第36話
ローリーが収納から食事を出して準備をしているとケンが立ち上がって洞窟の入り口に向かって歩いていくのが見えた。
「洞窟の中には入らないでくれよ」
ローリーのその声で足を止めたケン。そのまま振り返った彼にローリーが言った。
「ひょっとしたらこの洞窟がボス部屋への入り口になってるかもしれない。となると誰かが入った時点でボス部屋と繋がってボスが出てくるかあるいはこの洞窟が閉じられてしまうか。いずれにしてもその洞窟を調べるのはしっかり休んでからにしよう」
ローリーの説明に納得するケン。聞いていた他の2人もなるほどという顔をする。
すまなかったというケンにいいんだと言ったローリー。
「考えていたんだ。このスロープの長さ、高さ、そして敵が襲ってこないという事を。そして考えた俺の結論はこのスロープがすでに50層の入り口になっているんじゃないかということだ。そう考えると49層にいるSSSクラスの魔獣やワイバーンが襲ってこない理由もつく。それまでは階段が安全地帯だったが49層から50層の間は階段ではなくこのスロープじゃないかってね」
驚くと同時に感心した表情になる3人。ランディも流石にそこまでは気が付かなかった様で目を見開いて驚愕した顔になっていた。
「確かに言われてみればその通りだな」
ローリーの説明で状況を理解したランディが言った。彼はそう言いながら目の前に座っているローリーの能力の高さに感心していた。普通なら階段が次のフロアへの目印だからまず階段を探す動きをする。ただ彼はその階段が見つからないという事実から別の答えを見つけ出してくる。
正に言われてみればその通りだ。無駄に長いスロープ、そしてかなり高い場所まで行かされる。普通ならこの狭い通路にいればワイバーンから見れば俺たちは格好の獲物だ。でも実際はワイバーンは全く襲ってこなかった。
ローリーが言う様にここが50層へ続く階段と同じ効果がある、あるいはスロープがすでに50層だとしたら襲ってこない理由もつく。洞窟に入ろうとしたケンの動きを制止したがそれも彼の予想が正しければ十分にあり得る話だ。
一筋縄ではいかないのが地獄のダンジョンだ。と。そして自分たちは今、正にその一筋縄で行かない状況の中にいるのだと。ただその一筋縄ではいかない状況を1人の賢者が次々と打破している。
「ここは大丈夫か?」
「大丈夫だろう。安全地帯は必ずある。ここが大丈夫でなければすでに洞窟の奥で何か異変が起こっていて俺たちが気づくはずだ。そしてここから先は安全地帯が無い可能性がある。だからここでしっかりと休もう」
細心かつ大胆に考え、動く。ローリーが得意とする事だ。
カイとケンはローリーがいなければ絶対にここまで降りて来られなかっただろうと思っていた。そしてこれからこのダンジョンに挑戦する者がいるとすればローリー並みの観察力と実力がないと無理だろうと言う事も同時に思っていた。
力任せだけで攻略させてくれるほど甘くない。ランディとローリーが言っていたが本当にその通りだ。あちこちにギミックがあり一方で安全地帯もしっかりと用意している。ダンジョンと冒険者との知恵比べと力比べ。これを同時に行いながら攻略していかなければならない。
ランディはずっとローリーと一緒に活動をしているがそれでも彼の観察力、洞察力の凄さには何度も驚かせてきた。今回もそうだ。視野が広く状況を分析する能力に長けている。言っている内容に説得力があるし多くの場合、彼の予測通りだ。
こいつが仲間で本当に良かった。
しっかりと食事をして体力を回復する。そして交代で睡眠を取る。
おそらく次がダンジョンボスとの戦いだろうと全員が感じていた。ボス戦となれば今まで以上に万全の態勢で臨む必要がある。
十分な休養、食事をとった4人。49層の攻略を開始してから3日が過ぎていた。彼らはスロープを登った先の広場、奥に続いている洞窟の前で準備をしていた。
「おそらくボスが俺たちを待っているだろう。ボスが何であってもやることは変わらない。48層のあのNMを倒しているんだ。俺たちは俺たち自身が思っている以上に強いぞ」
仲間を鼓舞する様にランディが言う。彼はもちろん戦闘の技量も高いし、リーダーシップもあるがそれ以外にモチベーターとしても極めて優秀な男だ。今も聞いていた忍の2人が大きく頷いていた。もちろんランディの盾としてのスキルだってSランクに相応しいのは言うまでもない。
「もし洞窟に入って異変があったら奥に進まずにここを戦闘場所にしよう。ボスはきっとでかい。奴が奥から出てきてこの狭い場所に出てきた方が俺たちに有利になる」
ローリーの作戦を聞いている3人。
「そして洞窟に入って入り口が閉ざされたら腹をくくるしかないな。ボス部屋での戦闘になるだろう。最後にこの洞窟がただの通り道だったとしたら50層はまだ先だということだ」
そう言うローリーだが言った本人も聞いていた3人も間違いなくここがボス部屋あるいはそれに続く洞窟だろうと感じていた。
「ボス戦だが今までやってきた戦法を変える必要はない。相手が誰であっても俺たちができる事をやるしかないんだ。ランディはしっかりとタゲをキープしてくれ。カイとケンは好きに動いてダメージを与えてくれ。ボスの遠隔攻撃か魔法には気をつけてくれよ。火のダンジョンと言われているくらいだからブレスを吐くボスかも知れない。それに気をつけてボスに傷をつけてくれ。俺はみんなのフォローをしながら魔法を撃つ。今までやってきたことの集大成をボス戦で見せてやろう」
ローリーがそう言って拳を前に突き出すと3人が同じ様に拳を突き出してきた。
「やってやろうぜ」
「そうだ。思い切りやってやろう」
カイとケンが拳をぶつけながら言う。
「そうだ。タゲは俺に任せろ、思い切り暴れようぜ」
もう一度拳を合わせた4人。行こうかというランディの声で4人が一塊になって洞窟の中に入っていった。最後にローリーが入った直後に両側から壁が伸びて洞窟の入り口が封鎖された。閉じられてた入り口を振り返る4人。
「奥に行くしかなくなったな」
カイが言った。
「ローリーの予想の範囲内だ。何も問題ないな」
ほのかに光っている灯りを頼りに4人は洞窟の奥に進み出した。
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