第12話
彼女らの予想通り、49層は空と地上にノーマルドラゴンが徘徊するフロアだ。大きな空洞になっているフロアには何メートルもあろうかという岩がそこらじゅうにゴロゴロしているので体を隠すことができる。
「基本は見つからずに隠れて移動。もう一度言うけどここをクリアするとそのまま50層のボス戦になる。気持ちはわかるけど前のめりにならない様にしましょう」
ケイトが自分に言い聞かせる様に他のメンバーに言う。2つ目の地獄のダンジョンのクリアが目の前になった今、気持ちが前のめりになりがちになる。49層をクリアしてボス戦にという考えになって目の前の49層に対する攻略において注意力が散漫になる可能性がある。他の事を考えて49層をクリアできる程地獄のダンジョンは甘くない。ケイトもそれをわかっているから自戒も含めてしつこい位にメンバーに語りかける。
「ケイトの言う通りだよ。50層の前にこの49層を全力で攻略するよ」
ドロシーが全員に気合を入れ、49層の攻略が始まった。ドラゴンは単体ではドロシーらでも倒せるがリンク、それも3体となると無理だ。せいぜい2体まで。それもできれば避けたいと考えている。地面の上にゴロゴロしている大きな岩の陰に隠れシモーヌの弓で1体を釣っては5人で倒し、また前方の大きな岩を目指していく。最初は順調だったがフロアを攻略していくと大きな岩の数は減り、身を隠す場所が少なくなってきた。
「目の前と空の2体を倒したら左に、壁に洞窟があるわ」
岩陰から前方を見ていたケイトが言った。他のメンバーも見ると確かに左前方の壁に洞窟が見える。ただしその前にはドラゴンが1体、そして隠れている大きな岩と洞窟との間には地面を徘徊しているドラゴンが見える。空を飛んでいるドラゴンに攻撃をすれば間違いなく洞穴の前にいるドラゴンとリンクする。
「ドロシーとルイーズで地上のドラゴンの相手を。他の3人は空のドラゴンをやるわよ。ブレスが来そうだと思ったら下がるか左右に逃げて。できるだけ早く倒して地上のドラゴンに移りましょう」
「ルイーズがフォローしてくれるのなら耐えてみせるさ」
ドロシーが言った。ルイーズも任せてと言う。
シモーヌの矢から戦闘が始まった。首筋に矢を命中させると飛んでいたドラゴンがこちらに向かってきた。と同時に洞穴の前にいたドラゴンもこちらに向かってくる。ドロシーが挑発スキルを発動して地上のドラゴンのタゲをとった。シモーヌ、ケイト、そしてカリンはヘイト無視でドラゴンに攻撃する。シモーヌとカリンの矢と魔法が数上命中すると飛んでいたドラゴンが地上に降りた。すぐにケイトが片手剣を振ってドラゴンの体に傷をつけていく。
「来るわよ!」
ケイトの叫びと同時に3人がその場を離れ、その直後にシモーヌがいた場所に炎のブレスが飛んできた。恐怖はあるが倒すしかない。幸いに連続してブレスを吐かないので一度吐いたあとはチャンスになる。
3人が全力で攻撃したことで空から地上に降りたドラゴンがみるみる体力を削られ、最後はカリンの精霊魔法が命中して絶命した。すぐに3人はドロシーがキープしていたドラゴンにターゲットを移してこちらも全力で攻撃をして無事に2体の討伐に成功する。
2体目が倒れると全員が洞穴の中に走っていき、中に入ると手分けをして洞穴の中を調べた。
「これ見て」
洞穴の奥に近い部分の横壁を調べていたシモーヌが声を出した。全員が近づいて見ると
壁の一部の色が変わっている。その色の違う部分を指先でなぞっていたケイトが振り返って全員を見た。
「隠し部屋かもね」
「どうする?」
ドロシーが言った。
「攻略する前にここでしっかり休まない?おそらくあそこを押すと壁が崩れて奥に続く道が現れると思うの。逆に言うと何もしなければここは安全地帯よ」
ケイトの言葉で全員がその場に腰を下ろした。ルイーズがアイテムボックスから食料と水を取り出して洞穴の地面に置くと全員がそれに手を伸ばした。
「49層のNMについてはランディらのパーティから何か聞いているの?」
ドロシーが言うと全員が首を横に振る。
「初見になるのね」
「49層の隠し部屋のNM。普通に考えればかなり強い。でも私たちも強くなってる。相手が何であってもやることは同じよ」
