第45話

「さてとアルバトに頼んだ武器の強化ができるまで1ヶ月だ。その間どうするか」


 ドロシーらと食事をした翌日の昼、4人は宿の食堂に集まっていた。皆冒険者の格好をしている。武器は各自の魔法袋に入っている予備というか昔メインで使っていた武器を装備していた。各自が食事をオーダーした後でランディが3人を見た。


 新しい武器が出来上がるまで1か月、その1か月をどう過ごそうかという問いだ。


「普通に考えりゃ予備の武器を使ってこのまま地獄のダンジョンの攻略だろう」


 自分自身はヒヒイロカネの強化をしていない狩人のマーカスが言った。


「武器の質が落ちてるからいきなり49層は厳しいかもしれんぞ」


「俺もハンクの意見に同意だ。先週までと同じ武器の感覚で動いたら怪我をするかも知れない」


 ハンクとランディは片手剣の強化を依頼している関係で以前使っていた片手剣を装備しているがそれに慣れてから49層の攻略をしたいと言う。


「武器の強化が終わるまでは他のダンジョンで身体を動かしてはどうかな。1ヶ月待ては今より優れた武器が手に入るのがわかっている。ここまで来て急ぐこともないだろう。

階段を降りたところから49層の様子を伺えなかったからどんなフロアになっているのかが想像できない。しかも49層だ。上の層で有った様に通路に出たら背後が閉まって撤退できないことも考えると少なくとも我々は何が起こっても対応できる自信を持つことが必要だ。その自信を得る為にも新しい武器を待って、そしてそれに慣れてから挑戦すべきだと思う」


 最後にローリーが言った。聞いていたマーカスも3人の発言に筋が通っているのであっさりと自説を撤回する。


 方針が決まった。リモージュにある他のダンジョン身体を動かすのかはランディがギルドに顔を出して情報を取る事にする。全員で行く必要もないし、行けば余計な詮索をされる可能性もある。それに目的は攻略より身体を動かすことだ。時間をかけずにSランクあたりがいるフロアに到達できるダンジョンが良い。


 自分達が攻略した48層を思い出しながらローリーが言った。昼食が終わるとランディが行ってくると一人でギルドに顔を出してギルマスのサヒッドに面会を求めた。


「ヒヒイロカネが出たのか。流石に地獄のダンジョンの深層部だな。噂じゃネフドの国王陛下がヒヒイロカネから作った剣を持ってるって話だが現物を見たって話は聞いたことがない。恐らく王家の宝物殿にでも納められてるんだろうって話だ」


 ギルマスの話を聞いていたランディ。王家の宝物殿に納められるほどのレアな金属なのだ。だとすればそれを使った武器がどれくらいの強さになるのかが楽しみだ。


 その武器が出来上がるまでの約1ヶ月の間に地獄のダンジョン以外のダンジョンで体を動かしたいがお勧めはあるかいと聞いたところギルマスから2箇所のダンジョンの紹介を受けた。


「どちらもここリモージュから3、4時間で行ける場所にある。ギルドのレポートによれば5層からAがちらほらと出たして10層からはSランクが出るらしい。お前さん達の肩慣らしには良いんじゃないか?」


 ちなみに1つは全部で15層のダンジョンでボスはSSランクだという。数年前にクリアされて以来誰もクリアできていないらしい。


「その時にクリアしたのもクイーバの連中でな。ネフドの奴らでクリアしたのはいないんだよ。お前さん達もトゥーリア人だしな」


 サヒッドは自分の国の冒険者がクリアしていないのが不満の様だがランディにしてみたらそれはどうでも良い話だ。ダンジョンのクリアを目指している訳でもなく単なる時間潰しで身体を動かせれば良いと考えている。そう思っていても微塵も表情には出さずにギルマスの話に合わせて相槌を打っていた。


 ギルマスのサヒッドが言ったもう1つのダンジョンは20層でこちらはネフドの冒険者達がクリアしているという。

 

