を生き返らせると言われている蘇生アイテムが存在すると言われて続けているが実際にそのアイテムを見たもの、そして使用して蘇生されたという人間はいない。噂だけが代々語り注がれてきたアイテムである。ー
ローリーはそこまで読んでがっかりした。本当に情報がないのだろう。余りにあっさりとした記述だ。まぁせっかくだからもう少し読もうかと再び本に目を向けたローリー。しばらく読んでいると再び目の動きが止まった。
ー 蘇生アイテムを含めレアなアイテムの鑑定は通常の鑑定士ではまず不可能である。それほどに鑑定レベルが高いアイテムがこの世界には存在している。そして一方でそれらの一般には鑑定不可能と言われているアイテムを鑑定する人間もこの世界には存在しているのは紛れもない事実である。一説によると森の民であるエルフ、砂漠の民、彼らの中にはかなりの鑑定レベルを持っている者がいると言われてきている。それは彼らの生活が鑑定なしには成り立たないからである。食糧が潤沢ではない砂漠、食することができる草と人体に毒となる草が共存している森の中。そう言う場所で暮らす彼らにとっては鑑定は生きていくために必要不可欠な能力なのだ。ひょっとしたら彼らなら一目見てそれが普通では鑑定できないレアなアイテムであると見抜くかもしれない。 ー
本から視線を上げたローリーはそのまま顔を天井に向けた。砂漠の民かエルフか…。
心の中で呟いた彼は再び本に目を通したがその後は彼の琴線に触れる様な情報は何もなかった。
本を戻して図書館を出た時には日がどっぷりと暮れていた。ローリーは街の中にある屋台で簡単な食事を買い、その食事を手に持って自宅に戻ってくると自宅の前で立っている女性2人が目に入ってきた。大柄な女性と小柄な女性だ。彼女らも家に近づいてきたローリーに気がついた様でこちらを見て手を上げてくる。大柄な女性は見たこともない様な皮の防具を身につけており、小柄な女性は一見して魔法使い、精霊士とわかる濃い色のローブを着ている。
「家に灯りが点いてのが見えたからね。ダンジョンから戻ってきたんだろうと思って顔を出してみようとやってきたんだよ。それとギルマスからあんた達のパーティをランクSに昇格する申請をしたって聞いたしね」
大柄な女性の方が声をかけてきた。
「なるほど。まぁ入ってくれよ。こっちからもドロシーらに話があったんだよ」
ローリーが扉を開けると後に続いて女性が2人一軒家に入ってきた。
「他のメンバーは?ランデイらはどこかに行ってるの?」
家に入るなりドロシーが聞いてきた。その言葉を聞いたローリーが首を左右に振る。
「嘘でしょ?」
ローリーの仕草で理解する2人。ギルドと同じ反応だ。嘘じゃないんだよと言うと
「ちょっと待って、他のメンバーも呼んでくるから」
そう言ってドロシーと一緒に家に上がっていたもう1人の女性、カリンがローリーの家を飛び出していった。そう待たずに4人がローリーらの一軒家に入ってきた。
彼女達もこの街所属のAランクのパーティだ。女性ばかりの5人組だがその実力は相当高いレベルにありローリーらと同じ様にこの街の地獄のダンジョンである龍峰のダンジョンを攻略している。そして彼女らもこのリゼの街で一軒家を借りてそこを拠点にしていた。
メンバーとジョブは、
ドロシー (ナイト) ケイト(戦士) シモーヌ(狩人)
ルイーズ(僧侶) カリン(精霊士)
同じランクA同士、そして共にリゼ所属のトップクラスのパーティという関係からして彼女らとは以前から交流がある。大柄な女性がドロシーといい、盾ジョブでかつこのパーティのリーダをしている。ドロシーを含めて5人全員が美人だが皆ランクAの雰囲気を醸し出している。簡単に声をかけるのがはばかれる雰囲気だ。
女性5人が揃うとローリーが龍峰のダンジョンでの顛末を話する。黙って聞いている彼女達だがボス戦の話を聞くと全員が目に涙を溜めていた。
「きついわね」
しばらくしてからドロシーが言葉を絞り出す様にして言った。
「ああ。俺だけ生き残ってしまった」
「これからどうするの?」
ケイトも同じ様に涙声のまま聞いてきた。
「さっきまでは4人の遺体をそれぞれの故郷に埋めようと思っていた。それが残された俺がやるべき事だとな」
「さっきまで?」
どう言う事といった表情のドロシー。ローリーは女性全員の顔を見回してから図書館での話をする。そうして収納から小さなガラス瓶を取り出してそれをテーブルの上に置いた。女性達の視線がそれに注がれる。
「このガラスの小瓶に入っている液体の中身を知ろうと思っている。可能性は極めて低いとは思うけれどこれはひょっとしたら蘇生アイテム、あるいは蘇生アイテムを作る為に必要な薬品の1つかも知れないと思ってな。何せギルドでも鑑定できないアイテムだ。間違いなくレアアイテムだろう。そしてこれが本当にレアな蘇生アイテムそのものならそのまま誰かの体にかければいいんだろうけどもし蘇生アイテム自体が合成品でそれに必要な薬品の1つがこれだったら使った時点でもう終わりだ。もう一度ブラックドラゴンと戦闘して勝たないと手に入らない。いや、勝ったとしても手に入ると決まった訳じゃない。だから仲間の遺体をそれぞれの故郷に戻す前に俺はこのアイテムが何かを知りたい。と同時にもし蘇生アイテムなるものが本当にこの世界に存在するのであれば地の果てまでもそれを探して彼らを復活させたい」
「ギルドでも分からないのならそれなり、いや相当鑑定レベルが高い人をまずは探さないといけないね」
カリンの言葉に頷くローリー。
「レベルの高い鑑定士はもちろん、それ以外にこの世界の伝承や歴史に詳しい人もさがさないとな」
頷いたローリーが言った。
「砂漠の民やエルフの長老か。砂漠の民なら南のネフド国、エルフは住んでいる場所がわからないけど噂じゃネフドのさらに南にあるクイーバ共和国の大森林の中って言われているわ。エルフなら何か知ってそうよね、長寿だし」
「後は図書館の情報以外だと東の海の向こうにあるツバル島嶼国。あそこも独特の文化を持っているから鑑定レベルの高い人がいてもおかしくないよね」
ケイトに続いて僧侶のルイーズが言った。今あげた国はいずれもここトゥーリア王国からは南に位置する国だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます