第56話

「ランディだよ」


 ローリーが即答した。


「常に一番敵とコンタクトしているのは盾役のランディだ。ここはランディに装備してもらいたい」


 ローリーの勘でしかないが他の3人は彼に全幅の信頼を置いている。分かったと言ってランディが今宝箱から出た指輪を左手の指に装着する。


「指にはめた感じでは変化はないな」


「ボス戦が始まると分かるかもしれないぜ」


 マーカスが言うとそれはあり得る話だと言うランディ。

 4人は50層のボス部屋の前でしっかりと休養を取って回復する。


「流砂のダンジョンのボスだ。予想されるのは今倒したゴーレム系、あとはサンドワームか蠍。いずれにしてもやることは変わらない」


 全員で軽食をとりながらローリーが話をする。


「ボスは必ず途中で必殺技というか特殊技を繰り出してくる。それを凌げれば勝てるぞ」


「天上の雫を出してビンセントの顔を見ようぜ」


 そう言って立ち上がると各自が最終チェックをし行くぞという声でランディが扉を開けた。



「でかい蠍(スコーピオン)だ」


 他のダンジョンボスの部屋と同様にここも扉を開けると広場になっておりその中央にボスが控えていた。流砂のダンジョンのボスは大蠍だった。体長は10メートルはあるだろう。それまで砂漠で相手をしていた蠍よりもずっとでかい。


 その蠍が尾を上に逆反りして威嚇している。尾の先端には鋭い針が伸びているのが見えていた。


 ローリーの強化魔法を受けたランディが広場に出て戦闘が始まった。ハンクは大蠍の左側に立って足を狙いマーカスは右側に立つと妖精の弓を射る。ローリーはマーカスとランディの間に立って3人のケアをしながら精霊魔法を打ち始めた。いつものフォーメーションで戦闘する4人。


 ランディが持っている神龍の盾が蠍の爪の攻撃をがっちりと受け止め同時に右手に持っているヒヒイロカネの片手剣がその爪の部分に傷をつけていく。マーカスはその傷がついた蠍の左の爪を集中的に狙って矢を連射していた。


 ランディに強化魔法を上書きするとローリーも精霊魔法をピンポイントで蠍の左の爪にぶつけていく。時折蠍の尾が伸びて鋭い針がランディに向かってくるがそれを盾で凌ぎつつ攻撃を続けるランディ。ハンクは止まることなくボスの周囲を動き回りながら剣を振るっている。


 4人がそれぞれの仕事を全うしながらゆっくりとボスの体力を削っていった。


 時間がかかるのは想定内だ。4人とも体力は十分にあるし装備も優秀で疲労度が低い。ゆっくりと確実にボスの体力を削りながら戦闘を続けていると突然ボスの大蠍がその場で全ての足を踏み鳴らした。


 蠍の得意技の1つである”大暴れ”だ。これで自分の周囲の地面を揺らせて不安定させたところで尾の先の針で敵を倒す。


 ハンクはすぐに背後にジャンプし、ランディは予測していたのかしっかりと踏ん張って防御の姿勢を保ったまま針の攻撃を盾で防ぐ。10秒ちょっとで大暴れが終わると通常の爪と尾で攻撃してくるボス。


 ローリーは3人のフォローをしながらこのままボスが何もしないことは無いだろうと感じていた。地獄のダンジョンのボスがこれで終わるはずがないと。


「何か来るぞ」


 ローリーがそう叫んだ時には大蠍の口から濃い紫色の煙が吹き出されランディの体を包んだ。


「ランディ!」


「大丈夫だ。効いてない」


 ローリーの叫び声に煙の中から答えるランディ。しばらくすると煙が霧散しそこには無傷のランディが立っていた。


「弱ってるぞ。一気にやろう」


 ランディがそう言うと全員がヘイト無視で攻撃をする。ローリーも精霊魔法を連続で撃ち蠍にぶつけていると4人の武器と魔法を受けた大蠍がその全身を地面の上にどすんと落としそのまま光の粒になって消えていった。


 そこに大きな宝箱が現れた。


「やったぞ!」


 全員でハイタッチをして宝箱に近づいていき、ランディが箱を開けるとそこには大量の金貨と魔石、そして大剣と指輪と腕輪、それに黒に近い濃い茶色をした防具(アーマー)が入っていた。




