第11話
ランディらよりは少し早いタイミングでドロシーら女性5人のS級パーティは龍峰のダンジョンの48層に到達する。45層から登場したノーマルサイズのドラゴンの対処も慣れてきて危なげなく討伐できる様になった。
これは彼女達に実力があるからで普通の冒険者ならまず全滅コースだろう。その前にこの下層まで降りて来られない。
48層は天井がない空間だった。寒空の下、寒冷地の荒野の様な景色が目の前に広がっている。雪は降ってはいないが生えている草木はどれも葉がついておらず枯れ木があちこちに見えていた。
その荒野の中を体長10メートル程のドラゴンが見える範囲で5体徘徊している。お互いの距離は離れているがリンクしないという確証は無い。
「洞窟なら壁沿いという基本があるけどこのだだっ広い荒野だと壁はないだろうね」
階段を降りたところに立って前を見ている5人。リーダーのドロシーが声を上げてからどうする?と顔をケイトに向けた。
「ランディやローリーが言っていたのを思い出して。龍峰のダンジョンはギミックよりも力で押していくフロアばかりだったって。つまりどこに向かおうが結局はあのドラゴンを倒しながら進んで行かなければならない。となると下手な小細工をしない方が良いと思うの」
「真ん中を突っ切るってこと?」
「そう」
精霊士のカリンが言った言葉に頷くと彼女は4人を見た。
「1体のドラゴンを出来るだけ早く倒す。これに尽きると思う。リンクする前に倒しながら前に進むの。カリンとルイーズは魔法の出し惜しみをせずにガンガン使って。MPポーションで減った魔力を補充しながら進みましょう。必ず安全地帯はある。シモーヌもサーチはせずに攻撃に専念して欲しいの。安全地帯はサーチでは見つからない。幸いに視界は悪くないから皆の目で周囲を警戒しましょう」
ケイトの説明に納得した4人は荒野を突っ切る準備をする。MPポーション、普通のポーションを直ぐに飲める様にポケットに移し、武器の確認をする。シモーヌは矢筒にたっぷりと矢を補充した。
全員の準備が完了したところでドロシーが行くよと声を上げて荒野に進みだした。ドロシー、ルイーズ、ケイト、カリン、最後にシモーヌの並びで荒野を進みだすと階段の場所からも見えていたドラゴン1体がこちらに気が付いて大きな音を立てて地面を走りながら襲い掛かってきた。
ドロシーの挑発スキルで戦闘が開始される。がっちりタゲを取る前から矢と精霊魔法がドラゴンに放たれた。敵対心マイナス装備を持っているシモーヌとカリン。今までの戦闘からドロシーのタゲをキープする感覚、そして自分達のヘイト管理についてもしっかりと物にしていた。
格上との敵が連続する地獄のダンジョンの下層部、今まで下層を攻略してきた経験と
ネフドの流砂のダンジョンで最下層まで攻略しクリアした自信が重なってこの5人はS級にふさわしい実力を見つけている。
「この調子で行きましょう」
「いい感じだね」
短時間でドラゴンを倒した5人は真っすぐに荒野を進んで行く。ドラゴンの攻撃でもっとも警戒すべきはブレスだ。これをドロシーがしっかりと盾で受け止めてくれると他のメンバーが楽になる。ドロシー自身も敵対心アップの装備を身に付けており敵の攻撃をがっちり受け止めていた。
「そのドラゴンを倒したら左に走って!小屋があるわよ」
戦闘中にケイトの声が飛んだ。48層の攻略を開始してから4時間。ほぼ休みなく戦闘を続けてきたのでそろそろ安全地帯がある筈だと周囲を見回していた彼女達。ドロシーの後ろで彼女をフォローしていたルイーズが声を出した。戦闘場所から左前方数百メートルの所に平屋の建物があるのを見つける。
ドラゴンを倒すと全員が走って小屋を目指した。近づくと木で作られた平屋の小屋だ。
「大丈夫」
