第3話
「困っている?」
ランディが言うと頷く長老。
「この世界樹の恵は死んだ人を蘇生させることができる位に優れたアイテムじゃ。ということは死ななくとも瀕死の状態にある病人や重病の仲間達も救うことができる。幸い今は瀕死の重病人はいないが一方でここ数年この森の空気が悪くなり仲間達の数人がそれにやられて寝たきりになっている。すぐに危なくなるという事はないが世話をする家族も大変じゃろう。世界樹の恵を飲めば回復するのはわかってるからな」
ユールが集めた水ではあまりに薄すぎて効果がでないらしい。これについてもうまくやれば今より濃度を上げることはできるらしいが鑑定能力をさらに上げる必要があるのだと言う。そして万が一の事態に備えて世界樹の恵を準備しておきたいのだと。
長寿のエルフだからこその発想だ。人間ならそこまで悠長に構えていられない。
二人が納得していると長老が言葉を続けた。
「森の空気が悪くなった原因はわかっておる。魔獣が住み着いているんじゃ」
「魔獣?」
「そう。お前さん達冒険者が日々倒している魔獣だ。この森は以前から我々の結界の外には魔獣がいたが強さは大したことがなく我らの弓で十分に討伐が可能だった。ただ最近どこからかやってきてこの近くに住み着いた魔獣は以前のに比べて桁違いに強い。エルフの男性が何度も討伐に出て弓を打っているが全く効かないのじゃ」
「つまり俺たちに情報を出した見返りはその魔獣を討伐してくれということだな?」
「その通り。本来は討伐の話をしてから今の話をするのが普通だろうがどうやら二人は妖精に嫌われていない様なのでな」
つまり俺たちが受ける前提で情報を開示してきたということかとローリーは理解した。
「その業物の盾とローブがあれば倒せると思うが、やってくれるか?」
キアラは盾とローブに交互に視線を送りながら言う。どうやらしっかりと鑑定した様だ。
「やろう」
ランディが即答する。ローリーももちろん異論はない。その後二人とエルフの長老で魔獣討伐の打ち合わせを行った。
作戦は簡単だ。エルフ達が魔獣のいる場所まで案内する。そしてランディとローリーで戦闘をし、その間エルフ達は木の上から周囲を警戒し必要であれば弓で攻撃するというものだ。
「エルフの弓が通じないのはわかっておるが魔獣との戦闘中にもし他の魔獣が近づいてきた時に彼らを倒すことはできる。お主ら二人は元凶になっている魔獣との戦闘に専念して欲しいのだ」
「わかった。それでいいだろう。あと万が一魔獣を倒して何かドロップした場合はどうする?」
戦利品の配分は先に決めておくのが冒険者の常識だ。でないと大抵後で揉める。
ランディの提案を聞いた長老は部屋にいるエルフ達とエルフ語で何か話をする。エルフ語のわからない二人はその間はじっと黙っていた。
やりとりが終わって長老が二人に顔を向けた。
「戦利品が出た場合には討伐に成功した報酬としてお主ら二人の物にして構わない」
エルフによるとその魔獣は大型の虎の様な姿をしている四つ足の魔獣で表面は硬い皮で覆われており矢が全く通らないらしい。そして素早い動きで前足で襲い掛かってくるという。エルフの戦士は木の上から弓で攻撃しても全く弱らせることが出来ず木の上を移動して退散する日々が続いているらしい。
そして何故かその虎の魔獣は一定の範囲から外に出ようとはしないという。
「そこに何かがあるのか、あるいはその場所の魔素が非常に濃いのか」
「魔獣がやってきて住み着いていると言っていたな。その場所になにかありそうだ」
話合いが終わってエルフの村の隅にある空き家をあてがわれた二人はその家で食事を済まして打ち合わせをしていた。
エルフの食事は予想通りに野菜と果実だが普段食べているものよりもずっと美味しい。食事を下げにきたエルフに聞くと妖精が普段から作物や果実の育成を助けてくれているからですと言っていた。
「それにしても世界樹の恵というのがあったとはな」
「ああ。流石にエルフの世界だよ。俺たちの想像の埒外の事がある。妖精にしてもしかりだ」
「確かにな。それでだ」
とランディが話題を変えた。もし次に蘇生させるとしたら誰が良いかという話だ。これについてはローリーもずっと考えていた。最終的には全員の蘇生が目的だがその目的を達する為には3人の時点である程度以上の攻撃力が必要だ。
「普通ならビンセントかハンクのどちらかか?」
ローリーが思っていた事を言った。
「うん。俺もそう考えていた。マーカスの弓の威力もすごいが遠隔攻撃ならローリーもできるからな。それよりも近接攻撃での攻撃力を上げた方が良いかと思ってたんだ」
そうして次に蘇生させるのは戦士のビンセントかハンクにすることにする。ただし魔獣を討伐した際に武器がドロップした場合にはその武器を使いこなせるメンバーにしようということになった。ランディやローリーが持っている装備を見ると強い敵が落とす武器を持つ事が戦闘力アップになるのは間違いない。もし弓が出れば蘇生させるのはマーカスとなる。
「あのキアラという長老もかなりの高位の鑑定スキルを持っていそうだな」
「ああ。リモージュのアラル並みかもしれない。一眼見て盾とローブの性能を見抜いていたからな」
二人が長老の屋敷を出た後、長老を始め残ったエルフ達はそのまま打ち合わせを続けていた。
「よいか。間違ってもあの二人に手を出すでないぞ。返り討ちにされるのが目に見えておる。魔獣との戦闘の際も邪魔するでない。苦労はするかも知れんがあの二人が魔獣を倒すのは間違いないだろう」
そう言い切る長老。
「それほどの実力者ですか?かなりのやり手だとは見えますが」
そう言ったのは森の中で彼ら二人と対峙した男性のエルフだ。
「ああ。かなりもかなり、相当できるぞ。盾を持っている男も後衛の男も今まで見たことがないほどの実力者だ。幸いに彼らは我らエルフに特別な感情を持っておらん。むしろ協力的だろう。あの二人にはこれからも助けてもらうことがありそうじゃ。無理にこちらから関係を崩すでないぞ」
長老の言葉は重い。その場にいた全員が分かりましたと答えた。
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