第23話

 ほとんど変化のない一本道の通路を歩いていると自分が今どこにいるのかが分からなくなってくる。今では背後に降りてきた階段も見えず、真っすぐに伸びている通路は暗闇の中に消えている。


 そんな中を忍の2人を前にした4人は罠を探索しながら通路を進んでいた。その後ろを

ランディとローリーが歩いていた。このフロアでは罠を見つけるのは忍の2人の仕事でその間ローリーはすることがない。2人の後ろを歩きながらこのフロアの攻略を開始してどれくらいの時間が経ったのか考えていた。


 景色がほとんど変わらない一本道の様な通路にいると時間の感覚が分からなくなる。今まで2度大休憩を取ってそれぞれ3間程の仮眠を取っているが普通のフロアと違って罠を探す為の疲労が大きいので普段よりも早め早め、そして多めの休憩を取っている。2度の大休憩を取っているが現実で2日経っている訳ではないだろう。恐らく1日とちょっとくらいか。


 となるともうすぐ42層に降りる階段が見えてくるはずだ。


 そんな事を考えているとカイが片手を横に伸ばした。罠があるという合図だ。


「今までの突起とは違う」


 そう言ってカイが指差した先にある突起は今までとは確かに違っていた。床の上に敷かれている石垣の中央部分の1つが周囲より4分の1程浮き出ているのだ。


「あからさま過ぎるな」


「どうする?押してみるか?」


 ランディとカイのやり取りを聞いていたローリーが


「押すのはちょっと待て。その前に周囲を探索してくれるか?」


 そう言ってから続けて言った。


「ランディが言った様にあまりにもあからさま過ぎる。何となくだがこれは押してはいけない気がするんだ。周囲に何もなければこの罠を避けて向こう側に行こう」


 今までは突起を押して罠を作動させて安全を確認してから奥に進んでいた。ただ通路の奥、つまりフロアの奥にきてこの見え見えの罠。ローリーは今までとは違う、普通じゃない気がしていた。


「見える限りこの周囲に罠はない」


「こっちも同じだ」


 カイとケンの言葉を聞いたランディがローリーを見る。忍の2人も同じ様に彼に顔を向けた。どうする?といった視線だ。


「その杖で突起している石の周囲の床を叩いてくれないか。落とし穴なら音が違うはずだ。間違っても突起は叩かないでくれよ」


 2人が手前側から杖の先の横棒で通路を叩いていくと突起している石の周辺で音が変わった。誰が聞いても石の床の下が空洞であることが分かる音だ。音から判断して空洞部分は盛り上がっている石の手前1メートルから始まっているが奥がどこまであるかがわからない。忍の2人が杖を持っている手をいっぱいいっぱい伸ばして叩いても音が固くならなかった。


「幅は2メートル以上、何メートル先まであるか分からない。飛び越えるのは危険が大きすぎる」


 ローリーがそう言ってからうなり声を上げた。


「あの突起を押したら床が落ちるのか?」


 ランディが聞いてきた。


「逆もあり得るなと思っているんだ」


「「逆?」」


 今度は忍の2人が声をそろえて聞いてきた。


「そうだ。突起を押すことが床の崩落を防ぐスイッチかも知れない。かといってこの場で杖で叩いて万が一崩落した場合に自分達が前に進むことができなくなる可能性もある」


「じゃあどうする?」


 ローリーはその場で座り込んで水を飲む。彼の仕草を見た他の3人も同じ様に水分を補給することにしたが水を飲みながらも3人の視線はローリーに注がれていた。しっかりと水を飲み終えたローリーが3人を見て言った。


「やっぱりあの突起を叩こう」


 数分の沈黙の後ローリーが言った。


「それでもし床が崩落したら?前に進めなくなると言ったのはローリーだぞ」


 そう言ったカイを見るローリー。


「その場合には入り口に引き返して一旦41層から離れる。恐らく挑戦者がそのフロアから離れると罠は全てリセットされるはずだ。明日以降でまたこの通路の最初から挑戦すればいいんじゃないか」


 ローリーの言葉を理解する3人。地獄のダンジョンの深層ではとりあえずやってみようという発想が通じないケースが多い。正に今がそのケースだ。


「それが一番確実か」


 ランディが賛成した。忍のカイとケンも他に代案が浮かばないので分かったと言った。


「あの石を押して床が固くなったら戻らなくても良いからな」


 そう言ったカイがやるぞと手前から杖を伸ばして床の中央で浮かび上がっている石を杖で叩いて沈めていく。周囲と同じになるまで叩くとカチっという音がした。


「さっきと音が違うぞ、普通の床の音になった」


 スイッチを杖で押したあとに再び周囲の床を叩いたカイが興奮した声で言った。ケンも同じ様に床を叩いて音が違うと言う。


「押すことで空洞が無くなったのか」


「そうだろう。とりあえずはよかったよ、これであの通路を戻らなくて済む」


 ランディが言うと全くだと言ったローリー。その後ゆっくり足元を確認しながら罠を越え、その場から10メートル程離れた所で床の上に腰を下ろした4人。


「結果的には最初から押したらよかったんだな」


 とケン。


「結果はそうだがそれはたまたま博打が当たっただけだ。俺は地獄のダンジョンで博打をする気はない。ローリーの考え方が正解なんだよ。最悪の事態を想定してからどう対処するかを考えるんだ。今回は最後は引き返せばいいと言う逃げ道があったからよかったけどそうでない場合も出てくる。その場合でも博打はうちたくない」


 ランディがケンに諭す様に言った。


「確かにそうだ。軽率な発言だった、すまない」


「平気さ。気にしなくてもいい。それよりここで休憩にしよう。時間の感覚がマヒしているので41層の攻略を開始してどれくらいの時間が経ったのか分からないが感覚的に42層に降りる階段はそう遠くないと思う。だからここでしっかりと休憩を取ってから攻略を開始しよう。疲れてると罠を見過ごすこともあるからな」


 周囲の景色に変化のない通路の中だが魔獣がいなくて好きな時に好きなだけ休憩が取れるのは有難いとローリーは思っていた。


 同じ様に休憩をとりながらカイとケンは通路の壁に背中をあずけて座りながら今のランディの言葉を思い出していた。全くもって彼の言う通りだ。地獄のダンジョンに限らずダンジョンの下層で何も考えずに博打をうつのは愚の骨頂だ。上手くいかなかった場合のリスクが大きすぎる。常にリスクを下げる方法を考えて行動することが何よりも大事なのだ。ダンジョン攻略は競争じゃない。しかもそのダンジョンが地獄のダンジョンとなればなおさらだ。

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