サーチを使ったシモーヌが言った。ドロシーを先頭にして小屋の中に入る。10メートル四方の小屋の中には何もないが全ての壁には木枠にはめられているガラス窓がある。全員が大きな息を吐いて木の板の床の上に腰を下ろした。
「結構ギリギリの場所に安全地帯を作っているわね」
「そうね。ここまで休みなしで戦闘を続けてきたけど結果的に正解だね」
窓の外を見ていると枯れ木の影が伸びている。時間の感覚があるフロアだ。陽が暮れて暗くなったらこの小屋を見つけられたかどうか。彼女たちだから4時間ちょっとでここまでこられている。これが5,6時間かかっていれば陽が暮れてもっとこの小屋が見づらくなっていただろう。
「ここで野営だね」
ドロシーの声に頷くケイト。
「しっかり休みましょう。カリンとルイーズは時間を気にせず完全に復調してね。無理をしたらこの後がきつくなるから」
「わかった」
ルイーズのアイテムボックスから取り出した夕食を食べる5人。
「これからどう見てる?」
食事をしながらドロシーがケイトに顔を向けた。
「あと1回、ひょっとしたら2回は野営だと思う。進軍のペースは今日の感じでいいんじゃないかしら。明日以降で敵の数がどうなるかは分からないけど1体辺りの討伐の時間は今日のペースを続けましょう。カリン、ルイーズは今日のペースで大丈夫そう?」
「私は大丈夫。ドロシーが以前よりもずっと安定しているから回復魔法の回数が減ってるの。強化魔法メインにしてるからそう疲れていない」
分かったと言ったケイトは視線をルイーズからカリンに向けた。
「私は正直ギリギリだった。途中で1度MPポーション飲んだし。明日はもう少し精霊魔法の回数を落とした方が良いかなって思ってるの」
カリンの精霊魔法の威力は高い。ローリー以外であれば彼女を越える精霊魔法が撃てる精霊士はいないだろう。今のこのパーティにとっても大きなダメージソースになっている。
「分かった。じゃあ明日からは前半は抑えて追い込みからガンガン魔法を撃ってくれる?」
「そうね。それなら問題ないかな」
「きつくなったらすぐに教えてね」
「うん、分かった」
地獄のダンジョンの最深部の48層。体調を誤魔化すとそれは自分に返ってくる。出来る事は出来る、出来ない事は無理だとはっきりと意思表示することがパーティの安全に繋がるということはここにいる5人全員が理解していた。
「48層のドラゴンがずっと地上を徘徊しているとしたら、次の49層では空を飛んでいるのがいると思った方が良いわ。そしてそのままボス層。ボスについてはローリーから聞いているけど49層は聞いてないの。だから難しいけど大胆かつ慎重に行きましょう」
同格以上の相手(敵)と対峙するときに攻撃のパターンを1つしか持っていないのであればそのパーティはせいぜいB級止まりでそこから上には上がれない。選択肢を複数持つことができて初めてA級が見えてくる。
さらにその複数の選択肢全てが同じ技量となり防御に関しても複数のパターンを持って初めてS級が見えてくる。
S級になる為に倒す相手は一筋縄では倒せないレベルの魔獣が多い。様々な攻撃パターンに全てに対応できないと倒す前に倒されてしまう。
ドロシーらのパーティはA級の時から攻守に関して複数の選択肢を持っていたパーティであり、それが地獄のダンジョンに挑戦することによってその技量が更に高められていた。今カリンが言った状況を聞いてすぐにパターンを変える提案が出来、他のメンバーも直ぐにそれを受け入れられるという時点でS級としての資格が十分にある。
安全地帯の小屋でしっかりと疲れを取った5人は48層の攻略を再開する。打ち合わせ通りにカリンは前半は抑え気味にし、後半の追い込みから精霊魔法を撃ってドラゴンを倒していった。その後もう一度小屋を見つけてそこで野営をし、3日目の夕刻に49層に降りる階段を見つけた。
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