第21話
いくつ目かの罠をクリアしたところで休憩をとることにする。忍の2人にはゆっくりと休んで回復してもらいたいとランディが言った。場所の安全を確認するとめいめいが通路の壁にもたれて水分補給をしたり軽い食事を口に運ぶ。
ローリーは壁にもたれながら左右を見ると40層から降りてきた階段が見えているが反対の奥は何も見えない。まだフロアのほんの入り口付近にいることを自覚させられる。
ローリーが左右に顔を動かしているのを見て他の3人も同じ様にきた道とこれからの道を交互に見た。
「まだほんの入り口だな、それで休憩ができるのはでかいぞ」
水筒を口に含んでいたランディが言った。
「そういうことだ。時間は掛かってもいいから慎重に進んでいこう。魔獣がいないというのは俺たちにとっては楽だからな。時間を気にせずにこうやっていくらでも休憩が取れる」
ローリーのポジティブな発言を聞いている忍の2人の表情が緩んだ。
「確かに地獄のダンジョンの深層で魔獣を相手にしなくても良いってのはある意味ラッキーと言えるよな」
「ケンの言う通りだ。俺たちのペースで進めるからな」
カイが続けて言う。2人は正直まだ入り口が見えていたので少し気持ちが落ち込んでいたがトゥーリアの2人が悲観的な話をせずにむしろ楽だという発言をしている。ダンジョンでは肉体的な準備はもちろんだが気持ちの持ち方も重要になってくる。ネガティブ思考になると上手くいかなくなるのだろう。この辺りの気持ちの持ちようは流石にSランクだと感心している忍の2人。
しっかりと休むと再び忍の2人を前にして通路を進み始める。左右の壁や床にある仕掛けを見つけると杖で作動させては解除して慎重に進んでいった。いつの間にか振り返ると41層の入り口が見えなくなっていた。前方はまだ暗くて見えないが少しずつ進んでいるということが4人のモチベーションの維持になる。
矢が飛び出してくる罠を越え、その先10メートルは罠が仕掛けれられていないのを確認するとこの場所で野営をすることにした。今のところ魔獣の姿は見ていないが前方の安全が完全に確認できないので交代で見張りをすることにする。
ローリーが作り出している灯りの玉が天井近くに浮いていてそれが床を照らすので4人の座っている場所は明るい。とはいえあまりに明るくすると奥が見えなくなるのである程度の灯りにしているがそれでも洞窟内の他の場所に比べると明るくなっていた。
「灯りの玉というか光の玉をほとんど出しっぱなしだが問題ないのか?」
食事をしている忍の2人のうちカイが聞いてきた。
「この程度の魔法なら全く問題ないね。ライトという魔法は魔法使いが最初に覚える魔法で魔力の消費も一番少ないんだよ」
何でも無いと言った表情のローリー。実際彼にとってはほとんど魔力を消費していないので全く負担になっていない。
「ローリーの魔力は底なしのレベルだよ。ライト程度なら魔力を使っていないのと同じだと思うよ」
反対側で通路の奥を見つめながらランディが言った。彼が言うところの底なしの魔力という言葉には忍の2人も完全に同意している。今までのダンジョン攻略を見ていてもその言葉が嘘じゃないというのを2人は理解していた。魔力が切れそうだから休憩という場面が一度もない。かと言って魔法をセーブしている感じもしない。
ツバルの魔法使いなんて彼の前では魔法使いですと名乗ることすら恥ずかしいレベルだろうとカイは思っていた。
交代で睡眠をとってしっかりと休んだ4人。
相変わらず一本道で奥が見えない通路をゆっくりと進んでいく。
歩いているとカイとケンが同時に手を広げた。それを見て歩みを止めるランディとローリー。
「ローリー、天井を照らしてくれるか」
カイの言葉でライトの玉を上に上げるとそこに仕掛けが見えた。よく見ると石垣の隙間に尖った矢の様なものが3列に並んでいるのが見えた。
「よく気がついたな」
「床に複数の突起があるが今まで見たことがないのだったんでな。ひょっとしたら上から落ちてくる仕掛けかと思ったんだよ」
カイが仕掛けに目を注いだままで言った。床の上には突起が5つ横に並んでいる。
カイが杖を伸ばして突起の先端の1つを叩いた。音もなく上からものすごいスピードで矢が落ちてきた。しかも通路の幅いっぱいに渡って落ちてくる。奥にも落ちる。床の上に落ちた矢を見ると細い木の棒の先に鋭利な鉄の矢がついている。
続いてその隣の突起を叩くと同じ様に矢が天井から落ちてきた。
結局全ての突起から矢が落ちてくる仕掛けだった。
「ケン、もう一度最初から押してくれるか」
「わかった」
前を向いたままローリーの言葉に応えるともう一度左端の突起、スイッチを押した。すると再び天井から矢が降り注いできた。
「……嘘だろう?無限か?」
「ケン、そのまま左から右に順に押して作動してくれ」
ランディの呟きに答えずにローリーが言ったわかったと手を挙げたケンが順に突起を押して罠を作動すると全ての罠が作動し、矢が天井から次々と落ちてくる。
「カイ、今度は左から右に押してくれるか」
忍の2人はローリーの言われるままにスイッチを押していく。やはり矢が落ちてくる。
「飛び越えたらダメか?」
ランディがそう言うとローリーが収納から古くなって使わないローブを取り出して前に放り投げた。そのローブが横に並んでいる突起の上を通った瞬間に天井から多数の矢が落ちてきた。
ダンジョンの不思議なのか床の上に落ちた多数の矢はしばらくするとスッと消えてなくなっていく。
「突起を押す順番があるんだ。間違った順に押すと矢が落ちてくる仕掛けだと思う」
「ということは。右端と左端を最初に押したらダメだということだな」
ローリーの言葉にランディが続けて言う。
「その通り。時間はかかるが正しい押し方を探してみよう。正しければ押しても矢が落ちてこないはずだ」
床の上の突起を左から1、2と番号をつけて最後を5にする。
謎解きが始まった。
「2、4の順は間違いない。今その後に1を押したら矢が落ちてきたから3つ目に押すのは3か5だ」
「まさかダンジョンの中で謎解きをするとは思わなかったぜ」
苦笑しながらもローリーの言う通りに突起を押していくカイとケン。
結局2、4、5、1、3 の順に押すと矢が降りてこなかった。念の為に別のローブを投げて安全を確認してから突起の上を飛び越えて向こう側に渡ることに成功する。
罠を越えた先で休憩を取る4人。収納から取り出した冷たい水を飲んでいるとカイがローリーを見た。
「それにしても突起を全部推した後で進まなくて正解だったな。よく気がついたな、ローリー」
「地獄のダンジョンの41層だ。通路も奥に進むほどいやらしくなっているんじゃないかと思ってね。まさかとは思ったけど念の為にとやってみたけどそれが正解だったよ」
「普通なら全部押して作動したらそれで終わりだと思って進み始めるだろう。危なかったがローリーのおかげで命拾いしたよ」
疲れた表情で言ったカイ。彼は美味しそうに水を飲んでいるローリーを見ていた。念の為と言っているが普通ならあの慎重さは出てこない。今までの罠は全て一度発動するとそれっきりだったので当然次もそうだろうと思ってしまうのが普通だ。
ただ目の前に座っている男は違っていた。当たり前の様に光の玉を飛ばし続けながら罠の処理の時には考えられる可能性を全て潰して安全を確保しようとする。
こんな冒険者が世の中にいたのかとびっくりすると同時に感心するカイ。
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