第13話

「落ち着いてやればそれほどいやらしいNMじゃなかったわね」


 NM部屋から洞穴に戻ってきた5人はそこで再び休憩を取る。扉は5人が出るとしばらくしてから閉じられた。アイテムボックスから飲み物を取り出しているルイーズが言った。


「1度切りのNMじゃない。ということはそれほどじゃないって事ね」


「その通りよ。でも1,000枚は嬉しいわね」


 周りで皆が一息つきながら話をしているのを聞いていたケイト。


「ボスの前にNM戦で勝利。悪い流れじゃない。このまま49層をしっかりとクリアしてボス戦で勝利しましょう」


 以前の彼女達なら大喜びしただろうが流砂のダンジョンをクリアし、実力をつけている今の彼女達から見ればさっきのNM戦は勝って当然という気持ちの方が強い。


 自惚れているのではなく各自が自分の技量が上達していることを実感し、確信しているからだ。


「いい?ランディ達が50層のボスを倒した時の彼らの装備よりも今の私たちの装備の方が上よ。つまりしっかりとやれば負けないってこと。ここ49層も同じ。今の私達ならなれるわよ」


 ケイトが全員に気合を入れた。しっかりと休んだ彼女達は再び49層の攻略を開始するがケイトが気合を入れたこともあり時間はかかったものの危なげなくドラゴンを倒して50層に降りてきた。


 いよいよボス戦だ。


 50層のボス部屋に入る扉の前で5人が車座に座ると最後の打ち合わせをする。


「皆もランディらの一軒家であの時一人だけ生き残ったローリーから聞いた話は覚えていると思うけどもう一度確認の意味で言うわね」


 ケイトがそういうとボス戦のポイントを話していく。序盤から中盤まではボスは飛び立ったない。確実に削っていける。終盤になると突然飛び立つと同時に首を振って雷のブレスを吹きまくってくる。


「ネフドのリモージュでローリーともう一度話をしたんだけどね、あの時彼らの前でボスがブレスを吹きまくったのはランディのヘイトと同じ位のヘイトを他のメンバーが稼いでいたからだと彼は言ってるの」


 ローリーによると終盤の追い込みで全員がヘイト無視で一斉に殴りかかったらしい。そうしたらドラゴンが飛翔して首を振りながらブレスを吐いた。あれはドラゴンにヘイトを載せているメンバーをターゲットにしたのではないかという。


「つまり常にドロシーがガッチリとヘイトを稼いでいるとあのブレスはドロシーにしか来ない。100%確信がある訳じゃないけど恐らくそうだろう。ローリーとはそういう話をしたの」


 そう言ってから具体的なボス戦の進め方についてメンバーに話をする。

最初ドロシーがガッチリとボスのタゲを取った時点から攻撃をする時間と攻撃をしない時間を交互に作る。攻撃をしない時間を作ることでドロシーにたっぷりとボスのヘイトを稼いでもらう。これで中盤から終盤まで進めてからはドロシー以外の3人は間隔を開けて攻撃する。具体的にはドロシーには定期的に挑発スキルをうってもらい彼女が挑発をした直後に攻撃をし再びドロシーが挑発するまでは攻撃しない。


「カリンは1度だけだから大きな魔法でお願い、シモーヌは矢で2度攻撃して。私も片手剣を2度振るから。それでしばらくボスから離れて待機するの。ルイーズもできるだけヒールの回数を減らして」


「時間はかかるけどそれが一番確実にボスの体力を削れるだろうね。私は問題ないよ」


 一番きついところを担当するドロシーが言った。彼女は盾の性能が良いのでここをクリアした時のランディよりも今の自分の方が強いのは間違いないとよと言った。


 カリン、シモーヌも問題無いという。ルイーズはいつも通りドロシーの背後でフォローだが今回はブレスを警戒してドロシーに魔法が届くギリギリの距離まで斜め後ろに下がってそこで仕事をすることになった。


