第2話

「それでエルフの長老に何を聞きたい」


 先頭の男はしばらく2人を見てから言った。


「このアイテムの入手方法についてとこれに似た様なアイテムを知っているかどうかだ。俺はダンジョンでダンジョンボスを倒してこのアイテムを手に入れた。その代償は仲間4人の死だった。地上に戻ってこのアイテムが何か文献を調べ、そして砂漠の民の高位の鑑定士に見せてこれが蘇生アイテム天上の雫だという判定を受け隣にいるランディに使って彼が生き返ったということだ。俺達はあと3人生き返らせる必要があると考えている。ただこの蘇生アイテムは本当にダンジョンにしかないのか、または何かと何かを合成してこれと同じものを作れるのか。長寿で物知りのエルフに聞こうと思ってやってきた」

 

 ローリーの長い話が終わるまで黙って聞いていたエルフ。


「なるほど。話に嘘はない様だ。確かに我々エルフは長寿で人間よりも知識が多い。その中でも長老の知識量は我々でも及びもつかない程に豊富だ。その長老に合わせてやろう。ついてくるがよい」

  

 そう言うと踵を返して森の奥に歩き出す3人のエルフ。ランディとローリーも前を歩く3人に続いて森の奥に進んでいく。2時間程歩くと一瞬体に抵抗を感じた。


「なかなかの結界だな」


 結界を超えたランディが言った。


「この範囲を守っている結界だ。かなり強い魔力を込めた魔道具でないと無理だな」


 結界を超えてしばらくはそれまでと同じジャングルの景色だったが10分程歩くと雰囲気が変わってきた。まず道ができている。道と言っても土の地面に綺麗に切断された長方形の石を並べているだけだがそれでも随分と歩きやすくなった。そして木々の生えている間隔が広くなり道の左右に畑や果樹園が見えてきた。どうやらエルフの民の食糧をここで栽培している様だ。


 歩いていると木々の間隔はさらに広くなりついに森の中にある大きな広場が視界に入ってくる。そこには木で作られた家があちこちに点在し、広場の端の方には川が流れている。3人を先頭にした一行が広場に入るとそこにいたエルフ達の視線がランディとローリーに向けられてくる。ただその視線に敵意はなさそうに見える。


 ほとんど人間と接することがないから人間を知らないのだろうかと思いつつ広場の中を歩いていくと周囲より1回りか2回り大きい1軒の平屋の前で止まる。


「この中に長老がいらっしゃる」


 歩き始めてから始めて言葉を発した男を先頭にして5人が平屋の建物の中に入ると。そこは会議室の様な広い部屋で中央に大きな木のテーブルがありその向かい側の中央に女性のエルフが腰掛けているのが見えた。彼女が長老と呼ばれるエルフなんだろう。そしてその長老の左右には女性が2人座っていた。どちらもエルフ特有の耳をしている美人だ。


 ローリーとランディは勧められるままに椅子に腰掛けると長老が2人に声をかけてきた。


「このエルフの森を見ているキアラという。エルフの森にようこそ」


「俺はランディ、こっちがローリー。2人ともこの大陸の北にあるトゥーリア王国という場所からやってきた。冒険者をしていて2人ともそのランクはSだ。今回は無理やり押しかける形になって申し訳ない」


 ランクのことは知っている様だ。ランディがSランクだというと長老以外のその場にいたエルフ達の表情が変わった。


「なるほどのう。Sランクであれば我らの弓が通じないのも納得じゃ。それにしてもなかなか強い強化魔法じゃの」


「見てたのか?あの場にはいなかった様だが」


 びっくりしたローリーが言うとニヤリとする長老のキアラ。


「その場にいなくとも見えるものは見える。我らは妖精と通じておるからの。森の妖精の目を通じてお主らが船を降りてからのことはずっと見ておった」


 御伽噺の通りだ。エルフは妖精と通じ合える種族だという。


「ならば話は早い。俺たちは相談事があってここにやってきた。その相談事についても長老はもう理解しているということで良いのかな?」


「お主が使った天上の雫、それが入っていた瓶はまだ持っておるか?あるのなら見せてもらいたいのだが」


 ランディの言葉にそう返すキアラ。その言葉で自分たちが来た目的は分かってのだと理解する2人。ローリーが収納から空になったガラス瓶を取り出すとテーブルの上に置いてそれを彼女に差し出した。


 差し出された空の小瓶を手に取るとそれをじっと見てからテーブルの上に戻し、


「間違いないの。確かに死人を生き返らせるアイテムじゃ。我々の間ではそれを天上の雫とは言わず世界樹の恵と呼んでおる」


「「世界樹の恵」」


 長老の説明によるとエルフの森の中に世界樹というご神木がありその世界樹についている多くの葉の中にある特別な葉から落ちる水滴を集めるとそれが蘇生のアイテムになるという。


「ただの、問題はその特別な葉というのが我らエルフでも見分けがつかないということじゃ。もう何十年も前の話になるが、このエルフの森に住んでいる女の子が毎日毎日世界樹の下に立ってはそこから落ちてくる雫をコップに入れておったんじゃ。最初は何をしているか全くわからずその子に聞いた所妖精に教えてもらったという。こうして雫を集めているときっといいことがあるとな。そうして集めた雫がコップ1杯になった時にその子がわしのところにやってきて鑑定してくれと言った。鑑定してびっくりしたさ。なんとその水は蘇生の効果がある水になっていたからだ」


 コップ1杯の蘇生の水。それだと全員を生き返らせることが可能じゃないか。ローリーがそう思うとランディも同じ事を思っていたのか2人同時に椅子から腰を浮かせた。


 それを見た長老がまぁ待て。この話には続きがあるんじゃと言う。


「ただその蘇生の効果のある水は他の水と混ざっていたのでその水だけで誰かを生き返らせることはできないのじゃ」


 キアラは鑑定結果を見てすぐにその女と一緒に世界樹の木まで行き、どうやって雫を集めたのか聞いてみた。彼女曰くグルグルと木の周りを回って落ちてくる水滴をガラス瓶で受け止めていたという。


「つまりどの葉っぱから落ちた水がその効果があるのかが未だわかっておらぬ」


 キアラによると彼女の行動から推測して全ての葉ではなく極一部の限られた葉についた水滴がその効果があるがそれがどの葉なのかは鑑定能力のある彼女でもわからないらしい。


 キアラは自分の右側に座っている女性に顔を向け、


「彼女がその水滴を集めていた子じゃ。ユールという」


 2人が視線を彼女に向けるとユールですと自己紹介して頭を軽く下げた。まだ十分に若い女性だが何十年も前に水を集めていたと言う。今の年齢を想像するのはやめたローリー。


「初めてエルフの森にきた俺たちにそこまで教えてくれるのは何か理由があるのか?」


 黙ってやりとりを聞いていたランディが言った。


「ある。そうでないといくら敵意が無いとはいえエルフ以外の者にこの秘密を申すわけにはいかない。お前さん達二人についてはジャングルにいる妖精達から彼らなら困っているエルフを助けることができると言われておるからの」


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