第55話

 しっかり休養をとって気力、体力を回復した4人は再び洞窟を奥に進み出した。砂漠を越え、洞窟に入ってかなりの時間が経っているが未だ50層に降りる階段は見つからない。洞窟では相変わらずロックゴーレムや大蠍、蝙蝠の大群が襲いかかってくるがそれらを倒しながら奥へ奥へと進んでいくと先の方が明るい。洞窟の出口が目に入ってきた。


 出口に近づくと同時にそこから強い気配が漂ってきた。全員が戦闘準備に入る。ローリーは気配を感じた時点で強化魔法を各自に掛け終えていた。


「でかいな」


「50層、ボス部屋の前に立つ守護神か」


 洞窟の出口までくるとそこで立ち止まった4人。彼らの目の前からは5段程の下に降りる階段がありその先は円形の広場になっていた。ボス部屋と似た様な造りだが違うのはその奥にさらに下に降りる階段が見えていることだ。そしてその円形の広場の中心には先ほど倒したゴーレムよりもさらに一回り大きい10メートル近いゴーレムが1体立っていた。


「こいつが最後にいるから途中が比較的ぬるかったんだな」


 ハンク、マーカス、そしてランディと順に声を出して前を見ている。4人はここまでぬるかったと言っているが普通ならギリギリの戦闘をしてここに到達してくる難易度だ。当人たちの実力に加えて装備関係が充実しているからこそそういう発言になる。ヒヒイロカネで強化されている片手剣はそれまでとは桁が違う程の威力を発揮していたし、それはここ49層の出口、50層への階段の前に控えていた守護神のゴーレム戦でも同じだった。


「行くぞ!」

 

 ランディの声で全員が人場に飛び出していった。

 神龍の盾がゴーレムの攻撃をがっちりと受け止めハンクが片手剣を振るたびに硬いゴーレムの体に傷をつけていく。広がった傷にはマーカスの矢とローリーの魔法が正確に命中してゴーレムの体力を削っていった。殲滅スピードは早くはないが確実に体力を削っていく4人。


 ローリーは戦っている敵がNMの可能性があるのではとゴーレムの挙動を注意深く観察していたが嫌な気配は感じない。ランクはSSSクラスで一撃は鋭いが攻撃が単調だ。


 戦闘が始まって10分が過ぎると大きなゴーレムの動きが当初よりずっと遅くなってきた。最後の追い込みだと全員がヘイト無視で一斉に攻撃をするとゴーレムの巨体が地面の上に倒れそのまま光の粒になって消えた。


 そしてその消えた場所に大きな宝箱が現れた。


「NMでもないのにアイテムをドロップする敵は初めてだ」


 そう言ったランディが箱を開けるとその箱の底に指輪が1つだけ入っていた。大きな宝箱の中に小さな指輪が1つ。それだけだ。


 指輪以外何もないぞと言ったランディが箱から離れると他の3人が箱を覗き込んだ。当然だが何もない。


「こりゃハズレを引いちゃったかも?」


「天上の雫は入ってなかったのか」


「そりゃNMじゃないから流石に無いだろう」


 ランディの背後から箱の中を覗いていた3人。ハンクとマーカスはこりゃ大外れだったなと言っている。


「ローリー、どうした?」


 黙っているローリーに気がついたランディ。


「本当に外れだったのだろうか」


 彼がそう言うと他の3人が ”?” と言った表情になる。REPOPするかもしれないのでとりあえず下に降りようというローリーの言葉で全員が階段を降りるとそこは50層、ボス部屋だった。階段を降りた先に頑丈な扉がある。 


 その階段に腰掛けた4人。3人がローリーに顔を向けた。その視線を受け止めると、


「あくまで俺の勘と想像だけどいいか?」


 もちろんだと言う他のメンバー。


「49層の最後にあのゴーレムがいた。最初はNMかなとも思ったんだが結局そうじゃなかった。つまりいつもあの場所に立っていて挑戦者を待ち構えているってわけだ。そして倒すと宝箱が出た。NMじゃない敵から宝箱が出たんだ。ここで何かおかしいなと思ったんだよ。NMから出たのなら分かる。あの場所にいた普通の敵から箱が出た。今までここ流砂のダンジョンの下層にいる普通の敵から宝箱が出たことはない」


 上層、20層あたりまでだと普通の敵から宝箱が出る事もあり、それ狙いの冒険者がこのダンジョンに挑戦しているのは皆知ってる。ただ30層以下ではこの事象は全くなかった。


 他の3人はローリーの話を聞いているがまだ彼が何を言いたいのかは理解できていない。怪訝な表情で聞いている3人を見たローリー。


「ここからが推測になるが、最深部49層のあいつがなぜ宝箱を落としたのか。そしてその大きな宝箱の中身はなぜ小さな指輪1つだったのか。これは俺たちに対するダンジョンの問いかけだと思う。ここから推測しろというダンジョンが出してきたテストの様なものじゃないかと」


 彼らは黙って聞いているので話を続けるローリー。


「違和感を感じたんだよ。門番から出る宝箱。でかい宝箱の中は小さな指輪1つ」


「言われてみればそうか。普通ならNMでもない敵から宝箱が出たら大喜びする。そしてでかい箱を開けて中にあるのが指輪1つならがっかりする」


 ランディが言うとその通り。それが罠じゃないかと言うと、罠?と3人がローリーを見た。


「この局面で指輪が出たら大抵は期待外れのアイテムだったと思うだろう?しかもあの大大箱からだ」


 その言葉に頷く3人。箱が大きいのは中に入っているのは槍や杖や大剣、あるいは防具関係だろうと開ける前には想像する。


「それが罠じゃないかと。つまりだ、今出た指輪が実はこの先にいるであろうボスを倒すのに必須になるんじゃないかってね」


 大きな宝箱が出る。当然中身を期待して開けてみればそれは小さな指輪1つだった。ハズレかと思って普通ならあとで鑑定してもらおうと、その指輪を魔法袋に入れてしまうがローリーはその指輪こそがボス戦で大きな役割を果たすのではないかと感じていた。


 この49層は変なギミックもなく順調に進んできた。もちろん徘徊している敵は強いが元々49層まで降りて来られる実力があれば倒せない敵ではない。ドロシーらのパーティもそう苦労はしないだろう。


 それで最後のゴーレムだ。それまでより強くおそらくSSSクラスだと思われるがこれとて全く倒せない訳じゃない。攻撃は単調だし何よりNMじゃなくて通常の敵だ。最後まで大きな試練もなく倒せたと思ったら大きな宝箱が出て中にあったのは小さな指輪1つだ。


 これがサインだろうとローリーは感じていた。50層のボスを攻略するためのサインが最後のゴーレムから出た宝箱と指輪だと。鑑定をしようにもここは49層で転送盤がない。しかも49層は小屋から出たところで扉が閉まっていて地上に戻れない。


「指輪がなくても倒せるかもしれない。でもある方がずっと難易度が下がる。そんな指輪な気がするんだ」


 ローリーの話を聞き終えた3人。しばらくしてからマーカスが口を開いた。


「確かに言われてみればこの49層はスタートの同時に小屋の扉を開けるギミック以外はずっと1本道だった。敵は強いが危ない場面もなかった。49層にしちゃあ楽だなと俺も内心思っていたんだよ」


「49層の攻略が楽だったと安心して50層に降りるとそこでしてやられるということか?」


 そう言ったハンクに顔を向けて大きく頷くローリー。


「指輪なんてと思って無碍に扱ったらそれが結局命取りになった。そんな展開を予想している」


「わかった。ローリーの言葉を信じよう。彼は俺たちの参謀役で今までも何度も正解を導いてきている。指輪がキーと考えるのならそれを装備してボス戦に臨もう」


 そう言ったランディが続けて言った。


「それで誰がこの指輪を装備するんだ?」

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