第20話

 2日の休養を終えた日の夜、東の島の常宿の1階にあるレストランで夕食をとりながら明日からの打ち合わせをする4人。


「ダンジョンで言っていたがカイとケンの2人の忍でシーフ並みの探索が出来るということでいいのかな?」


 ローリーが聞いた。


「その通りだ。ジョブ特性で忍は他のジョブよりも罠探知、探索能力が優れている。そしてこれはランクが上がる、スキルアップすると強化されるんだ」


 忍のジョブ特性を聞いたローリーはこれで41層の攻略が見えてきたと感じていた。4人で食事をしながら明日からの攻略の打ち合わせをする。


「ただしだ」


 カイがそう切り出してランディとローリーに話をする。忍は罠探知、探索能力が優れていると言っても本職のシーフ程じゃないと前置きしてから言った。


「だから2人で1人前ということになるんだが。シーフは一目見て罠を検知することができるが自分達はそこまでクリアにはわからない。だから明日は2人が別のところを見ながらゆっくりと前に進むつもりだ」


「別のところ?」


 ランディが言うとそうだと言うカイ。


「俺は通路の右側を重点的に見る。ケンは左側を重点的に見る。1人が片側の壁と床の半分を担当する。忍の能力じゃ目に入る範囲全部を完璧にみることができない。罠感知能力はあるがシーフ程じゃない。なので役割を分担して集中することで張り巡らされているだろう罠を見つける作戦だよ」


 なるほどと頷く2人。それを見ていたカイが言葉を続けた。


「それと言っておくが2人でシーフ1人前と言ったがこれはあくまで罠を見つける能力についてだけだ。シーフの様に罠を解除することは出来ない」


「なるほど、わかった。でもそれでも全然違うぞ。俺たちなら罠すら見つけられないだろうからな」


 ランディの言う通りだ。罠がどこに仕掛けれられているのかがわかるだけでもフロアの攻略が随分と違ってくる。この2人と組んでよかったと改めてローリーは思っていた。


「たまには良いところを見せないとな」


 ケンが笑いながら言った。


 翌朝4人で地獄のダンジョンに向かうとそのまま41層に飛んだ。当然だが他に人はおらず3日前に見たのと同じ景色が4人の前に広がっていた。石垣で作られた真っ直ぐに伸びている通路だ。


 忍のカイとケンが魔法袋から長さが2メートル弱ほどの杖の様な物を取り出した。それはよく見ると杖の先に横棒が付いている。Tの字の横棒の長さは30センチ程で縦の長さは2メートル近くある。


 ランディとローリーの視線を感じたカイがこの杖を持ち上げて言った。


「これは罠を作動させる杖だよ。先端部分で床や壁のスイッチを叩いて罠を作動させるんだ。地獄のダンジョンの下層では一度起動した罠が再起動するかどうかはわからないがいずれにしても罠を見つけたら作動させる」


「なるほど。そう言われてみるとまさに罠を作動させるための道具だな。自分たちで作ったのかい?」


 ランディが2本の杖を見ながら聞いた。


「その通り。41層で必要になるだろうと休日の間にケンと2人で作ってきたんだ。魔法袋の中には予備もある」


 先を読んで事前に準備する。当たり前の事なのだがそれをしない冒険者が多い。特にここは地獄のダンジョンの深層と言っても良いフロアだ。考えうる最高の準備をしてもクリアできるかどうかギリギリのところだ。


 こいつらと組んでいてよかった。

 やりとりを聞いていたローリーは心底そう感じていた。


 今までとは全く違うフロアの攻略が始まった。相手は敵ではなく罠だ。忍の2人が長い杖を持ってゆっくりとフロアに進み出す。その後にランディとローリーが続いて歩き始めた。ランディもローリーも盾や杖は持ったままだ。罠だけのフロアと見ているが100%そうだという保証はない。突然壁が崩れて魔獣が飛び出してくる可能性もある。準備だけは怠らない様にしていた。


 足元や左右の壁を見ながらゆっくりと進んでいくカイとケン。ローリーは通路の先に視線を向けた。奥は暗くて先が見えないがまっすぐな通路が進んでおり今のところ魔獣の気配はない。


 通路に入って20メートル程進んだところで前を歩いている忍の2人が足を止めた。


「壁に罠がある」


 ケンが言った。


「作動させられるか?できるのならやってくれるか?」


 わかったと杖を持ったケンが組まれている石垣の1つを杖の先端部分のTの横棒で叩くとバシッと音がして通路の反対側から多数の鉄の針がものすごい勢いで飛び出して壁に当たって床の上に落ちた。鉄の針は反対側数箇所から飛び出してきた様だ。人がいたら足元から頭の部分まで突き刺さっているだろう。


「まともに喰らったら即死レベルだ」


 暫く待ってからもう一度罠を作動されると鉄の針は飛び出してこない。どうやらこの罠は1回限り有効な罠だ。ランディとローリーは顔を見合わせるとランディが言った。


「叩いたから作動したが奥にいくと感知して作動する事もあるだろうな」


 頷くローリー。


「十分考えられる。あと一度使ったら終わりじゃない罠もあるかもしれない。時間はいくら掛かっても良いからカイとケン、慎重に頼む」


「わかった。ゆっくり進むよ」


 もう一度石を叩いて作動しないのを確認したケンが前に進むとそれに続いてあとから3人が最初の罠を越えた。


 忍の2人は再び床と左右の壁を警戒しながらゆっくりと通路を奥に進んでいく。通路は奥に行くほど暗くなっている様だ。ローリーがライトの魔法を唱えて前を歩く忍達の3メートル程前に光源を置いた。


「ありがたい。これでずっと見やすくなった」


 カイがお礼を言った。松明なら片手が塞がる。前方に光源を配置することで通路全体が明るくなり忍の2人も動きやすくなった様だ。彼らは右手に杖を持ち、左手に刀を持ったまま壁や床を調べていた。


「床に突起物。恐らく仕掛けだ」


 今度はカイが声を出した。忍が止まると後ろの2人も足を止める。カイが杖の先の部分で床の突起を叩くと音がしてちょうど通路の中央あたりの床が抜け落ちた。仕掛けの突起物の前部分が陥没している


「落とし穴か。踏んでいたら先頭の人間は穴に落ちてるな」


 通路の床にぱっくりと口を開けている穴を避ける様に通路の左右に分かれて通り抜ける際に穴の中を見てみると底の部分には剣先を上に向けた多数の槍が立っていた。落ちたらまず助からないだろう。


「えげつないな」


 とケン。


「41層だ。ダンジョンのヒントはあるが一方でこんな風に冒険者というか挑戦者を殺しにくる」


「集中力が切れて走り出そうものならまず助からないだろう」


 落とし穴を回り込んで向こう側に出ると全員が大きなため息をついた。

 その後も壁や床にある仕掛けを作動させて安全を確認してから通路を奥に進んでいく4人。わずか100メートル程進むのに1時間ほどの時間がかかっている。


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