第22話
その後も罠を探しながらゆっくりと通路を進んで行きしばらく経った時に忍の背後を歩いていたローリーが声をだした。
「前方左側の壁の向こう側に魔獣の気配がある」
その言葉で全員が立ち止まってローリーを見た。
「おそらく隠し部屋だ。どこかにスイッチがあってそれを押すと左の壁が崩れるか開くかするのだろう。そして中にいる魔獣の気配だが強いぞ。SSクラス以上が1体いる」
「カイ、ケン、罠を探しながら進んでくれ」
ローリーが続けて言った。
10メートル程進んだところでカイが声を上げた。
「右の壁の石垣で1つだけ周囲と色が違うのがある。これだろう」
「それだ。距離的にもそれくらいだ。それを押すと左の石垣の奥の隠し部屋に通じるんだろう。通路の前方の安全を確保してから作動させよう」
ローリーの指示で忍の2人はさらに前方を探索していく。その間にランディが左の壁に体を近づけた。
「確かに何かいるな。ローリーの気配感知じゃないと気がつかないだろう。俺も左の壁に体を寄せてなんとか感知できるレベルだ。敵の強さまでは俺では無理だな」
元々のパーティの中でもローリーの気配感知能力が断トツで高かった。
「前方20メートルに罠はない」
戻ってきた忍のカイが言った。
「左の隠し部屋に魔獣がいるのは間違いない。ただ部屋に罠がないとも限らない。俺たちはこの通路で待機、そして隠し部屋の中から通路に出た場所、つまりこの場所で戦闘しよう。部屋の中に罠がある可能性もあるからな。部屋に入るのは中にいる敵を倒してからだ」
ローリーの案に全員が頷くと3人に強化魔法をかける。
「準備はいいか?」
「いつでも」
「いくぞ」
ローリーが隠し部屋と反対側にある石垣を押し込むと壁の一部が扉の様にスライドして開いていき中が見える様になる。
「獣人だ。片手剣を持ってる。前衛ジョブだな」
敵を見たランディが言うと同時に挑発スキルを発動した。部屋の奥からやってきたのは大柄なオークの獣人だ。普通のオークの1.5倍くらいの大きさがあるだろう。唸り声をあげて右手に持っている片手剣というか大剣を振り回してくる。
ランディが挑発スキルを発動して獣人を通路に引き摺り出すと獣人が振りかざしてきた大剣を盾でしっかりと受け止めた。同時に扉の左右に分かれて隠れていたカイとケンが刀で攻撃を始める。大柄で体力もある獣人はこちらが武器で体に傷をつけようとも浅い傷しかつけられない。
一方彼が振り回す大剣は間違って食うと大怪我をするほどの威力を持っていた。横に払う様にした大剣が通路の石垣に当たるとダンジョンの石垣に大きな傷がついていく。
忍の2人は見事な身体能力で魔獣の剣を交わしながら両手に持っている刀で足を中心に傷をつけていった。ナイトのランディも定期的に挑発スキルを使い攻撃を受け止めては片手剣を突き出している。
タイミングを測っていたランディの盾が前に突き出されると魔獣の攻撃が止まった。シールドバッシュ。瞬間的に敵をスタン、気絶状態にさせるナイトの特殊技だ。その瞬間に片手剣と刀、そして魔法が一斉に魔獣の胸や顔に命中する。数秒の間に大きなダメージを食らった魔獣は停止状態が解けた後は大幅に動きが悪くなっていた。その後は前3人と魔法をもう一度食らった魔獣が倒れ込むと光の粒になって消えていった。
「部屋の中に罠があるかどうか調べてくれ」
勝利の余韻に浸ることなくローリーが忍の2人に指示を出した。部屋の奥には大きな宝箱があるがその周囲に罠がないという保証はない。
「大丈夫だ。箱はランディが頼む」
床や壁、天井を調べ終えた2人が言うとランディが宝箱に近づいていき、何もないのを確認してから蓋を開けた。中には金貨と片手斧、そして腕輪と指輪が入っていた。
「片手斧は俺たちはいらない」
箱の中を覗いていたカイが言った。
「じゃあそれはもらおう。あとはカイとケンのものだ」
片手斧は今は眠っているビンセントのメイン武器だ。あとで鑑定をしてもらうが41層の隠し部屋の中から出てきた武器だ。優秀なのは間違いないだろう。
隠し部屋の宝箱といえばレア物が多い。普通なら皆欲しがるところだがランディとローリーは事前の約束通りに最初の選択権を忍の2人に譲っている。
カイとケンは顔を見合わせると中身をローリーの収納に納めておいてほしいといった。
「腕輪と指輪については鑑定結果を待ちたい。俺たち忍が必要のないものならその時点で2人に譲るよ」
カイがそう言うとランディが言った。
「いいのか?売って金策にする手もあるが?」
「それは考えてないんだよ。俺たち忍に取って有益なものや金貨はもらっている。あとはそっちがもらうべきだ。ダンジョンの中で十分に世話になってるしな」
「そっちがそう言ってくれるのなら俺たちは構わない。ありがとう」
彼らの気遣いが伝わってきて、忍の2人の申し入れを受け入れたランディとローリー。
カイとケンの2人は休日に戦利品の取り扱いについて話し合っていた。ランディとローリーからは蘇生薬以外は第一優先権が忍にあるという条件でダンジョンの攻略を開始したがそのダンジョンにおいてランディとローリーの実力と戦略の立て方を目の当たりにする。
彼ら2人は俺たちとはレベルが全然違う。こっちはまるで寄生だ。
とお互いに言っていた。最初はそこまで実力差があるとは思っていなかったが実際にダンジョンに入るとトゥーリアの2人が超優秀な冒険者であると同時に人間性も素晴らしいことが分かる。ランクAの忍をここまで信用してくれて惜しげもなく知識や経験を教えてくれる。それらの経験や知識は2人の忍がしっかりと自分自身のものにし、今では自分たちがダンジョン攻略開始前よりも何段階も上達していると分かる程だ。
この上戦利品を丸々貰うのは気が引けると考える様になっていた。
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