「どちらでも好きな方に挑戦してくれて構わない。ランクSの冒険者に制限はないからな」


 礼を言ってギルドを出たランディ。宿に戻って夕食の時に聞いてきた2つのダンジョンの話をする。元々身体を動かすのが目的の4人だが15層の方が難易度が高そうなのでそちらにしようと決まった。


「ここに来て攻略が1ヶ月遅れることになるが身体だけ動かしておいて新しい武器が来たら一気にボスまでやっちまおう」


 夕食の時にランディが言った言葉に同意する3人。ビンセントを1日も早く蘇生させたいという気持ちは強いが焦りは禁物だし功を焦って攻略できるほど地獄のダンジョンの深層部が楽じゃないのはここにいる全員が知っている。ここで1ヶ月待つことでに新しい強化された武器を持つことが結果的に一番早く、そして一番良い方法だと理解している。


「ところでドロシーらは次は48層の攻略か」


 ランディが話題を変えた。


「そうだろう。48層は単純に力技で攻略できるフロアだった。彼女たちなら問題ないだろう。ただそのまま49層に挑戦するかどうかは別だ」


 ローリーはそう答える。どう言うことだと3人がローリーに顔を向けた。


「地獄のダンジョンの怖さを知れば知るほど無謀な事はできないと思う様になる。そして彼女達は俺たちの方がずっと装備が良いってことを知っている。自分たちが先陣を切って49層に挑戦するとは俺は思えない」


「力技だけじゃなく意図やヒントを読み解く力が足りないと自覚してるからか?」


「それもある。さっき俺は48層のクリアは問題ないだろうと言ったがクリアの仕方だな。本当に楽にクリアしたのなら49層にも挑戦するって言うだろう。もし結構ギリギリだったら躊躇するんじゃないかと思う」


 ローリーとランディがやり取りしているのをハンクとマーカスは黙って聞いている。この二人もわかっていた。こちらは4人しかいないがそれでも5人の彼女らよりは戦闘力と知力が上であることを。知力はローリー頼りなのだが。それでもパーティとしての合計点で言えばこちらの方が上になる。


「彼女達の素晴らしいところは自分たちの力量をしっかりと把握していることだ。無理をして良い場面かそうでない場面かの見極めができる。だから48層のクリアの仕方を見て考えるんじゃないかと思うんだよ」


 イケイケだけじゃ地獄のダンジョンは攻略できない。引く事も大事だし、考えるのも大事だ。それができないパーティは地獄のダンジョンの罠にハマって大怪我をしたり最悪は命を落とす。


 いい機会だとローリーは今まで考えていたことをこの場で言うことにした。天上の雫、蘇生薬のドロップが良すぎると考えているということ。龍峰、そして火のダンジョンからは2つでた。レア中のレアドロップ品がここまで出るのは異常としか思えない。


「今までが順調過ぎたんだ。だからここ流砂のダンジョンでは出る確率はグッと低いんじゃないかと思っている。というか本来のドロップ率が低いのだと思う。今までがバカつき状態だったんじゃないかってね」


「言われてみればそうだな。必ず落とすアイテムじゃないんだろうなということは俺でもわかる」


 ランディが言うとその通りだとローリー。だからここで出なかったら次はクイーバに行きたいと提案した。


「流砂のダンジョンをもう1度挑戦するっていうのはどうなんだい?」


 ハンクが聞いてきたがそれについても自分の意見を述べるローリー。あれほどダンジョンの意図やヒントを読み取る必要がある難易度の高いダンジョンを一番最初に攻略した者に対するレアドロップ品の中の1つが天上の雫ではないかと。つまり2番目以降にクリアした者に出すドロップ品のリストの中にレア中のレアアイテムは含まれていない気がすると。


「なのでここで出なかったら未クリアのクイーバに行きたい。それでも出なかったらエルフに頭を下げるしかないかと思ってる。幸いにドロシーらが同じ様に挑戦している。どちらが先にクリアするかは別にして2パーティで攻略した際のドロップ品を見ればわかると思うのだが俺の勘では出るとしたら1番最初のパーティで2番目以降は出ないんじゃないかという気がしているんだ」


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