第37話

 洞窟はまっすぐに伸びていた。微かな灯りなので奥まで見通せない。かと言って奥がどうなっているのかわからない中でこちらから灯りを作るのはリスクが高すぎる。


 薄暗い洞窟を進んでいた4人がほぼ同時に足を止めた。そしてお互いを見る。


「ダンジョンボスだな」


「ああ、間意外ない。この先がボス部屋だ」


 地獄のダンジョン、火のダンジョンの最下層、ボス部屋に到達した4人。

 

 通路の先から大きな気配が漂ってきた。気配感知に優れているローリーは少し前から気づいていたがその場を動く気配を感じられなかったので黙っていた。


 「このダンジョンでの最後の戦闘になるだろ。思い切ってやろう」


 ランディが拳を突き出すと他の3人が拳を突き出した。

 各自がポーション等の薬品を直ぐに取り出せる様にベルトの小物入れの中を確認する。この作業ももルーティン化していた。ローリーが強化魔法を掛けると行くぞというランディの声で彼を先頭に洞窟を進みだした。


 洞窟は先で下りの階段になっていた。10段ほどの下に降りる階段の先には円形の広い場所がありその中央にボスらしき魔獣が四つ足で立って階段の上の4人をにらみつけている。


 体長が20メートル程ある真っ赤なボディのドラゴンだ。


「ここもボスはドラゴンか」


 ボスを見て呟いたランディ。


「ブレスか魔法に気を付けて。長い首を後ろに反らせて口を開けたら発動だ。ブレス以外に尻尾や足の攻撃も強力だぞ」


「「わかった」」


 ローリーの言葉に頷く忍の2人。

 行くぞと叫んだローリーが階段を走って降りていくと同時にドラゴンがその首を後に反らせた


「散れ!」


 大声を出すと同時に階段を飛び降りて左右に分かれた3人。すぐにブレスがランディを襲う。それを予想してたランディは盾を突き出してその背後に体を隠す姿勢になってブレスを受け止める。神龍の盾の効果はボス戦でもしっかりと有効だった。


 ブレスダメージを50%カッとすることによりランディへのダメージはかなり少ない。その上に受けたダメージの40%を自分の体力に還元するので実質ノーダメージと同じだった。しっかりと受け止めたランディが敵対心を増やせる挑発スキルを発動してボスドラゴンのタゲをしっかりと取る。

 

 左右に分かれた忍のカイとケン。何も言わなくとも前足に二刀流の刀で切り付けて足に傷を負わせていく。


 ランディに強化魔法をかけ直したローリーが魔法を打ち出した。効果のある属性を探るためにさまざまな属性の魔法を撃つ。


 最初は水魔法を撃った。火のダンジョンだからその反対属性の水だろうと予想を立てたが思いの外ダメージが与えられない。その後氷、雷、風、土、光と魔法を撃つがどれも効果がない。

 

「まさか……」


 ローリーが火の精霊魔法を撃つとそれを受けたボスドラゴンの挙動が変わった。


「弱点は火だ」


 大声で叫ぶローリー。


「マジかよ」


 攻撃を受け止めながらランディが同じ様に叫んできた。方針が決まった。3人のフォローをしながらボスの顔に火の精霊魔法をぶつけるローリー。魔法が顔に当たると一瞬動きが止まる。その際に左右の忍の2人が足を刀で切り裂いていく。


 ドラゴンはタゲを持っているランディにブレスを吐き、時折前足を伸ばして押し潰そうとするがブレスは止められ前足は片手刀で切られてどろどろの血を流しておりそれほど威力がない。


「油断するな。飛翔するぞ」


 龍峰のダンジョンでの経験から叫んだローリー。前もそうだった。ボスの体力を削っていきこれならいけるぞと思った時に突然飛び上がって魔法をばら撒いたのだ。


 目の前のボスのブレスをまともに受け止められるのはランディだけだ。他の3人に直撃したら即死だろう。3人もそれをわかっているから攻撃にメリハリをつけ決してボスドラゴンのタゲを取らない様にしていた。


