第8話

 34層に飛んだ9人はオアシスで1泊して2日でフロアを攻略、その後も35層の砂漠のフロアを攻略した。砂嵐、流砂渦らの罠があるが34層より難易度が少し高い程度のフロアは9人にとって障害にはなっていない。


 今も土の中から飛び出してきたランクAのスコーピオンをタコ殴りにして倒したところだった。ランディとドロシーの2枚盾は複数体のリンクでもしっかりと魔獣のタゲをキープするのでそれ以外のメンバーは好き放題に攻撃をしている。


 オアシスで野営をしてしっかり体力と気力を回復した9人は翌日に再び35層の攻略を開始する。


「右に渦ができるぞ!」


 ローリーの言葉で全員が左に逃げるとその直後に直径10メートルはあろうかという大きな流砂渦が現れた。


「これはでかい渦だ。ローリーの指示がなかったら2人くらいは巻き込まれていたかもしれないぞ」


 たった今できた流砂渦を横目に見ながらランディが言った。他のメンバーも全く同じ気持ちだった。まず流砂渦の気配に気が付かない。突然砂漠の表面に蟻地獄の様な渦が形成されるのだがローリーはその渦の気配をことごとく感じては事前に指示を出している。全員がロープを持っているが今までそれが使われた事がない。


 恐ろしい程の気配感知能力だと女性5名は感じていた。


「ローリー、その気配感知は訓練で高めたの?」

 

 左右の警戒しながら砂漠を歩いてるメンバーの中のケイトが聞いてきた。


「その通りだよ。最初は分からなかったが意識して周囲を見ていると少しずつ違和感に気がつく様になった。それを続けていたからじゃないか」


 最後尾で皆と同じ様に周囲を警戒して歩いているローリーが答えるとそれにしても半端ない能力ねと言う声がする。


「普段から意識していれば誰でも身につけることができる。特別な能力じゃない」


 あっさりと言うが普段から意識づけをして活動するのは簡単そうで簡単ではない事をこのメンバーは知っている。常に周囲を警戒することが習慣付かないとここまでの気配感知能力はできないだろう。彼の言葉を聞いていた8名は全員がローリーは冒険者になるべくしてなった男だと感じていた。


「前方に大きな気配がある」


 砂漠の中を歩いているとマーカスが声を出した。すぐにシモーヌも同じ様に言う。


「大きい。NMっぽいわよ」


 狩人の2人は交代で広域サーチスキルを発動していた。特に起伏の向こう側が見えない場所ではサーチスキルは有効だ。砂漠の上の踏み固められた道が上りになっていて起伏がになっていたのを見たマーカスがスキルを発動させて向こう側にいるNMに気がついて言うとシモーヌも同じ様にスキルを発動する。


 9人は歩く速度を落として砂漠の起伏を登り、その上から向こう側を見る。


「間違いないな。サンドワームのNMだ」


「大きいわね。10メートル以上よ」


 起伏の上から50メートル程先に砂漠の上に1体のサンドワームがその全身を砂の中から出して砂の上に横たわっている。9名が起伏の上からNMを見下ろしている中、ランディがローリーに声をかけた。


「どうするよ?」


「サンドワームはほとんど目が見えない。その代わり聴力に優れている」


 挙動を確認する様に言うローリー。周囲もその通りだと頷いて聞いている。


「魔力は多い。おそらく近づくと土系の魔法を詠唱してくるだろう。動きも遅そうだがこれはわからないな」


 そう言ってから全員を見て続ける。


「マーカス、シモーヌ、カリンと俺の4人が遠隔から魔法と矢で攻撃、攻撃するとすぐに離れる。魔法は風系だな。その間に他の6人がNMに近づいて左右に陣取って攻撃する。ルイーズは盾の2人のフォローを頼む。身体は硬いだろう。時間をかけて倒そう」


「常に後衛がタゲを持つ様にするのね」


 ケイトの言葉にそうだと言うローリー。


「最後まで後衛がタゲをキープするのは無理だが少しでも前衛の負担を軽くしたい。俺は魔法を打ちながらルイーズと一緒に前衛のフォローもする。あいつはある程度離れると魔法を撃たない。そのギリギリのラインを早く見極めるのがポイントだな」


 ローリーの作戦で行くことになった。最初にローリー自身が先頭に立ってゆっくりとNMに近づき相手の魔法の射程距離を測る役目をすることにする。ローリーが後衛の中では一番硬い。ルイーズが背後から一緒に近づいて万が一魔法を喰らった時のフォローをすることにした。


 遠隔攻撃をする3人は同時に魔法や矢を撃たずにタイミングをずらせて攻撃することにする。前衛の4人はランディとドロシーがNMの正面の左右に立ちケイトとハンクはNMの左右に立って攻撃することになった。


 打ち合わせが終わった。ローリーが先頭に立ちその背後にルイーズ。その後ろに残りのメンバーが続く。起伏を降りてもまた動きがないNM。ゆっくり近づくとNMの身体が震えた。すぐに背後に逃げるローリー。逃げる前に立っていた場所に空から石の塊がいくつも落ちてきた。


「えげつないな」


 落ちてくる石を見ているランディが言った。彼はローリーなら普通に魔法を避けるだろうと知っているので冷静だが他のメンバーはローリーの逃げ足の速さにびっくりする。身体が震えたと思った瞬間にローリーはその場にはいなかった。直後に石の塊がその場に落ちてくる。


「30メートル程だな。もう1度やる」


 そう言って近づいていったローリーだがNMの仕草は同じだった。その場から動く気配はない。2度やって挙動を理解した後衛陣が近づくとギリギリの範囲から魔法と矢を交互に打ち始めた。と同時に前衛陣が左右に散ってNMに近づいていく。


「動くかもしれないから挙動には注意してくれよ!」


 叫びながら自分も精霊魔法を打ち始めるローリー。NMの土魔法が後衛の連中の近くに数度落ちてきたところで片手剣の攻撃が始まった。前衛で剣を振っている4人もプロだ。ヘイトの管理をしてタゲがふらつかない様に調整しながらNMに傷をつけていく。


 戦闘が始まって10分弱だ。今のところタゲは後衛だがそろそろ限界だろう。NMの図体が大きくてダメージを与えているかどうかわからないが当てた攻撃の分は間違いなく傷ついているはずだと割り切ったローリーが大きな声を出した。


「魔法と矢は最大級のを頼む。打ったら範囲から離脱してくれ。これからは前衛中心で削るぞ」


 その声でカリン、シモーヌ、マーカス、そしてローリーが一斉に魔法と矢をNMに撃った。それが直撃すると長い胴体の頭部分を砂漠の砂の上から浮かせて身体を震わせる。その時にはダッシュで背後に駆け出していた後衛。そのわずか後ろに大量の石の塊が落ちてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る