 ガラスの小瓶は宝箱の中にはなかった。




 「とりあえず地上に戻ろう」


 ローリーが言って全員地上に戻ってダンジョンから外に出る。


「今までが順調過ぎたんだ。これが普通だろう」


 ダンジョンからリモージュに続く道を歩きながらランディが言う。


「その通りだ。そして俺たちの次の目的地が決まったな」


「ああ。クイーバに行こうぜ」


「そうだ。まだ未クリアのダンジョンがクイーバにあるぞ」


 マーカスとハンクが言い、ローリーも言った。気持ちの切り替えの早さも高位冒険者が持っている特徴だ。いつまでもくよくよしていても何も解決しない事を彼らは知っている。


「ところであの紫の煙は一体何だったんだろうか」


 ローリーは道を歩きながらあのシーンを思い出していた。ランディの身体は間違いなくあの煙に全身が包まれたが彼は何一つ感じなかったという。一瞬視界が悪くなったくらいだと。ダンジョンボスが効果のない攻撃をしてくる筈がない。


「アラルなら鑑定してくれるんじゃないか」


 ローリーがあれは何だったんだろうかとブツブツ言っているのを聞いていたランディが自分の指にはめている指輪に視線を送りながら言った。


「そうだな。ギルドの報告の後はアラルの店に行こう」



 リモージュのギルドに着いたのは昼過ぎの時間でギルドにはほとんど冒険者がいなかった。受付に頼んでギルマスのサヒッドと面会を申し入れた4人。会議室に女性職員と二人で入ってきたサヒッドに流砂のダンジョンのクリアを報告するとサヒッドが驚いた表情になった。


「やるとは思ってたが本当にクリアしてきたのか」


 テーブルの上に魔石と防具、そして指輪を置いたランディ。職員がすぐにそれらを手に持って鑑定するために部屋を出ていった。


「流砂のダンジョンの50層をクリアしてボスを倒してきた。魔石を鑑定すれば分かるだろうがボスは体長が10メートルはある大蠍1体だったよ」


 報告はランディがし、他の3人は黙ってやりとりを聞いている。クリアしたからと言って詳細まで報告する必要はないしランディらもする気はない。ツバルでは忍の二人に任せたがここでは自分たちが報告するがフロアの罠やギミックについては一切開示していない。自分たちで探せというのが先駆者達の考えだ。


 しばらくすると鑑定を終えた職員が戻ってきた。


「魔石は間違いなくダンジョンボスの大蠍の魔石です。それと指輪ですがこれは狩人の指輪と言い、遠隔攻撃、遠隔命中がそれぞれ+40されるものです。大剣は攻撃力+60、時々2回攻撃の効果が付与されています。腕輪は魔力+20です」


「すごい性能だ」


 鑑定結果を聞いたマーカスが言った。当然マーカスがその指輪を装備することになる。大剣は持つ物がいないが売らずに自分たちで持つことにする。ハンクかビンセントが将来使うかもしれない。


「こちらの防具はスコーピオンアーマーという物で防御+50に加えて素早さが+70、そして使用武器の威力アップ+20となります」


 これもすごい装備だ。ハンクがそれを身につけることになった。ランディは火のダンジョンですでに防具を手にしている。ハンクの素早さが上がるのはパーティに取っても大きな戦力アップになる。


「魔石ですがトゥーリア、そしてツバルでのダンジョンボスの魔石の買取金額にならって金貨3,000枚となります」


 その金額で4人は不満はない。魔石だけギルド買取とした。大剣は使用する者がいないがとりあえず自分たちで持つことにする。


「これからどうするんだ?」


 査定が終わるとギルマスのサヒッドが聞いてきた。


「俺たちは別の国に行くがその前に近々、もう1組がここの地獄のダンジョンをクリアすると思うぜ」


「リゼから来てる彼女達か」


「そうだ。48層までクリアしている」


「トゥーリアの冒険者達はレベルが高いな」


「本気でクリアを目指しているからな。強い気持ちがないと50層まで行けない。それが地獄のダンジョンだ」


「いくら実力があってもクリアするという強い気持ちがないと厳しいということか」


 その通りだよと言って椅子から立ち上がった4人はギルドを後にするとその足で鑑定家のハバルの店に足を向けた。


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