 ローリーは回復魔法、強化魔法、そして精霊魔法を撃ちながらボスドラゴンの挙動を見逃すまいと相手を見続けていた。ドラゴンが首を後に反らせた瞬間に半開きの口に火の精霊魔法を撃ち込むとドラゴンのブレスが止まる。


「ローリー、ナイスだぞ」


 ランディから声が飛んできた

 タイミングは分かった。次も合わせて止められるだろう。


 ボス戦が始まって30分以上は経っているだろう。ゆっくりとだが確実にボスの体力を削っていく4人。数度首を反らせたがその全てをローリーの火の精霊魔法で止めていた。


 これなら勝てる。そう確信したローリーだがボスのドラゴンが予想もしない動きに出た。


 空を飛ぶ代わりに急にその場で体を回転させた。あっという間の出来事だった。

 

 ケンが回転したドラゴンの長い尾の攻撃をまともに受けて広場の壁にまで飛ばされた。ローリーが見るとぴくりとも動かない。


「ケンは後だ。全力で倒そう」


 ケンが飛ばされて動きが止まっていたランディとカイだがローリーの言葉で我に帰ると3人で総攻撃を開始した。ボスドラゴンも最後の抵抗で回転したのだろう。カイの刀が前足を切り裂いて体のバランスを崩したところにランディの片手剣が目と目の間に突き刺さり、同時にローリーの火の精霊魔法がドラゴンの顔に命中した。


 大きく体を反らせたドラゴンが首を持ち上げるとそのまま床の上に倒れ込み、開けていた目が閉じられた。


 たった今ツバル島嶼国にある地獄のダンジョン、通称火のダンジョンがクリアされた。



「ケン!」 


 ドラゴンが倒されると同時に3人が壁にまで飛ばされたケンの下に走っていった。

 完全に首の骨が折れて絶命しているのは誰の目にも明らかだった。


 カイがケンの亡骸を抱えて号泣している中、ランディとローリーはボスドラゴンが消えた場所に現れた大きな宝箱に向かうとそれを開ける。


 中にはものすごい数の金貨や武器が入っていたが2人の目的はそれではなかった宝箱の中に手を突っ込んで探し回っていると宝箱の底の方でランディの手に何かが触れた。


「あったぞ」


「金貨の山から手を抜いたランディの手の中には龍峰のダンジョンで見たのと全く同じ小さな小瓶が握られていた」


 それを持ってカイの近くに戻る2人。


「いいのか?それってお前たちが探していた蘇生薬だろう?」


 涙目でカイが言うが、


「何を言ってるんだ。ケンも仲間だ」


「そうだ、蘇生薬はまた取りにくればいい。それよりもケンを蘇生させるぞ」


 目の前でケンが死んだ。普通ならケンが死のうがどうしようが自分たちの目的の天上の雫が宝箱の中に入っていたらそれをローリーの中で眠っている自分たちの仲間に使うと思うだろう。


 ただランディもローリーもそうはしなかった。このダンジョンを攻略していく過程でカイもケンも眠っている仲間と同じかけがえのない自分たちの仲間だと認識していた。蘇生薬を使う事に2人とも何の躊躇いもない。


「本当にいいのか?」


「いい。くどいぞ、カイ。それよりケンの上半身を裸にしてくれ」


 カイがケンの忍装束を脱がせて上半身を裸にさせるとランディから小瓶を受け取ったローリーがやるぞと言って小瓶の蓋を開けると中の液体をゆっくりと彼の胸のあたりに垂らしていく。


 液体は身体を流れることなく全てがケンの体内に吸収されていった。


「ランディの時と同じだ」


 そうして全ての液体を体内に注ぎ込むとケンの身体が光出した。


 光が消えるといつの間にか首がもとの正常な場所に戻っており、


「う、うううん」


 声をあげてケンがうっすらと目を開けた。


「「おおおお」」


 見ていた3人から歓声があがる。目覚めたケンに抱きつくカイ。


「ほ、本当に生き返った。よかった、よかったぁ」


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