第35話

 さっき出てきた洞穴にまた戻ってきた4人。門番の様に立っていた2体の魔獣はおらず、あれは一度倒すとPOPして来ない仕様になっている様だ。


「一体どうした?」


 右に走っていると思ったら突然背後から引き返せというローリーの声が聞こえた。3人はお互いに信用しているので理由も聞かずに引き返してきた。


「いくら洞窟を探しても見つからないぞ」


「どういうことだ?」


 ローリーの言葉にカイが聞いてきた。


「次の部屋へ続く洞窟というか下に降りる階段は俺たちがいた地面にはないんだ」


 どう言うことだという顔をする3人を見てローリーが言った。


「山の中腹にあるんだ。そしてそのスロープの登り口は右じゃなくて左側なんだよ」


「「!!!」」


 ローリーは最後尾で3人のフォローをしながら次の部屋へと続く洞窟を探して首を左右に振っていた時に顔を動かしたタイミングで壁の中腹に違和感を感じた。よく見ると奥の壁というか崖に沿ってスロープが伸びているのがチラッと見えたのだ。スロープは崖に沿って上手く隠してあって遠目や下から見ると見えない様になっていた。半信半疑で戻れと声を出して洞穴に戻りながら注意深く壁を見ていると洞穴をでて左に走ったところに岩がありそこからスロープがスタートしているのが見えた。それも巧妙に隠されていて普通なら気が付かないだろう。スロープを目で追って言って初めて登り口を見つけたくらいだ。


「よく気がついたな」


「ああ。あのちょっとした崖の違和感に気が付かなかったらずっと右側を歩いていただろう。絶え間なくSSSクラスと戦闘しながらね」


「それにしてもスロープにしてるとはな」


「ローリーの言った通りだ。一筋縄ではいかないな」


 4人は再び休憩を取るが次の部屋へのルートが見つかったので皆表情が明るい。このフロアは広さはそうでもないがスロープを見つけられなければ延々とSSSランクとの戦闘が続く仕様になっていたのだ。


「見た限りスロープ上には魔獣がいなかった。そりゃそうだろう。隠しているスロープの上に魔獣がいたらそこに道があるのが分かるからな」


「となると警戒するのはワイバーンだけか」


「そうなるな。ただ今右を走っている限りではワイバーンはあの近くを飛んでいなかった。楽観は禁物だがな。いずれにしても空は俺が見るからみんなは足元に気をつけて進んでくれ。相当幅が狭いスロープだと思う。落ちたら助けられないぞ」


 ローリーの話を聞きながらまた彼の観察眼に救われたと3人は思っていた。常に冷静で同時に周囲を見ている。前衛に比べれば周囲を見る余裕があると言ってもここは49層、周囲はSSSクラスが徘徊しておりその中を前3人のフォローをし自分でも魔法を撃ちながら周囲を警戒して違和感やサインを見つけるのは簡単ではない。


 カイとケンはトゥーリアの2人と組んで自分でも分かる位に強くなっていったがそれでもローリーには敵わないと思っていた。戦闘能力だけじゃない、周囲を見る観察力、目の前にある自称から先を予測する推理力、そして総合的な判断を下せる指揮能力。全てが今までに会ったことがないレベルの冒険者だ。


 強いだけじゃあ地獄のダンジョンはクリアできない。冒険者としてのトータルスキルが要求される。その点においてローリーが仲間にいることが忍の2人に取ってはとてつもなく大きなアドバンテージになっていることを再認識する。


 洞穴に戻ってきた4人は少し休憩をすると今度は左手の壁沿いを進みだした。相変わらずSSSクラスの魔獣が闊歩し溶岩の川が流れている中を暫く進んでいると


「これか?」


「それだ。その岩の裏にスロープがあるはずだ」


「あったぞ!」


 先頭を進んでいたランディが高さ1メートル、幅が2メートル程ある岩に飛び乗ってその背後に降りると叫んだ。直ぐに他の3人も同じ様に岩を飛び越える。


「狭いな」


「慎重に行こう」


 一定の幅ではなく広い所で50センチ、狭い所は30センチ程しかない道がゆっくりと壁沿いに上に伸びている。スロープを登り始めて分かったがこのスロープは壁の方に向かって傾斜している様だ。そのせいで地面に立っているとスロープ部分が見つけにくくなっていた。


 歩き始めてそれに気が付いたローリーが一番後ろから声をかけると


「確かにな。嫌らしい造りだぜ」


 とカイの声が飛んでくる。幸いにスロープが安全地帯になっているのか登り始めるとフロアを徘徊している魔獣達がこちらに意識を向けなくなった。空を飛んでいるワイバーンもしかりだ。あとは慎重に上るだけだがそのスロープの先を見てみると大空洞のかなり上の部分にまで伸びているのが見えていた。


 当然だが登りのスロープから落ちたら終わりだ。大怪我をするかマグマの川に落ちるか、あるいはSSSクラスの前に落ちるか。いずれにしても落ちた瞬間に冒険者人生、いや自分の人生が終わるだろう。


 大空洞の壁に沿ってスロープは狭い幅で上に伸びていた。登り始めていくと足元の幅は相変わらず30センチから50センチ程だがそのスロープを歩いていると丁度胸やお腹の辺りに崖の岩が盛り上がって凸凹のある崖になってきた。上半身だけを外側に反らせて凹凸部分を回避して向こう側に回る。足を踏み外せば終わりだ。4人は黙々とスロープを登り続けていた。休憩しようにも幅が狭くて腰を下ろせる場所がない。


 登り始めて3時間が経つがまだスロープは上に向かって伸びていた。


「焦るなよ。敵が襲ってこないということでここは安全地帯なんだ。慌てる必要はないぞ」


 最後尾から声をかけるローリー。確かにスロープを登り始めてからは一切魔獣の攻撃を受けていない。ここの大空洞はスロープをどうやって見つけるのかが肝になっているんだろう。


 疲れるとスロープの右側にある壁に凭れて水分を取る4人。立ったままだがそれでも止まって水を飲むだけでも楽になる。


 そうして再びスロープをゆっくりと登り始めた。


 結局登り始めてから6時間以上が経った頃スロープの先に洞窟の入り口が見えてきた。そこは地面からは500メートル以上の高さのある場所だった。登り切った先に幅5メートル、高さも5メートル程の洞窟の入り口がぽっかりと口を開けておりその洞窟の入り口付近はちょっとした広場になっていた。


 入り口まで登った4人は流石にぐったりとしていたがまずは全員で洞窟の入り口から奥を覗いてみる。中は左右の壁に松明がともされており明るくなっていた。奥までずっと続いている様だが長さが分からない。


 そして見える限り洞窟に魔獣の気配はなかった。


「恐ろしい高さだな」


 洞窟の前の広場から下を覗いていたカイ。


「ダンジョンの不思議だよな。49層の大空洞がこんな高さがあれば普通なら他の層に影響が出るはずなんだがな」


「洞窟の奥までは分からないが腹を括ってここで大休憩しよう」


 ローリーが言って洞窟の入り口で野営をすることにする。

 食事をしながらも話題は上ってきたスロープの事だ。


「このスロープが見つからなかったら相当苦労してただろう。あのだだっ広いフロアをずっと彷徨っていたのは間違いない」


 次のルートを見つけられないと高ランクの敵を相手に延々と洞窟のうろうろさせて疲労させ挑戦者の気持ちを折る。いやらしい造りになっているフロアだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る