第9話
後衛の一斉攻撃と同時に前衛の4人はヘイトを気にせずに全力でNMに切り掛かる。ランディとドロシーは盾を構えながら片手剣を顔の左右に突き出し、ハンクとケイトもNMの胴体を切り裂くべく何度も片手剣を振り回す。
NMのタゲが後衛から前衛に移った。すぐにランディが挑発スキルを発動してタゲを取る。これからが本当の戦いだ。ローリーは少し離れた場所から魔法を打ちながら4人の動きとNMの動きを見ていた。タゲはランディが取っているしルイーズの強化魔法もかかっている。あの防具と盾であれば1度、いや2度くらいまでは魔法をまともに喰らっても大丈夫だろう。問題はランディ以外にタゲが移ることだ。
「ランディにしっかりとタゲをキープさせてくれよ。ブレるとまずい」
わかっていても声を出す。それによって熱くなっている前衛の頭の中を冷やす目的もある。一旦NMから離れていた狩人と魔法使いもインターバルを開けて魔法と矢をぶつけていった。
表面的には大きな変化がない様に見えていたNMの動きが悪くなってきたのを見極めたローリーが再び声を出した。
「動きが遅くなってきているが焦るなよ。まだ技を隠しているかもしれない」
そう言った瞬間にNMの口が大きく開かれた
「逃げろ」
声と同時にランディとドロシーが左右に飛んだ。彼らもNMが口を開いたのを見たのだろう。すぐいその開かれた口からそす黒い液が吐かれるとその液が着地した砂漠の砂が変色しながら湯気を立てた。
「消化液だ、気をつけろ」
「わかった」
消化液はその後も2度飛んできたがそれらを避けながら攻撃を続けていると巨体を大きく震わせたNMがその動きを完全に止めた。30分弱の戦闘時間だった。
しばらくすると光の粒になって消え、NMがいた場所に大きな宝箱が現れた。ドロシーがランディを見てから宝箱に近づいて開けると中には金貨と盾、腕輪が入っていた。女性5人が近づいて金貨を取り出しながら箱の中を探していたが盾以外のアイテムは入っていなかった。
「薬品はないみたいね」
宝箱から顔を上げたドロシーが言った。
「ダンジョンの中層だ。期待はしていないよ。それより盾が出て良かったんじゃないか。地上に戻ったら腕輪と一緒にアラルに鑑定してもらうといい」
ドロシーの言葉に答えるランディ。一方で女性達は金策と装備が出て満足した表情になっている。中層とはいえ地獄のダンジョンから出た装備品だ。ハズレアイテムであるはずがない。
NMを倒した一行がそのまま攻略を続けるとそう時間が経たずして彼らの前に36層に降りる階段が見えてきた。
地上に上がる前に36層に降りると今までとは全く違う景色が目の前に広がっていた。6層から35層まではひたすら砂漠のフロアだったがここにきてそれが一変する。
「これはややこしそうだ」
「このままずっと砂漠が続くとは思ってなかったけどね」
そう話す彼らの前には大きくて薄暗い洞窟の中に地下宮殿の様な景色が広がっていた。ただその宮殿は半分崩れている。洞窟の天井部分からは絶え間なく砂が落ちてきており柱も斜めになったり倒れたりしているのがあるそして当然床面は一面砂に埋もれていた。奥は暗くなっていてどうなっているのか階段を降りたところからは見えない。今まで陽が差し込みだだっ広い砂漠ばかりのフロアが続いていて身体がそれに慣れていると突然180度変わったフロアが登場してくる。
「ようやく地獄のダンジョンらしくなってきたじゃないか」
「その通りだ。これからが本番だろう」
ランディとローリーはそう言い合うと上に戻ろうと地上に戻ってきた。
「地獄のダンジョンの35層か?それにしてはなかなの物だな」
鑑定を終えたアラルが開口一番そう言った。店の奥には9人の冒険者達が集まっている。地上に上がってすぐにアラルの家に顔を出したが彼は嫌な顔一つせずに見てやろうと鑑定を行った。
「まず盾だが相手の物理、魔法のダメージ20%減少させると同時に受けたダメージの20%を体力に還元する効果がある。ランディが持っている神龍の盾の劣化版だな。ただ劣化版というのはあくまで神龍の盾と比べての話だ。これも優れものであることに違いはない」
説明を聞いたドロシーの表情が明るくなった。アラルの言う通りランディの盾と比べるから劣化版に見えるだけでダメージを軽減し一部を体力に還元する盾なんて他にない。
「腕輪は素早さ+2の腕輪だ」
そう聞いた彼女達。腕輪は戦士のケイトが身につけることになった。鑑定が終わるとアラルが男達に顔を向けた。
「流砂のダンジョンはどんな具合だ?」
「次が36層だけどそろそろいやらしく、地獄のダンジョンらしくなって行きそうな感じだよ」
聞かれたランディが答えた。
「鑑定はいつでもしてやる。無理はするなよ」
アラルの家から出た彼らは宿に戻って食堂で食事をとりながら全員で次に攻略する36層の打ち合わせをする。今までの比較的緩かったダンジョンが終わってこれから本当に地獄のダンジョンと呼ばれるフロアが続くのだろうと全員が気を引き締める。
「見た限りだと宮殿の中が通路代わりになっているのだと思う。奥に伸びているんだろう。宮殿の柱の影や倒れている壁の向こうにはAからSクラスの魔獣が隠れていると思った方が良い。それとだ、見た限りは床の上に砂が積もっている様に見えるだけだったがあの砂の中からも飛び出して来ると思った方が良い」
「床に埋まった砂の中に隠れているってこと?」
ケイトがそう言うとその通りだとローリー。その言葉をフォローする様にランディが言った。
「ツバルの火のダンジョンでは煮えたぎっているマグマの川の中からランクAの魚が飛び出しては俺達に襲い掛かってきた。何があっても不思議じゃないんだ」
「その通りだ。砂がたとえ10センチ程度しか積もってなくても何かいると思っていた方が良い。それで何もなければ良いし万が一いた時には気構えが出来ているので対応できる」
「この前言っていた悲観的に考えろって事だね。それで他に気づいた点はあるの?」
ドロシーが聞いた。
「見える範囲で気が付いたのはそれくらいだ。フロア全体の広さが見えないが野営前提になるだろう。そして野営場所以外に安全地帯があるはずだ。皆も何か見つけたり違和感を感じたら遠慮なく言ってくれ。間違ってもいいんだ。9人の目が必要になる」
打ち合わせが終わるとさっきのNM戦の話になった。ドロシーらに言わせると自分たちだけだとかなり厳しい戦いになっただろうという。
「おそらく私たちだけだとNMを避けていたかもしれない。あの大きさで体力もありそうなNMを相手に5人で挑戦する勇気はなかったかもね」
ドロシーに続いてケイトが言った。
「逃げるのも当然ありだよな。無茶をして事故が起きたらどうしようもない。俺たちも以前の装備だったらドロシーらと同じだっただろう。そしてこれから地獄のダンジョンの下層におりていくとそのあたりの見極めも大事になってくる」
ランディの言葉に頷く他のメンバー達だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます