第6話

 店を出た2人は白い壁の建物が並んでいるリモージュの街をブラブラと歩いていく。


「死んでいたという感覚がないからな。長く寝ていた様な感覚だよ」


「ブラックドラゴンの雷のブレスは一瞬だった。そのおかげで4人とも綺麗な身体のままだ。部位切断もない。天上の雫さえ見つけられれば他の3人もランディと同じ様に復活させることができる」


 2人はこの時間から空いていた食堂に入ると酒とつまみを頼んだ。冷えたビールと羊の腸に野菜を詰めて焼いた料理が出てきた。


「美味いな、これ」


 料理を一口食べたランディが言う。ローリーも辛いが美味いなと言いながらビールを飲む。


「それでこれからだが」


 そう言ってローリーが話しだした。リゼの街にいる仲間のドロシーのパーティから聞いた話でここから川を上ったところにあるクイーバ側の森にエルフの村があるらしいという話をする。

 

 ローリーは悩んでいた。このまま2人でエルフの森を探すのかあるいは一旦リゼに戻ってランディが生き返ったことを報告してからドロシーのパーティに助っ人を頼んで地獄のダンジョンに挑戦するか。


 考えていることをランディに伝えると彼も唸り声をあげて食事の手を止める。


「どっちも有りなんだよな」


「リーダーはお前だ。決めたら従うよ」


「今は2人だけのパーティのリーダーだけどな」


 そう言って笑ったランディの出した結論は、


「エルフの村を探そう。探すだけなら戦闘にならないから2人でも行ける。見つけたらエルフに話を聞いてみようぜ。何か知ってるかもしれない」


 方針が決まった。2人は鑑定士のアラルの店に顔を出して目的を説明した上で、誰か船を貸してくれる知り合いがいないかと聞いた。信用のある奴でないと情報が漏れる可能性があると言うとわかったと頷くアラル。


「1人いるぞ。人物は私が保証する。お前さん達の目的ならこの街じゃそいつしかいないだろう」


 今から案内してやろうとアラル自ら店を出て3人で市内を歩いていく。彼の家から15分程歩いたところにある一軒の家の前で止まったアラルはここだと言って家のドアをノックした。


 中から現れたのはアラルと同じ年頃の男だった。日焼けした顔は船乗り特有のものなのか。リモージュの多く人と同じ様に白いターバンを頭に巻いている。


「やぁ、アラル」


 そう言ってアラルと握手をする男。挨拶が終わるとアラルが背後にいる2人を紹介する。紹介が終わると背後の2人にアラルがこいつはハバルという男で信用ができる船乗りだと教えてくれる。


「まぁ中に入ってくれ」


 ハバルが勧め、家の中に入ってソファに座るとアラルが話を始めた。

 黙って聞いていたハバルは話が終わると2人に顔を向けた。


「わかった。協力しよう」


 短く言うハバル。ランディとローリーがびっくりした顔になる。もっと質問してくると思っていたのだ。その驚いている顔を見てハバルが言った。


「聞いているかもしれないが俺とアラルは親友だ。そして滅多に頼み事をしてこないアラルが俺に頼んできた。その時点で俺の中で断るという選択肢はない。お前さん達2人を乗せて河沿いの場所で降ろした後は帰還を待つ。何の問題もないな。何日かかろうがお前さん達を下ろした場所で俺は待っている。安心してくれ」


 世話になると2人で頭を下げる。


 ハバルによるとネフドとクイーバの国境になっている大河はナタール川という名前らしい。


「ブカルパの街から河口に向かって船で1日と言ったな。冒険者と商人の6名が乗った船。朝から川下りを開始してその夜の野営地。その情報だけでおおよその位置がわかる」


 なるほどこいつはプロだ。今行った情報だけでおおよその上陸地点がわかると言っているが嘘ではないだろう。


 ローリーの思いを察したのか、


「ハバルは生まれついての漁師だ。ナタール川のことは隅々まで知っている。こいつがおおよその場所がわかると言えば目星がついてると思っていい」


 アラルが言った。それを聞いているハバルは頷いているだけだ。

 明日の朝に出港することにした。金はローリーが払った。向こうでどれくらい日数がかかるかわからないのからと金貨30枚を渡すとびっくりするハバル。


 いくらなんでも貰いすぎだと言ったがそれには首を振るローリーとランディ。


「それだけ俺たちが必死だということだ。なんとしても森の民のエルフを見つけて渡りをつけなきゃならない」


 ランディが言うと分かったと今度は金貨を受け取った。

 明日の待ち合わせ場所を決めるとハバルの家を出た3人。その家の前でアラルが2人に言った。


「森の民エルフは長寿で物知りだ。会えれば必ず得るものがあるだろう。そして新しいアイテムが見つかったら私の所に持ち込んでくるとよい。いつでも鑑定してやろう」


「頼みます」


 アラルと別れた2人はリモージュの市内で買い出しをした。森の中で夜を過ごすための必需品を探しては購入し収納していった。同時に水や食料もたっぷりと仕入れる。


 装備についてはランディは新しい盾と従来から持っている片手剣、ローリーは新しいローブで他は今まで通り。ダンジョンボスのドロップ品に比べると落ちるがそれでも2人が持っている装備はそんじょそこらじゃ見かけないほどの業物だ。


 仕入れが終わると2人で宿を取ってから街中のレストランで夕食を取る。蘇生されて最初は戸惑っていたランディも今では完全に状況を理解していた。今まで通りの彼で安心するローリー。


「森の住民と出会えたらどう言うふうに話を進めるかアイデアはあるのかい?」


 ローリーの言葉に食事の手を止めたランディ。


「まずは俺たちは強い。簡単に倒せないと相手に思わせることだ。それができないと交渉が始められないだろう。逆に言えば俺たちの実力を認めてくれたら話を聞いてくれる可能性が高いと考えてる」


 森の民であるエルフに関する情報は非常に少ない。他の種族との交渉を避け森の奥で独自の文化や風習を持っている彼らに関する情報は伝聞や噂話になる。弓に長けた者が多く長寿であるということや菜食主義者であることなどは有名だがこれとて本当かどうか誰も確認した者はいない。


 とりあえず弓を撃ってくるのは間違いなさそうだ。いきなり弓を撃ってきて威嚇してくる彼らにどう対応するか。ローリーとランディはそれについてしっかりと打ち合わせをする。あと基本の交渉はランディに任せることにした。これについては以前よりパーティのリーダーであるランディしか適任がいない。


「ある程度は出たとこ勝負になるだろうな」


「そう言うこと。でもまずは彼らに会えないとな。会わないと話しもできないぞ」


 ランディはそう言って笑った。

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