ネフド

第1話

 2人はその日もエルフの森に泊まり、翌朝長老以下エルフに見送られて村を出ることにする。ちなみにダンジョンボスを倒して宝箱から出た片手剣は攻撃力+50、素早さ+50という優れものだった。流石に与ダメージのいくらかを還元するといったスキルは付与されてはいなかったが…。打ち合わせ通りハンクが蘇生するまでランディが使うことにした。


「いろいろと世話になった」


「それはこちらのセリフじゃ。お前さんたちが来てくれて助かったよ。2人はエルフの友になった。これからはいつでも来たい時に来るがよかろう」


 コップに水が溜まったら妖精から2人に連絡するという。どういう連絡方法なのかと聞くと、


「その時が来れば2人とも分かる様になっておる」


 としか言わない長老のキアラ。


 ランディとローリーは最後にもう一度よろしく頼むとお願いするとエルフの森を抜けて来た時のジャングルの道を歩いて大河を目指す。ジャングルの木々の先に大河が見えて来て近づいていくと来た時と同じ場所の沖合に一艘の船が泊まっていた。


「終わったのか?」


 2人を見つけたハバルが船を砂浜に寄せて2人が乗船すると聞いてきた。


「ああ。終わった。リモージュに戻ってくれて構わない」


 ランディの言葉にうなずくと船のエンジンを始動させて船は今度はナタール川を下りリモージュの町を目指す。川岸についてから4日間が過ぎていた。



「ありがとう。世話になったよ」


「んむ」


 全く森の奥の話を聞いてこず、自分の仕事を全うしたハバル。無口だがしっかりと約束を守って川岸で待っていたハバルに礼を言った2人はリモージュの漁船の船着き場から市内に戻るとそのままアラルの店に顔を出した。


 2人を見たアラルはすぐに店の奥の部屋に2人を案内する。そこでランディがメインスピーカーとして川向うでの出来事をアラルに報告した。


「本当にいたのだな。森の民。そしてスキルの実か」


 聞き終えたアラルが感嘆した表情になる。


「運がよかったとも言える。いつになるかわからないが一人を復活させる約束は取り付けてきた」


「そこで残り全員分と欲張らなかったところが森の民の好感度を上げたんだろう」


 ランディの言葉にそれでよかったんだと言うアラル。


 実際はあの森で残りの3人を蘇生させるとなるといつになるかわからない。そうなったら年齢にばらつきがありすぎてパーティを継続していくことはできなくなる。そして待っているくらいなら他のダンジョンか人が入らない様な辺境を探索する法がいいんじゃないかと2人で話し合った結果、まず一人分だけ頼むという結論になっている。


 あとは森の民が自分達用にも必要だろうし、全てをこちらで貰う訳にはいかないという配慮もあった。


「それでこれからどうするんだ?」


「せっかくリモージュにいるんだ。流砂のダンジョンを覗くつもりだよ。攻略じゃない。中がどんな雰囲気かが分かれば次の挑戦の際に何を準備すれば良いかがわかる。とりあえず20層くらいまで行こうかという話をしている」


 ランディが言った。これも2人で決めたことだ。とりあえず20層あたりまで潜ればダンジョンの特徴や癖を掴むことができるだろう。そこでわからなければもう少し下層に降りれば良い話だ。


「お前さん達の実力とその装備があれば難しい事ではないな。わしは冒険者の事は詳しくないがそれでもその盾と剣、そしてローブを見るとどうだろう、この街にいるランクAの一番強いパーティと比較しても彼らよりもずっとお前さん達2人の方が強いのは間違いない」


「そう言われると自信になるよ」


 ランディが言った。


「わしはここにおる。何か鑑定や他に相談があれば遠慮なく顔だしてくれて構わないぞ」


 アラルの言葉に礼を言う2人。



 流砂のダンジョンの様子を見ようと決めたが無策のままダンジョンに入るほど2人は愚かではない。かと言ってこの街のギルドに顔を出すと自分たちの素性など余計な勘繰りをされる可能性がある。考えて2人はまずはここで宿に部屋を取ると、この街で冒険者がよく行くレストランや酒場に顔を出すことにした。


