第47話
ランディらが地上で体を休めている時、ドロシー達のパーティは正に48層を攻略している最中だった。47層のクリア後に疲労が溜まっていたこともあり長めの休養を取った彼女達。しっかりとリフレッシュをしてから48層に挑戦する。装備ではランディらに劣るがそれでも普通の装備に比べるとずっと上位のものであり、さらに元々の技量が高い連中の集まりでもあったので時間はかかるものの確実にフロアを攻略していた。
「きついけど良い鍛錬になるわね」
「本当にそう。SSランクの複数体リンク処理。これは他では経験できないわよ」
シモーヌとケイトがやり取りをしているのを聞いていたドロシー、ルイーズ、カリンが頷いている。
「ランディら程じゃないけどうちらも装備関係が充実してきている。だから攻略出来ていると言えるね」
ドロシーが冷えた水を美味しそうに飲んでから言った。彼女達が言う通りに装備が充実してきているのは事実だがそれに加えて各自の戦闘力のアップや知力のアップらが合わさった結果地獄のダンジョンの48層の攻略が出来ているとも言える。
ケイトの提案でこのままここで野営することにした。ここから先の様子は分からない中安全に休める場所でしっかりと休んだ方が良いだろうという判断だ。結果的にはランディらと同じ行動パターンになった。
一流と言われる冒険者達はこうして結果的に同じ行動をとることが多い。それが一番良い方法だと初見でも判断できる実力があるからだ。まだ元気だからもう少し進もうと言ってそのまま帰ってこない冒険者達のなんと多いことか。現状を理解しこれからの先をある程度予想して行動することで余計なリスクを回避し、結果的に早く攻略することができる。自分たちを過信しないが過小評価もしない。この見極め、バランスを取ることができるパーティがランクを上げていく。
ドロシーらは48層で湧いてくるスケルトンに対してもランディらと同じく狩人のシモーヌが見事な腕前で骨の間にある核を傷つけては倒していく。リゼでNo.2を張っているのは伊達ではない。シモーヌ以下全員が効率的な動きをしてSSクラスの敵を次々と倒しながらフロアを進んでいた。
「左に行って!NMがいるわ」
サーチしていたシモーヌが叫んだ。5人は目の前のスケルトンを倒すと広い洞窟の中を正面に見えている洞穴ではなく左の方に進んでいった。そこには他のスケルトンより2回りほど大きいスケルトンが徘徊していた。たまたまなのかその周囲に他の敵はいない。
ケイトは周囲を見るが洞穴の様に引き込む場所が見つからなかったので決断する。
「ここで倒すわよ。カリン、悪いけど周囲の警戒をお願い。リンクしそうになったら教えて!ドロシーはカリンとルイーズが壁に背中を向けられる位置取りでお願い」
「分かった」
「任せて」
ケイトが指示を出している間にルイーズが全員に強化魔法をかけた。ドロシーが先頭に立って骨のNMに近づいていくとこちらに気がついたNMが手に持っている片手剣を振り上げてドロシーに襲いかかってきた。それを交わしてスケルトンと自分の位置を調整するドロシー。その間にカリンとルイーズが壁際に移動しシモーヌも同じ様に壁を背にした。
その3人の位置取りが終わるとドロシーとケイトで骨に剣をふるう。シモーヌは弓を構えて核に狙いをつけていた。このNMの核は肋骨の間、人間でいう心臓の位置にあるが通常のスケルトンよりも肋骨の間隔が狭くその隙間を通して矢を核に命中させなければならない。ドロシーとケイトが攻撃を加えるしスケルトン自身も前衛の2人に攻撃をしてくるので常に身体は動いており核が見えたり隠れたりする。
ランディの盾程ではないが、ドロシーが持っている盾も普通じゃ手に入らない程の優れものだ。相手の物理、魔法のダメージ20%減少させると同時に受けたダメージの20%を体力に還元するという優れものだ。骨NMが持っている片手剣の攻撃をしっかりと受け止めていた。普通の盾なら盾ごと背後に吹っ飛ばされる程の攻撃をしっかりと受け止め、時にな受け流しながらタゲを取り続けている。
