第10話

 ランディらは41層をクリアして今は42層の攻略中だった。ここはジャングルの罠のフロアだった。魔獣の数は多くない。多くないが魔獣が徘徊していない場所にはそこらかしこに罠が仕掛けられている。


 透明な蜘蛛の糸、落とし穴、木の上から落ちてくる大きな木の実など何かトリガーに触れると作動する罠で溢れている。そんな中を4人はゆっくりと進んでいた。このフロアを攻略し始めてすぐにローリーはここが罠が散りばめられているフロアだと気がついた。なのでパーティの並びを戦闘エリアと罠エリアで変えることにした。戦闘エリアではランディ、ハンク、マーカス、そして最後尾がローリーだが罠エリアになると先頭のランディはそのままでその後にランディ、ハンク、そして最後尾にマーカスとする。


 マーカスは定期的にサーチスキルを使って周囲の魔獣を探し、魔獣がいるとそこは戦闘エリアとなり全員で魔獣を倒しながら進むが魔獣がいなくなるとそこは罠のエリアとなるのでローリーの能力を使ってゆっくりと進軍するという作戦を取っていた。能力とは気配感知能力ではなく周囲との違和感を見つける能力だ。これはローリーが長けている。


 たった今魔獣を倒した直後にマーカスが言った。


「周囲、前方に気配はない。しばらく罠のエリアとなるぞ」


「了解。じゃあ並びを変えよう」

 

 魔獣が徘徊する戦闘エリアが終わったと聞いて並びを変更した4人。進み出す前にローリーが言った。


「脇道ではなく、この一本道を進もう」


「そうだな。それが正解だ」


 ジャングルの中に土の道が伸びている。その周囲は膝くらいまでの高さの下草、雑草が生えていて足元が見えない。そこにはどんな罠が仕掛けられているかも知れずリスクを犯して道なき道を進むことはせず一本道をゆっくり歩いていく4人。


「待て」


 短くローリーが言うと全員が足を止める。


「右前方、木の上に魔獣がいる。蜘蛛だ。見えないが前に糸が張られているぞ」


「分かった。任せろ」


 ランディが片手剣を振り回しながらゆっくりと進むと剣先に糸が絡みついてきた。と同時に上から蜘蛛が降りてくる。体長1メートルはある大きな蜘蛛だ。すぐに背後からマーカスの矢が飛び、ローリーの精霊魔法が蜘蛛に命中して光の粒になる。


「本体はそれほど強くないんだが蜘蛛の糸に絡められて動きが鈍くなった時には脅威になるな」


 精霊の弓を放って全て命中させていたマーカスが言った。


「蜘蛛自体も弱くないぞ。俺たちが強くなってるからそう思うだけじゃないのかな」


「ハンクの言う通りだと俺も思う。いずれにしても糸に絡まると面倒だ。ローリー、引き続き頼むぞ。ゆっくり進むのは全然構わないからな」


 そうして少し進むとまたローリーが全員を止めた。ランディの前方5メートルほどの道の土の色が微妙に周囲と違う。


「落とし穴だろう」


 道端にあった長い木の枝で色の違う地面を強めに数度叩くと地面が割れて落とし穴が現れた。


「結構深い」


 穴を避ける様にその周囲を回ってから再び前進する4人。罠のあるエリアが基本魔獣が襲ってこないので4人は道端で休憩を取る。ジャングルのダンジョンだがこのフロアは今までのフロアよりも蒸し暑かった。全員が冷たい水を飲み、タオルで汗を拭いていた。


「蒸し暑いからイライラとして駆け出してもしたら次々と罠が待ち構えていると言うわけか」


 そう言ってボトルの水を首の後ろからかけて涼を取ってるハンク。


「そうだろう。フロアの大きさもジャングルだから見えない。蒸し暑い。魔獣の姿はない。となるとここで急ごうとなりがちだがそれが罠になってるな」


 ハンクの仕草を見ていたランディがそう言うと彼と同じ様に首からボトルの水を垂らす。


「上の層の罠よりも見つけにくく、そして規模が大きい。罠のエリアでは時間をかけてっゆっくりと進もう」


 帽子とローブに温度調節機能がついているローリーは他のメンバー程汗をかいていなかった。カシアスの街で仕入れた果実汁を飲んで喉を潤している。果実汁を飲みながら他の3人の様子を見るが汗はかいているが体力を消耗している感じではない。自分を含めてメンバー全員、余力はまだ十分にありそうだ。


 休憩をしながらマーカスがサーチで周辺を探ってみたが魔獣の影はないという。蜘蛛もいなさそうだ。罠のフロアはもうしばらく続くだろうが周囲を警戒しておけば十分に攻略が可能だということになる。


 小休憩を終えた4人は罠のエリアの時の並びで1列になり、ゆっくりとジャングルの中に伸びている小径を奥に進んでいった。途中では蔦が切れると矢が飛び出してくる罠や地面にある蔦に足を取られるとそのまま木の上まで引っ張り上げられる罠などがあったが全て事前に違和感に気がついたローリーの言葉で罠にかかることなくこのエリアをクリアする。


 罠のエリアが終わる直前でもう一度休憩をとった4人。


「ローリーの観察眼で助かっているな」


 先頭を歩いているランディが言った。彼が気がつく前に後ろから声が飛んでくる。


「不自然な蔦や地面の色が他と違うなどよく見れば気が付くんだ。急ぐと見えないものがゆっくりと進むと見えてくる。それを見逃さないことだな」


「探索に関しちゃローリーの右に出る奴はいない。任せておけば大丈夫だろ?」


「そうそう。俺なんてもう探すのすら諦めてるよ」

 

 マーカスとハンクが冗談ぽく言う。口調とは別に彼らは諦めている訳でもローリーに丸投げしている訳でもないのは長い付き合いのローリーにも十分に分かっていたので任せておけと胸を張って答えていた。


 結局罠のフロアが終わると力技のフロアとなりそれをクリアしたところで下に降りていく階段が見えてきた。時間はかかったが彼らにとっては42層は下層の中では楽なフロアだった。フロアの討伐記録をして地上に戻るとまだ昼過ぎの時間だった。


「43層はまた雰囲気が違っていた。しっかり休んで仕切り直しだな」


「そうだな。2日程休まないか」


 カシアスへの道を歩きながら話する4人。ランディとマーカスの提案を受けて彼らは明日と明後日の2日を休養日とすることにする。


 ダンジョンは逃げない。と同時に地獄のダンジョンの下層の攻略は各自が万全の態勢をとって初めて攻略できると4人は理解していた。


 2日休んだ彼らは再び攻略と休養を繰り返しながらそれから2週間かけて45層までクリアする。


 最下層であろう50層がようやく見えてきた。


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