第54話

 洞窟は真っ直ぐに奥に伸びているがそこには魔獣というか敵の気配は全くない。入り口近くで交代で仮眠をしてしっかりと休んだ4人はランディを先頭にして広い洞窟の通路の中央部を歩いていた。気配がないとは言えいつでも剣が抜ける戦闘態勢を維持したままゆっくりと奥に進んでいく。ローリーは強化魔法を切らさない様に掛け続けている。洞窟の中はどう言う原理になっているのかぼんやりと明るく20メートル前後の視界は保たれていた。


「右だ!」


 突然ローリーが声を出した。条件反射の様に右を向く3人。すると洞窟の壁になっている岩が動き出して人型になると4人に襲いかかってきた。ロックゴーレムだ。しかも1体だけでなく複数体のロックゴーレムが左右の壁の岩から飛び出してきた。彼らは岩に擬態している間は魔獣の気配を出さない。


 ただローリーがいち早くその気配に気がついたことと4人全員がずっと戦闘態勢だったこともありいきなりの戦闘となっても慌てなかった。


 ヒヒイロカネを使った新しい剣がロックゴーレムの体を切り裂いては倒していく。危ない場面もなく4体のゴーレムを倒し切った4人。


「武器が優れているのとしっかりと準備をしていたおかげだな」


「それとローリーの気配感知も見事だった」


 戦闘が終わった場所で立ったまま水を飲みながらの会話だ。ハンクとマーカスが話をしている間も4人全員が水を飲みながらも周囲を警戒している。


「これはまだほんの序の口だろう」


「ランディの言う通りだ。ロックゴーレムは高さがない。気を抜かずに進もう」


 その後も真っ直ぐに伸びている洞窟の中では天井から蝙蝠の大群が襲ってきたり、壁の凹んだ場所に隠れていた獣人が襲ってきたりしたがそれらを排除しながら進んでいく4人。蝙蝠は単体ではSランクだが群れるとSSに格上げとなる面倒な敵だがこれにはローリーの精霊魔法が大きな威力を発揮した。魔法を範囲化して近づいてくる大群を次々と落下させていったのだ。マーカスも妖精の弓で矢を連射できるので次々と蝙蝠を落としていった。


「たまには仕事をしないとな」


 笑いながらそう言ったマーカス。いくら連射できるとは言っても飛んでいる蝙蝠に次々と矢を命中させるのは簡単ではない。他の3人は彼の実力を知っているので当たり前だとは思っているが並の実力では蝙蝠に矢を命中させることはできないだろう。


 洞窟を攻略し始めて3時間以上が経過していた。相変わらず1本道で真っ直ぐに奥に伸びている。歩いていると背後からローリーの声がした。


「前に大きな気配がある」


 声と同時に彼が強化魔法をかけ直す間に他の3人が剣、盾、弓を構えて戦闘態勢になる。



「ゴーレムだ。2体いるぞ。それもでかい」


 ローリーがそう言った直後、薄暗い通路の奥から体長が6メートルはあろうかとういう土色をしているゴーレムが2体こちらに近づいてきた。こいつは突き出した手の平から岩石を飛ばしてくる。もちろんその身体にものを言わせて腕力も相当ある。


「新しい装備の腕の見せ所だぜ」


 そう言ったランディが挑発スキルを発動すると2体のゴーレムがランディをターゲットにする。どうやら2体のヘイトは連動している様だ。


 神龍の盾、ファイアードラゴンのアーマーでしっかりと防御力を上げたランディがゴーレムの岩石やパンチをがっちりと受け止めた。


「大丈夫だ。耐えられるぞ」


 それを聞いた他の3人が1体に集中して攻撃を開始した。ハンクの片手剣が振られる度にゴーレムの体に大きな傷がつき大きな声をあげる。その傷口に精霊魔法と矢がピンポイントで命中しては傷口を広げていく。ローリーはランディに回復魔法と強化魔法を上書きしながら彼の様子を見ていたが想像以上にがっちりとタゲをキープし続けている。大きなダメージも喰らっていない。そして時折突き出す片手剣がゴーレムの腹に傷をつけていた。


 もう1体のゴーレムを3人で攻撃し続けるとゴーレムの動きが鈍くなってきた。マーカスの矢の連射、ハンクの片手剣、そしてローリーの大きな精霊魔法がゴーレムに命中するとゴーレムがその体をバラバラにさせて洞窟の地面に崩れさった。


 すぐにランディがキープしているもう1体に攻撃を仕掛ける3人。同じ様に絶え間なく攻撃を続け2体のゴーレムがバラバラになると洞窟に静寂が訪れた。


「SSかSSSクラスくらいか?硬いだけだったな」


 剣を鞘に直し、大きなため息をついてからそう言ったランディ。


「SSSクラスじゃないか?ランディががっちりと1体をキープしてくれたからこっちは楽だったよ」


 思い通りに片手剣を振ってダメージを与えていたハンクが水を飲みながら言った。


「その通りだ。それにしても武器と装備が優秀すぎるな。ランディ、ほとんどダメージを喰らっていなかっただろう。回復魔法の回数が少なかった分精霊魔法に集中できたよ」


 言われたランディがローリーに顔を向けた。装備関係が充実しているのでSS級より上のランクの魔獣でも通常攻撃だけなら問題なく対処できるという。


「盾はもちろんだがこのアーマーも相当なモノだ。おかげで危ないと思うことはなかった」


 息を整え再び歩き出すとすぐに洞窟の左右に大きく凹んでいる場所があった。


「ここに今のゴーレムがいたんだな。それで俺たちを感知してここから出てきたってわけか」


 窪みの大きさが今倒したゴーレムの大きさと同じくらいなのを見たローリーが言った。窪みの幅は3メートル程だが奥行きは4メートル程あり休めないことはなさそうだ。その場でしばらく様子を見るがREPOPする気配はない。


「ここは大丈夫そうだ」


 4人で相談してここで大休憩を取ることにする。この先の様子がわからない中、休めそうな場所ではしっかり休むのが鉄則であることを知っている4人。窪んだ部分に思い思いに座るとローリーが収納から取り出した食事と飲み物を摂りながら休憩する。


「まだ半分来てないだろう。それで今の強さだ。奥に進むとさらに強いのがいそうだな」


「49層だから当然だな。もっと強いのや今のクラスの数が増えて襲ってくるか。いずれにしても俺たちはそいつらを倒して50層に行くだけだ」


 仲間のやりとりを聞きながらローリーはその通りだと思っていた。強いからと引き返すこともできないこのフロアでは敵を倒していかないとボス部屋には辿り着かない。ある意味やることがはっきりしている。自分はフロアの中で安全地帯を探し前の3人がしっかりと休める環境作りをすることも仕事だと理解している。


 武器、装備関係は確かに充実してきているがそれだけでは勝てない。最後は強い気持ちだと思っているローリー。気持ちで負けると勝てる相手にも勝てなくなる。逆に強い気持ちでいればギリギリの戦闘でも勝利が転がってくる。ここにいるメンバーは皆それを知っている。


 ビンセントのためにもボスを倒さなければならない。その強い気持ちを忘れずにいこうとローリーが言うと3人が大きく頷いた。

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