第57話

「そうか。天上の雫は出なかったか」


 店に入った4人はアラルにダンジョンクリアと蘇生薬について話をした。


「今までが運が良かった。今回は出なかったがこれが当たり前なんだろう。めったに出ないから幻のアイテムと呼ばれているんだろうしな」


 そう言ったローリーに悲壮感はない。覚悟していた通りの結果でありここになければクイーバに行けばいいと考えている。そしてそこでも出なかったらエルフの村だ。ビンセントの蘇生のやり方についてはまだ複数の選択肢がある。


「ローリーの言う通りだな。ほとんどの人間は幸運が数度続くとそれが当たり前だと錯覚をしてしまう。そんな時に思い通りにいかなかったら自分の不運を嘆いてしまうのが普通だ。ただそれは不運じゃなく日常なのだ。今までが幸運だった。普通はそこまで上手くいくことの方が少ない。だからまた頑張れば良いという気持ちを持つ事が大事だ」


 アラルの言葉を聞いている4人は全くその通りだと感じていた。出ないのが普通なのだ。またダンジョンに挑戦すれば良い。クイーバには未クリアのダンジョンがある。そこで挑戦すれば良い話だ。


 ところでと言ってローリーがランディの指にはめている指輪をテーブルの上い置いた。それを一瞥したアラルが顔を上げた。


「この指輪を手に入れた時の様子を詳しく離してくれぬか」


 ローリー頼むというランディの言葉でローリーが49層のゴーレムを倒した時の話から50層のボス戦の時の話を詳しくアラルに説明する。ギルドでは説明をしなかったが彼は別だ。彼が無闇に第三者に話をすることがないと知っているし詳細を話した方が良い詳しい鑑定結果を得られるだろうと思っている。


 ローリーが話終えるといくつか質問をしてはもう一度指輪をじっくりと見るアラル。こんなことは今までは無かった。聞かれた質問に答るとしばらくしてからアラルが言った。


「この指輪は今は使えない。効果が切れている」


「!!」


 その言葉にびっくりする4人。


「ローリーの話を聞いてから今一度鑑定してみた。微かに効果が残っておった。ローリーの説明がなければわしも効果のない指輪だと言うところだった。ほんの微かに残っているだけだった」


 4人はアラルの次の言葉を待っている。


「言った様にもう使えない指輪だ。つまり効果を発揮したということになる。この指輪の効果は1度きり。その効果は全ての毒の無効化だ」


 その言葉を聞いて理解したローリー。他の3人もそう言うことだったのかと合点がいった表情になる。


「その通りだ。ランディが浴びた煙は強烈な毒の煙だったのだろう。それをこの指輪が完全に無効化しておる」


「なるほど。それで納得だ。指輪がなかったら煙を浴びた人間は生きていられない。ボスの特殊攻撃は大暴れと毒の煙だったのか」


 ローリーの言葉におそらくそうだろうというアラル。


「煙を浴びたのがランディで指輪をしていたのもランディ。だから何事も無かったのだろう。普通なら大量の毒の煙を浴びたらすぐに倒れて死んでいただろうな」


 アラルに言わせると指輪に残っていた効果から推測すると相当強い毒を浴びてもそれを無効化するだろうと言う。そしてこの指輪をじっくり鑑定してまた鑑定スキルが1つ上がったらしい。アラルのスキルが上がるほどのアイテムであれば強力な毒でも無効化するというのも頷ける。注意深く見なかったわしもまだまだだなと苦笑しているアラル。


「ローリーの見立て通りだった。なんだ指輪かと装備せずにポケットにしまっていたら死んでいたところだ」


 ランディが言った。


「最後の最後ででかいギミックを仕掛けていたということか」


 ハンクが言うとそうなるなとランディ。ローリーは自分の勘が当たっていて良かったと思うと同時にハンクが言った様に49層は最後に大きな仕掛け、ヒントを隠していた。最初のギミックと最後の指輪。途中がそうややこしくなかったのも納得だと感じていた。


「残念ながらここ流砂のダンジョンでは雫は出なかった様だが次はクイーバに行くのかい?」


「そのつもりだよ。ここリモージュで少し休んでから今度はクイーバの大森林のダンジョンに挑戦する」


 その言葉にわかったと頷くアラル。


「クイーバはナタール河の対岸だ。少し遠くはなるが鑑定が必要ならいつでも来てくれ」


「ありがとう」



 アラルの店を出て早めの夕食にとレストランに入った4人。流砂のダンジョンをクリアしたので酒が解禁になった。4人は久しぶりにアルコールを飲みながら食事をする。


「それにしても相変わらずのローリーだ」


 ビールのおかわりを頼んだハンクが言った。


「勘と言っていたが勘でもあの読み筋は出てこないぞ」


 同じ様に旨いと言いながらビールを飲んでいるマーカス。


「いつもローリーが言っている違和感を探せってやつだな」


「その通り。49層が入り口のところがややこしくてあとは比較的楽だっただろう?こんな筈は絶対にないって思ってたからな」


 そう答えるローリーも久しぶりの酒を楽しんでいる。


 ランディ、マーカス、ハンクの3人は以前からローリーの優秀さを知っているがそれでも彼の能力の高さ、読みの鋭さに驚かされていた。


「ドロシーらにはしっかりと話をしておかないとな」


 ビールを飲み終えて食事に手を伸ばしたランディが言った。


「その通りだ。彼女らの戦闘力は高い。普通に戦うだけなら49層、50層は問題ないだろう。仕掛けと指輪の件を説明しておけばいい」


 ローリーはハバルの話を聞いた時からあのゴーレムと大きな宝箱、指輪。このセットは挑戦者が49層を攻略すると必ず出てくるものだと確信している。でないと50層のボス戦での勝ち筋が見えてこない。


 あの濃い紫の煙は初動無くいきなりボスの口から吐き出されてきた。見極めるのはまず不可能だろう。ローリーが叫んだ時にはすでに煙がランディの体を包みかけていた。そしてその毒の効果も通常の毒の何倍もありそうだ。煙に巻き込まれずにボスを倒すのは難易度が高すぎる。一方で毒の煙が関係無いとなれば勝率はグッと上がる。


「ドロシーらが天上の雫を手にいれる確率はかなり低いと思う。大きな期待はせずに俺たちはクイーバに向かう準備をしよう」


「彼女らもここをクリアするとS級になるんじゃないか?」


 ハンクが言うとそうなるだろうなとローリー。


「そして、おそらくリゼに戻ったら龍峰のダンジョンに挑戦してそれもクリアするだろう。それくらいに彼女達も力をつけている。S級昇格は当然だな」


 天上の雫は出なかったが装備は強化されダンジョンはクリアできた。4人の表情は明るい。ローリーはその場では言わなかったがクイーバでも出ない場合にはもう一度エルフの村に頭を下げに行くことを考えていた。何も言わないがランディも同じ事を考えているだろう。ただだからと言ってクイーバより先にエルフに頼みに行く気はローリーには無い。あくまでこれは出来る限り自分たちで解決すべき事柄だと考えていた。


 死んだ人間を蘇生する。これをやることが良いのかどうかはわからない。神への冒涜かもしれない。でもそれでもローリーは自分の仲間を生き返らせる可能性があるのであれば周りが何と思おうがそれに向かって突き進むつもりだ。

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