第7話

 翌日2人が待ち合わせ場所のナタール川沿いにある漁船が多数固まっている小さな港に行くとその港の桟橋にハバルが立っていて2人を見るとこちらだと桟橋を歩いて彼の船に案内する。


 その船はローリーらの予想よりもずっとしっかりとした漁船だった。船体中央部に操舵室があり船尾側には投網が綺麗に畳まれていた。


 ハバルに続いて船に飛び乗った2人。


「船首側ならどこに座ってもらってもいい。ここから目的地まで1日ちょっとだ。川を上っていくので時間がかかるんだ」


 舫を解き船の魔石エンジンを稼働させたハバルが船首に座っている2人に近づいてきて言った。


「船のことは専門家に任せる。俺たちは何日かかっても平気だ」


 ランディの言葉に頷き、明日の昼前には着くからそれまで楽にしてくれと言って操舵室に戻るとハバルの漁船がゆっくりと離岸して大河ナタールを上流に向かって進み出した。


 ネフドとクイーバの国境となるナタール河は中流のこのリモージュの街あたりでも川幅は3Km以上あり上流にあるブカルパの街の近くでもそれくらいの川幅があるという。逆に河口に近い所だとこの2倍以上の川幅になるらしい。ローリーがクイーバ側を見ると遠くに延々と続く鬱蒼としたジャングルが見えていた。


 この大きな河を挟んでここまで風景が変わるものなのかとびっくりするローリーとランディ。


「あっちは相当広いジャングルになっているな」


「ああ。いかにも森の民がいそうな雰囲気じゃないか」


 2人は進行方向左手に見えるジャングルを見ながら話ししている。船首には屋根がなく空から日差しが注ぎ込んでくるがランディもリアラルの街で白のフード付きのローブを買って今はそれを被って直射日光を避けている。何より船が進むことによる心地よい風が暑さをそれほど感じなくさせていた。


 夕刻になってハバルは船をネフド側の河岸に付けた。

 船から降りるとそのまま河原で夕食になる。収納から暖かい食事や飲み物を取り出したローリーはハバルにも勧めた。礼を言ってそれらを口にするハバル。


「収納にはたっぷりと食料、水があるので遠慮なく食べて飲んでくれ」


「悪いな、助かるよ」


「目的地に着いたら何日かかるかわからないが待っていてもらうんだ。これくらいはお安い御用だよ」


 河原で火を焚いてその周りで3人が車座になって座って食事をしながら話をする。ハバルは子供の頃から両親の仕事を手伝って船に乗ってこの川で漁をしてきたという。そして両親が歳をとって引退した後に船を引き継いで漁師をして生計を立てているんだと言った。


 子供はまだ小さいがある程度の年になったら自分の仕事を手伝わせるつもりだと言う。子供の話をするとハバルの無愛想な顔が一瞬綻んだ。


 鑑定士のアラルの話題になった。ローリーがトゥーリアで鑑定できなかったアイテムを彼が1発で鑑定してびっくりしたんだよと話すると、


「アラルは小さい頃から鑑定の才能があったんだ。近所でも有名だった。本人は鑑定士ではなく他の仕事をしたかったみたいだがあいつの能力を生かさないのは勿体なさ過ぎるということでリモージュの街の長老達が中心になって彼を鑑定士学院に進学させて資格を取らせたんだよ。最初は嫌がっていたが仕事を始めて数年も経ったらあいつの名前はネフドじゃ誰も知らない程に有名になった」


「トゥーリアでも有名だった。ネフドにとんでもないレベルの鑑定士がいるってな」


 ローリーが言うとそうだろうと頷くハバル。


「ただ最近は新しい鑑定依頼が来ないんだとぼやいていたよ。俺は鑑定のことは全くわからないが奴の表情を見ればわかる。ああ、仕事にやりがいがなくなってきてるなと。そんな時にお前さん達が持ち込んだアイテムを鑑定したことによって奴のスキルが上がったんだろう?久しぶりに元気なアラルの顔を見て俺も安心したよ。そしてそのアラルを元気にさせてくれたお前さん達にも感謝している」


「俺は仕事として彼に鑑定を依頼しただけなんだがな」


 ローリーが言うと、


「それでもいいんだ。俺にとっちゃ奴が元気になった。それだけで十分さ」


 翌朝再び川の上流を目指してハバルの漁船は川の流れに逆らいながら進んでいく。昼を少し過ぎた頃、漁船は向きを左に変えるとクイーバ側の岸に近づいていった。近づいていくと今まではジャングルが川のそばまできていたが1か所だけ小さな砂場になっている場所が見えてきた。


「ここが目的地だ」


ブカルパから1日ほど川を下って野営をするとなるとこの場所以外には無いと断言するハバル。確かに左右を見てもジャングルで唯一船が着岸できるのがこの場所だ。


 ランディとローリーは船から飛び降りた。


「ありがとう。俺たちはこの森の奥に入っていく。ハバルは向こう岸のネフド側で待っていてくれても構わない。俺たちが戻ってきたら空に魔法を打ち上げるのでそれを見てこちらに来てもらった方が安全じゃないか」


「ここで大丈夫だろう。少し沖に出たところで船を停めている。万が一魔獣が来ても届かない距離の所でお前達を待ってるよ。それにこの場所のネフド側には何もない。一応草原になっているが砂漠から細かい砂が飛んできて船のエンジンや部品に傷がつくんだ」


 ハバルがそう言うのなら2人がこれ以上何も言うことがない。わかったと言って軽く手をあげた2人は着ていた砂漠用のローブをローリーの収納に戻して冒険者の姿になるとジャングルの中に足を進めていった。


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