 自分たちも冒険者だから、冒険者が行く店を見つけることは難しくない。昼過ぎに1軒のレストランに入ると予想通りあちこちのテーブルに冒険者が座って昼食を取っていた。

装備を見てそこそこのレベルにいそうなパーティの近くの席に座った2人は食事をオーダーすると雑談をしながら周囲の会話に耳を澄ませていると会話が聞こえてきた。


「6層からの砂漠ゾーンが序盤の山か?」


「5層までの洞窟のパターンだと正面からしか敵がこないが砂漠はきついな突然砂の中から大蠍が飛び出してきやがる」


「サンドリザートも厄介だ。8層のは火まで吹くんだからな」


「ああ。フロアも広いしな。途中でオアシスがあって助かったぜ」


 あちこちで話をしている会話を聞いているローリーとランディは料理がくるとそれを口に運びながら小声で話をする。


「5層までは問題ないだろう。問題があるとすれば6層以降か」


 ローリーが言った。


「そうだな。ただ聞いている限りだが俺たちが苦労しそうな感じはしないな」


 そうだなと短いやりとりをして再び耳を澄ませる2人。


「そう言えばジャムスらが20層をクリアして戻ってきてたぞ」


「そうそう。何でも20層は砂漠で途中に何箇所も蟻地獄の様な流砂があってはまると1人では抜け出せないらしい」


「本当にえげつないダンジョンだぜ。今の所一番深い記録が30層だろう?」


「ああ。30層をクリアした奴らはそこで攻略を辞めちまったけどな。それ以来30層には誰も行けてない」


「でもまぁ10層あたりの魔物から出るアイテムや宝箱で金策にもなるしな。俺たちは無理せずやろうぜ」


 その後は新しい情報がなく2人は食事を済ませると店の外に出て一旦宿に戻って人がいないロビーのテーブルに座った。


「まぁ何というかイメージ通りのダンジョンっぽいな」

 

 ランディが言った。砂漠にあるダンジョン、通称流砂のダンジョンと呼ばれているので中も砂漠を模した造りでそこにいる魔獣も砂漠に生息している様な魔獣達だろうと予想していたが上層はその通りの様だ。


「中層から下層にかけてが同じ造りで魔獣達のランクが上がって強いのがいるのか、それとも造り自体が変わるのか。どうだろうな」


「龍峰のダンジョンは基本同じ造りでそこにいる魔獣の強さが上がっていったよな」


「ランディ、あそこがそうだったからここも同じだとは限らないぞ。何と言っても地獄のダンジョンだ。当然いやらしい仕組みになっていると思った方が良い」


「ローリーの言う通りだ。なまじクリアしているから変な先入観を持つとやばいな」


 2人は、いや彼らのパーティは皆柔軟な思考を持っている。だからさまざまな局面にも臨機応変に対応が出来た。正解は1つじゃないというのが彼らの考え方だ。セオリーはあるがそれに固執することなくその場その場で瞬時に対応を変える。それが彼らのランクを上げた原動力の1つになっていた。


「あとは夜だな。酒場に行って今度は直接聞いてみるか」


「そういうのはランディの役目だな。俺は人当たりがよくないからな」


 ローリーがいうとそうだよな、仕事はきっちりしてるけどなと笑いながら言うランディ


「俺に任せてくれよ。そういうのは得意なんだよ」


 自分でも認めている通りランディは社交的で誰とでも仲良くなれる。2人は夜は別行動をすることにした。その方が入ってくる情報が多いだろう。


「俺は酒場に行くがローリーはどうする?」


「とりあえず街をぶらぶらしながら考えるよ。酒場以外で情報が集まる場所があるかもしれない」


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