「ブレスが来たらあとは全員で遠慮なく攻撃しましょう。逆に言うと2度目のブレスが来る前に倒さないとやばい」


 ドロシー以下他のメンバーはケイトの話を聞きながら彼女が成長したと感じていた。今までは参謀と言いながら皆の意見を伺う様な聞き方だったが流砂のダンジョンを攻略してた頃からしっかりと考えた作戦、自分の意見を言う様になってきている。ローリーから教え込まれたいろんなアドバイスをしっかり自分の物にしている。


「ケイトの作戦で行くよ。メリハリをつけてね。ヘイトは私に任せて」


 ドロシーが言うと頼むわよと全員が言った。



 ドロシーが扉を開けると事前に聞いていた通り広場の中央に全長20メートル以上あるブラックドラゴンが鎮座していた。扉を開いて5人が中に入るとゆっくりとその場で四つ足で立ち上がってこちらを睨みつけてくる。


「行くよ」


 ドロシーの声でボスとの戦いが始まった。最初の挑発スキルでしっかりとボスのヘイトをとったドロシー。次の挑発スキルが発動するまではドロシーとボスの1対1の戦いが続く。ドラゴンが前足で蹴りを繰り出してくるのを盾で受け流して大きなダメージを喰らわないドロシー。この辺りは流石にS級冒険者の盾をやっているだけはある。無駄な動きがない。


 ドロシーが2回目の挑発スキルを発動した。その直後にカリンから大きな精霊魔法、ドラゴンの斜め後ろに位置取りしているシモーヌから属性矢が2本放たれ、ケイトも持っている片手剣を左足に2度振り下ろした。それが終わるとすぐにボスから離れる4人。ルイーズも一度だけドロシーにヒールをして体力を回復させている。


 ゆっくり、確実にボスの体力を削っていく5人。ボス戦が始まって結構時間が経っているが5人は集中力を切らさずに打ち合わせの通りに攻撃しながら目の前のボスと対峙していた。


「そろそろ来るわよ。次の挑発の後はしばらく攻撃中止で」


 ケイトの声が部屋に響く。ドロシーがリキャストごとにうつ挑発。その挑発が発動するとまた4人が動いてドラゴンに攻撃を加えると壁際に離れた。ドロシーは左手に盾を持ち、右手には片手剣を持ってそれを突き出しては攻撃してくるボスの足にダメージを与えている。挑発スキルと攻撃のダメージでしっかりとボスのヘイトを持っていた。


 ボスが踏ん張って飛翔しようとしたその時


「ドロシー!」


 ケイトが叫ぶとすぐにドロシーが盾の背後に身を隠した。その直後浮き上がったボスから雷のブレスがドロシーに直撃する。広場の周囲に散っている4人はひょっとしたら自分のところにもブレスが来るのではといつでも動ける準備をしていたがボスの首は動かすにドロシーだけにブレスを放っていた。


「総攻撃よ!」


 ブレスが終わった直後、今までセーブしていた3人が一斉に全力で攻撃を始めた。大きな精霊魔法が続けて辺り、背後から横に移動したシモーヌの矢が次々とボスの首に命中する。ケイトもボスに近づいて片手剣を振り、突き上げてその体に傷をつけていった。ここで倒さないと自分達がやられる。その思いだけで体力や魔力を気にせずに全てをボスにぶつけた5人。


 ボスが大きな叫び声を上げたかと思うとその巨体が広場の床に倒れ込み。睨みつけていた目が閉じられた。


 ゆっくりと倒れたボスに近づいていく5人。戦闘態勢を解除せずに見ているとやがてボスの体が光出し、最後は光の粒になって消えると同時にボスがいたその場所に大きな宝箱が現れた。


「「やったわ!!」」


「ああ。やったよ、私たちも龍峰のダンジョンをクリアしたんだよ!」


 大声で叫ぶ5人。

 

 彼女達はランディらに続いて2組目の龍峰のダンジョンをクリアしたパーティとなった。

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