クイーバ大森林
第1話
ドロシーのパーティメンバーであるシモーヌの話だとここに停泊した船の周囲の安全を確認しようと森の奥に入っていったところで矢が飛んできたらしい。
「つまりそう遠くない場所に俺たちの目的の人たちがいるってことになるな」
ランディが言った。2人は森に入ったところから既に周囲を感知しているが今の所アンテナに引っかかってくる魔獣もそれ以外の気配もない。
この辺りはクイーバ国領土とは言え前人未到のジャングルの中だ。国であって国でない場所と言える。当然道はないが高い木が生い茂っているせいか足元はそれほど草もなく歩くには不便とはならない。ただ所々ぬかるんでいる場所があり足元を周囲の両方を警戒しながらの探索となった。
上陸した地点を起点として半円を書く様に半日動いたが期待している接触は感じられなかった2人。ジャングルの中で比較的見通しの良い場所を見つけると夜はそこでキャンプをすることにする。しっかり結界を張った中で夕食にする2人。
「変な言い方になるが俺たちが強いから警戒していて接触してこないという見方はどうだ?」
夕食をとりながらランディが聞いてきた。
「実は俺もそれを考えていた。ここで警告を受けた冒険者達のランクはわからないがおそらく船の護衛クエストをするからBランクだろう。俺たちは一応Sランクだ。雰囲気の違いは見る奴が見ればわかるものらしいからな」
「となると明日はどうする?」
そう言いながらランディは答えを決めている様だ。その答えは自分も同じだろう。
「お前さんが考えている通りさ。もっと奥に入っていく」
ローリーが言うと大きく頷くランディ。
翌日2人の予想が的中する。森を奥に進んでいると急に気配を感じた2人は足を止めると同時にランディが盾を構えた。ローリーは朝から強化魔法を2人に掛けているが前を歩くランディが足を止めた時には彼も足を停めていた。
止まったランディの10メートル程先にある木の上から打たれたであろう矢が2本地面に突き刺さっている。
近づいて矢を拾うランディ。拾った矢を一瞥するとそれをローリーに渡した。
「変わった形状の矢だな」
「殺す気はないみたいだな。矢が飛んできた時にも殺気は全く感じなかった」
ランディはそう言うと顔を上げて前方を見る。鬱蒼としたジャングルが見えているだけだ。ローリーが2人に強化魔法を掛け直すとランディが再び前を歩きだした。数分もするとまた矢が飛んできた。今度は足元ではなく2人を狙っているが強化魔法が矢を弾き飛ばす。
「盾の出番がないな」
笑いながら言うランディ。
「この程度なら問題ないな」
ローリーの答えにまぁなと頷いたランディは前を向いてジャングルの森に向かって声を出した。
「俺たちは森の民と争うためにやってきた訳ではない。相談に乗って貰おうと思ってやってきている。姿を見せてくれないか?」
数度同じ言葉を言ったが反応はない。仕方ないかと再び森を進み出す2人。今度は前からではなく前後左右から矢が飛んでくる。殺意を持った矢だがローリーの強化魔法が飛んでくる矢をことごとく弾き飛ばしていく。
森の民にしてみれば信じられないことが起こっていると思っているだろう。弓の使い手であるエルフの連中が本気で撃っている矢が人間に当たる直前で全て弾かれそのまま彼らの足元に落ちていくのだから。
「ここは森の民の土地だ。人間は直ちに立ち去れ」
四方八方から飛んできた矢が撃ち落とされてしばらくの間の後、森の奥から声が聞こえてきた。
「用事が済んだらすぐに立ち去るさ。相談に乗ってくれないか?」
「今すぐに立ち去れと言ったのが聞こえなかったのか?」
口調がきつくなっている。頭にきているのだろう。おかげで2人の感知で声を出しているエルフの場所が特定できた。前方20メートル程の大木の裏から話かけてきている。と同時に周囲に隠れているエルフ達の気配も感知できた。2人の左右に1人ずつ、そして背後に1人。全部で4名で2人を取り囲んでいる。
「そうつれない事を言わないでくれよ。大木の裏に隠れてないでこっちに出てきてくれよ。相談の内容を話したいからさ」
まるで友達と話をする口調で声をかけるランディ。誰とでもすぐに仲良くなれる雰囲気と言葉使いが彼の特技の1つだ。
ランディが声をかけてしばらくしてから正面の大木の裏から1人の男性エルフが姿を現した。冒険者で言う所の狩人の格好に近い服装を着て弓を携えている。身長はランディより少し高めで特徴のある尖った耳をしている。
「やぁ」
そう言って片手を上げて挨拶をするランディ。エルフは黙って立っているままだ。
「黙ってあんた達の土地に入ってきたことは謝る。ただどうしても相談したい事があってね。エルフの長老なら知ってるかもしれないと思ってさ」
「どう言う相談だ?」
「天上の雫というアイテムについて教えて貰おうと思ってさ」
「その様な名前を持つアイテムについては聞いたことがない」
その言葉を聞いていたローリー。
「天上の雫とは死んだ人を生き返らせることができる蘇生アイテムのことだ。ひょっとしたらそちらでは別の言い方をしているかもしれない」
ローリーが言うとしばらくの間が空いた。ローリーもランディも黙ってエルフの言葉を待っている。
「この場で少し待て」
そう言うと2人と話をしていたエルフが森の背後に消えていった。左右の後の3人のエルフはそのままの場所から動いていない。
「のんびり待つか」
ランディがその場で地面に腰を下ろすとローリーも隣に腰を落とした。強化魔法はかけたままだ。エルフの3人の弓なら問題なく弾き飛ばせるだろう。
2人が地面に座って1時間経つか経たないかのタイミングで座っている正面にエルフの気配を感じる。それも1人ではなく3人だ。
立ち上がった2人の前に1人のエルフが近づいてきた。最初に話かけてきたエルフはその男の背後に立っている。
「蘇生アイテムの事はどこから聞いた」
3人の先頭に立っているエルフが前置きもなくいきなり聞いてきた。ランディがローリーを見て頷くと、ローリーがポケットから空になったガラス瓶を取り出して指で挟んで彼らの方に突き出す。
「これだ。天上の雫というアイテムで死んだ人間が1時間以内に使用すれば蘇生させることができる。これをダンジョンの最下層で手に入れ、今隣にいる奴に使って蘇生させた」
その言葉に目を見張る目の前の3人。先頭にいるエルフはローリーを見てそれから視線をランディに移す。
「お前がそれを使って左側の盾を持っている男を蘇生させたというのか」
「その通りだ」
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