ケイトが言うと全員がそうねと頷いた。ケイトはこのメンバーの中でNMを前にして戦闘をせずに休むだけにしようと考えている仲間がいないのを表情から確認する。
「まず最初はドロシーが相手のヘイトをがっちり取る。私たちはそれから攻撃開始ね。ルイーズはドロシーのフォローで」
「任せて」
しっかりと休んだ彼女達。ドロシーが行くよと言って色が変わっている壁の一部を押すとその部分が奥に押し込まれると同時に壁の一部が音を立てて横に開いた。開いた先は洞窟が奥に伸びている。壁がぼんやりと光っているので視界は悪くない。先を見ると30メートル程先で右に直角に曲がっている。
ルイーズが全員に強化魔法をかけると、ドロシー、ケイト、ルイーズ、カリン、シモーヌの順で洞窟に進み出した。先で右に曲がると20メートルほど先に下に降りていく階段が見えてその先には広場の一部が見えている。
階段の上に立って広場を見た5人。そこには彼女達が予想したドラゴンではなくこの龍峰のダンジョンの中層で相手にしたリザードが3体横に並んでいた。ただこのNM部屋にいるリザードは中層で見たそれよりも体のサイズがずっと大きい。
リザードとは恐竜でいうティラノザウルスの様な形をした魔獣で強力な後ろ足のキックと尾を振り回して攻撃してくる。中層のリザードはブレスを吐かなかったがここにいるのはわからない。
「ドロシー、真ん中のに挑発入れて。彼らのヘイトを見てからまた指示をする」
ケイトがすぐに指示を出した。中央のリザードに挑発を入れて左右のリザードが一緒に向かってくればこの3体のヘイトは連動していることになる。もし1体だけが来たのなら他の2体がどのタイミングで動き出すのか予測がつかない。近づいたら攻撃してくるのは間違いないだろうが、どういうヘイト管理をしているのかわからない。わからないから無理はできなくなる。
「3体来たらドロシーが一番ヘイトをとっている敵、まずは中央のから倒すわよ」
「「分かった」」
シモーヌとカリンが同時に声を出した。
ドロシーの挑発で戦闘が始まった。中央のリザードに挑発を入れると左右のリザード2体も同時にドロシーに襲いかかってきた。3体のヘイトは連動している様だ。
「中央のから行くわよ」
3体が同時に動き出したのを見たケイトが叫ぶと同時に階段を降りて広場に出るとドロシーの横に並んで真ん中のリザードに片手剣を振る。シモーヌはすぐに広場の反対側に移動するとそこから矢を射りはじめた。カリンも精霊魔法を撃つが自分にターゲットが移らない様に間隔を開けて魔法を撃つ。
3体がドロシーにキックをしてくるが盾でガッチリと受け止めている。すぐに背後からルイーズがヒールをかけて削られた体力を回復する。
「時間かけるわよ」
ケイトのその叫びで彼女が言おうとしていることを理解する4人。焦らずにゆっくりと削っていこうという指示だ。
流砂のダンジョンで手に入れた盾が見事な働きをして相手の攻撃をしっかりと受け止め、リキャストごとに挑発を入れるドロシー。真ん中、右、左とリキャごとに3体のリザードに挑発を入れてヘイトを稼ぐ。
「カリン!」
ケイトの声を聞いたカリンが大きな精霊魔法を撃つと中央のリザードが倒れた。すぐに右側のリザードに集中的に攻撃する。
「来るわよ!」
そういうとすぐに右に逃げたケイト、ルイーズもドロシーの背後から離れ、ドロシーは盾の中に身を隠すと右側のリザードが炎をブレスを吐いてきた。
「大丈夫だよ」
ブレスが終わるとすぐにドロシーの声が聞こえてきた。ルイーズがヒールをし、他の3人が右のリザードに攻撃を再開する。やがて右のリザードが倒れ残り1体となった。ここでも5人は焦らずに今まで通りにドロシーにしっかりとタゲを取らせて間隔を開けた攻撃で敵の体力を削っていく。
左のリザードもブレスを吐いたがそれを交わすと一斉に攻撃しやがて3対目のリザードも地面に倒れて光の粒になってきてると広場の中央に大きな宝箱が現れた。
ドロシーが開けると1,000枚を越える金貨が入っていた。
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