第46話

 ローリーの話が終わると3人ともう〜んと唸り声を出した。


「確かにあのヒントが公になれば攻略の難易度はグッと下がるよな」


 しばらくの沈黙のあとマーカスが言った。これまでちょっとしたヒントを探して正解を見つけてきたがそれとてローリーだから出来たことで普通ならそこまで読みきれない。それが公になるとダンジョンの難易度が下がる。それでも厳しいのに違いはないが1番目にクリアした者の攻略難易度には及ばない。それがドロップに影響する可能性は確かにあると。


「他のダンジョンの攻略を思い出してくれ。未クリアのダンジョンを攻略した時のドロップ品というのは結構良いものが出ていなかったか?」


 ローリーがそう言うと過去の活動を思い出しているメンバー。そしてそう言われればその傾向があるという話になった。


「先駆者利益。高難易度である地獄のダンジョン。幸運。この3つが重なって初めて蘇生薬を手にいれる可能性が出てくる。俺はそう考えている」


「つまり1度クリアした地獄のダンジョンを再挑戦してももう1度蘇生薬が出る確率はゼロ(0)だと言うんだな」


「そうだ。0は何回挑戦しても0なんだ。だからここで出なかったら場所を変えてクイーバの大森林のダンジョンに挑戦したい」


 ハンクの言葉にそう答えたローリー。

 検証できない事柄ではあるがローリーの言っていることは理解する3人。付き合いの長い彼らはお互いの性格や能力を理解しあっている。その中でローリーは参謀、知恵袋として仲間たちから認知されていた、いや仲間たちからだけではなくローリーを知る人は皆彼が並外れた知力を持っている男だと知っている。知力とは知識を詰め込んでいるだけではない。それはもちろん必要だがその基礎知識の上に重ねられている考え方、物の見方。それらを総合して知力と呼んでおり、その知力が桁違いに高いというのがローリーに対する評価だ。もちろん冒険者としての能力もピカイチであることは皆認めていた。


 感情論や根性論だけでは上位冒険者として大成しない。


「さっきローリーも言ったがドロシーらと俺たちがこのダンジョンをクリアした時に見えてくるだろう。ドロップ品で天上の雫が出ればよし、出なかった時にボスが落としたアイテムを比較してみよう」


 ランディがそう言ってから続けた。


「そしてもしどちらのパーティからも出なかったら俺はクイーバに行くのは賛成だ」


 ハンクとマーカスもランディの言葉に賛同する。これからのパーティの方針が固まった。旧装備で49層は攻略しない。新しい装備ができるまでは身体を動かす目的で他のダンジョンに挑戦する。流砂のダンジョンで天上の雫がドロップしなければ次の目的地はクイーバ共和国にある地獄のダンジョン、通称大森林のダンジョンだ。


 そこでも出なかったらもう一度エルフに頭を下げて世界樹の恵みをもらうことにする。これはいつになるかわからないが逆に言えば一番確実な方法だ。エルフがOKすればだが。


 とりあえず明日は休養日にして体を休め、明後日から普通のダンジョンに挑戦というか身体を動かす目的で入ることにした彼ら。翌日の休養日にランディはリモージュの市内にある武器屋に顔を出していた。彼が持っている武器は今強化中でこの世に2つとない業物だがそれはそれとして武器を見るのが好きなランディ。ツバルでもそうやって訪れた武器屋で掘り出し物の片手剣を手に入れている。


 冒険者御用達の武器屋や防具屋は朝と夕方が忙しい時間帯になっているのが多い。街を出る前に装備を買い替えたり、街から戻ってきてギルドで精算をして金を得て買い換えると言ったケースが多い。昼前後は客も少なくて暇だろうと思っていたランディ。店に入ると彼の予想通り他に客はいなかった。


 陳列棚に綺麗に並んでいる武器を見ていると店の奥から男が現れた。気配で顔をそちらに向けるといかにもネフドの民と言った格好と顔つきの男だ。


「探し物かい?」


「探し物というか掘り出し物があるかなと思ってね」


「片手剣か。今手にしてるのもなかなかの物だな。それ以上となると。ちょっと待ってな。あんたには店頭品は似合わないだろう。奥から持ってきてやる」


 武器屋の男はランディを一目見て相当できると見抜いた。そこらに大勢いる冒険者とは醸し出している雰囲気が全然違う。Aランク、いやそれよりも上だなとあたりをつけると奥からいくつか箱を持ってきて店のテーブルの上に置いた。


「これはネフドのダンジョンボスや下層の宝箱から出た剣だ」

 

 そう言って箱を開けていく親父。名前はヤマニと言う。この店の店主だそうだ。

ランディが身を乗り出して見るとまぁまぁの武器だがどうしても欲しいという程でもない。


「なかなかのものだがどうしてこれを見つけた奴らは自分たちで使おうとしないのだい?」


 テーブルに置かれている武器から顔を上げてヤマニを見た。


「さぁな。聞いた事はないが恐らくそこまで真剣じゃないんだろうよ」


「真剣じゃない?」


 店主のヤマニがいうにはネフドの冒険者の多くは金策の目的でダンジョンに潜るのがほとんどらしい。強くなりたいという気持ちが見えないやつが多いのだと言う。


「そんな奴らでも普通のダンジョンならクリアする実力がある奴らもいる。そいつらはダンジョンのボスや宝箱から出たアイテムはすぐに店に持ち込んで現金化するんだ。自分で使うやつもいるが少数だな。大抵は金策だよ」


 ランディは話を聞いていて腑に落ちることがあった。ギルマスとの会話でもここの地獄のダンジョンを攻略しているのは他の国の冒険者が多く、ギルマスから紹介されたダンジョンもクリアしているのは別の国の冒険者だと言っていた。つまりはそう言うことだ。言い方は悪いがネフドの冒険者は最低限の線さえクリアしておればそれで良いという考えをしている者が多いと言う事だ。


 結局ランディの気を引く様な武器はなかった。お礼を言って店を出て通りを歩きながら武器は見つからなかったがこの国の多くの冒険者達の考え方がわかったのは収穫だったなと思いつつ常宿に戻っていった。


 冒険者である以上強くなりたい、ダンジョンなら下層に降りていきたい。そう思うのが当然だろうと思っていたが中にはそうでもない考えをする冒険者もいるんだという話を夕食の時にメンバーにしたランディ。


「俺たちにはできない生き方だな」


 ハンクが言うと、マーカスも俺たちには無理だと言う。


「俺とローリーがツバルにある火のダンジョンをクリアした時の相手の忍2人も言っていた。彼ら2人は地獄のダンジョンに挑戦したいと思っていたが他のメンバーがそこまでしなくてもいいじゃないかと言って結局方向性の違いでパーティを解散したとな。いろいろな考え方があるのは自由だ。ただそこそこで良いだろうという奴らとは一緒には動けないな」


 ローリーは黙ってやりとりを聞いていたがランディの言う通りだと思っていた。今はメンバー4人が揃っている上に助太刀は仲間のドロシーらだ。それ以外からの応援は必要ないがあの時忍の2人が中途半端な気持ちの持ち主だったらツバルのダンジョンをクリアすることはできなかっただろう。人を見るというのは言葉にすれば簡単だが実際は難しい。あの2人と知り合えたのはラッキーだったと思い返していた。

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