ケイトはNMの横から剣を振るってNMの注意を反らしていた。この骨NMの弱点は核だ。そしてその核を破壊できるのは狩人のシモーヌしかいない。自分とカリンは牽制役だと理解している。その言葉通りカリンもタゲを取らない程度の精霊魔法を絶え間なく骨NMに撃っている。ルイーズはドロシーのフォローに徹しきっていた。
4人は上手く動いている。あとはシモーヌに任せるだけだ。
そのシモーヌはじっと弓の弦を張ったままNMを見ていた。かなりの力を使っているが一瞬の隙を逃してはいけないといつでも矢を射ることが出来る姿勢を続けていた。
ケイトの剣とカリンの魔法、そしてドロシーの片手剣が少しずつダメージを与えていたのかNMの動きが遅くなり肋骨から核が見える時間がほんの少しだけ長くなる。
一撃で仕留める。
そう決めていたシモーヌ。
「ふんっ!」
気合と共に矢が飛び出すと間隔の狭い肋骨の隙間を抜けてNMの核の中心に命中する。
それまで剣を振り回していたNMの動きが一瞬止まり、次の瞬間に骨がバラバラになって崩れて地面に落ちた。綺麗に割れた核も骨の間に転がっている。
「見事だよ」
ドロシーが言ったタイミングで地面に転がっていた骨や核が消えるとその場に大きな宝箱が姿を現わした。
近くにいたドロシーが箱を開けると中には多数の金貨、そして指輪、腕輪、ズボンが入っていた。
「結構枚数が多いね」
金貨をアイテムボックスに収納するルイーズ。全部で300枚あったと分かり歓声があがる。他のアイテムも地上で鑑定をしてもらおうと全てをアイテムボックスに収納した5人は次の洞窟に通じる通路に入り、周囲を警戒してそこが安全だと確認できると腰を下ろす。
「ランディらの後に48層に挑戦してNM戦に勝利、鑑定が楽しみだわ」
「金貨300枚なら1人60枚でしょ? 十分にリモージュに来た元が取れておつりがくる位だね」
NMを倒して実入りがあったので彼女達の声も明るい。
しっかり休んだ彼女らはその後48層を攻略し地上に戻ってきた。
アラルの店に持ち込んで鑑定をしてもらう。テーブルに置かれたアイテムをじっと見ていたアラルが顔を上げた。
彼が順に鑑定結果を報告していく。指輪は回復魔法+2でこれはルイーズが装備することになった。腕輪は体力+2だった。盾をしているドロシーが持つ。そして最後のズボンだが、
「珍しいのが出たな。遠隔攻撃+3の効果がある。狩人にとっては良い装備だ」
それを聞いて全員がおおっと声を上げた。狩人の威力アップの装備はなかなか無い。しかも+3のアップとなるとまずないだろう。狩人のシモーヌは大喜びしている。
「48層のNMからと言ったか。最深部まで行くと良い物がでるな。また何か出たら鑑定はしてやるが無茶はするなよ」
ローリーやランディを通じてアラルともすっかり馴染みの関係になったドロシーらのパーティ。アラルは人付き合いが悪いという評判だった。それはアラルをただの鑑定屋と下に見て鑑定を依頼してくる者に対してはつっけんどんな対応しかしなかったのでそう言う評判が立っていたのだが実際は彼は人間味にあふれ、人の痛みや苦しみがわかる男だった。
鑑定を依頼する方も鑑定する方もどちらも同じだ。そこに上だ下だと言った関係はない。ローリーは最初からアラルという人間を尊重して接してきた。だからこそアラルも自分を包み隠さずに見せてローリーと信頼関係を築くことができた。そしてそのローリーの友人達も皆ローリーと同じだった。
「叔父さん、最近ずっと機嫌がいいみたい」
甥っ子のクマールに言われてそうかと穏やかな顔で頷くアラルだった。
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