第3話
世界樹の恵で生き返ったマーカス。その話はあっという間にエルフの村中に広まっていった。
ローリー達はエルフから一軒家を与えられていた。そこで一晩中話をした4人。ランディやハンクと同じく最初は訳がわからない様子だったマーカスも話を聞いている内に涙を流しながら皆に礼を言う。
「あとはビンセントだ。俺たちのミッションはまだ終わっていない」
全員が落ち着いたタイミングでローリーが言うと続けてランディが言う。
「その通りだ。ハンクとマーカスにはこれからしっかり働いてもらうぞ」
「任せとけ」
「長い間眠ってたからな。これからは俺の仕事の時間だよ」
マーカスにはツバルの火のダンジョンで出た指輪と弓を渡す。遠隔攻撃アップの効果があり遠隔攻撃+2となるが弓術で使用するとこの攻撃力が+4になる指輪、それに遠隔攻撃力、命中ともに+20という弓だと聞いて驚いた表情になる。
「狩人専用のアイテムか。流石に地獄のダンジョンだな。出るアイテムがレア中のレアばかりじゃないか」
ランディ、ローリー、そしてハンクが持っている装備の説明を聞いていたマーカスはこれで俺も頑張れるぞと狩人の指輪を装備した。エルフの民が用意してくれた食事をとった4人は長老のキアラのいる建物に顔を出した。
「世話になった。おかげで無事に生き返ることができた。お礼が遅れてすまなかった」
マーカスが頭を下げた。
「気にせずともよい。そこにおるお前さんたちの仲間、特にローリーとランディには我らも世話になった。お互い様じゃよ」
マーカスに続いて3人もお礼を言うと長老のキアラがそう言い返してきた。
「世界樹の恵で生き返ったのが狩人というのも何かの縁じゃろう」
ニナがエルフ語で何かを言うと奥の部屋から付き人らしき女性が手に弓を持って部屋に入ってきた。
「お前さん達には世話になった。エルフを代表して礼を言わせてもらう。魔獣の退治、ダンジョンの破壊、そしてスキルの実。全てお前さん達がいなければ我らだけでは成し遂げられなかった事じゃ」
そう言って付き人が持ってきた弓を受け取るとそれをマーカスに差し出した。
「エルフからのお礼じゃ。受け取ってくれぬか」
「いいのか?」
弓には素人のローリーでも一目見てその弓が普通の弓とは違う業もの、レア物であると言うのがわかる。恐る恐る弓を手にしたマーカス。
「これは凄い弓だ」
たった今手に入れた弓もすごかったが目の前にあるのはそれとは桁が違う。
「その通り。エルフが精魂かけて作り上げた弓じゃ。名前を精霊の弓という」
「精霊の弓」
そうだと頷くキアラ。ちょっと構えてみろと言ってマーカスが壁に向かって弓を射る仕草をすると驚くべき事が起こった。弓を引くと勝手に矢が出てきて弦にセットされているのだ。
驚いたのはマーカス達ではなかった。その場にいたエルフの長老。そしてアルも目を見開いて驚愕している。
「これが精霊の弓だ。構えると矢が出てくる。それにしてもいきなりミスリルの矢を出しおったか」
「どう言う事かな?」
そう聞いたランディにキアラが顔を向けて言った。
「弓を構えて出てくる矢はその弓を持つ者の弓の技量、お主達人間の言葉ではスキルというのかの。それに対応しておる。そしてミスリルの矢が出てきたということはマーカスなる狩人が相当の使い手であるということになる。このエルフの村においてもその弓を構えてミスリルの矢を出せるのはここにいるアルを入れて数名しかおらん」
「それほどの優れた弓をいただいても良いのか。エルフの宝ではないのか?」
やりとりを聞いていたローリーが言った。キアラは何も問題ないという。
「お主らのおかげで私のスキルが上がった。今のスキルがあれば同じ弓を作ることは以前程難しくなくなっておる。だから気にせずとも良いぞ」
長老の言葉に納得した4人。ちなみに精霊の弓自体が遠隔攻撃力、命中ともに+20というダンジョンのNMと同じ性能を持っていたという優れものだ。
「これからどうするんじゃ?流砂のダンジョンを攻略するのかい?」
「そのつもりだがとりあえずリモージュに戻って全員の意思を確認してからだな。地獄のダンジョンに挑戦するにはそれなりの準備も必要になるし」
ランディがそう言うと全員が立ちあがった。
「世話になった。礼を言わせてもらうよ」
「なぁに、エルフの村の脅威を取り除いてもらったあんた達にお礼を言わなきゃならないのはこっちだよ。スキルの実までもらっているしの。そのスキルの実のおかげで我らは世界樹の恵みを集めることができる様になった。これでもしここの村人の誰かが重い病にかかっても安心じゃ」
軽口を叩き合うエルフと人間。お互いに認め合っているのが会話のやりとりからも分かる。話をしているのはキアラとランディの二人だがその周囲にいるエルフも人間も誰も緊張していない。
キアラやアル、ユールを始めエルフの長老達は村の出口まで見送りにきてくれた。
「ローリー」
村の出口でキアラの声に振り返ると彼女が近づいてきた。彼女はローリーに向かい合う様に立った。周りに自分たちの仲間とエルフ達が集まってきた。
「妖精がお主の前に姿を見せた。それはつまりローリーが妖精から認められた人間ということになる」
彼女の言葉を黙って聞いているローリー。周囲にいるエルフはもちろん、ランディ、ハンク、そしてマーカスも顔を向けて聞いていた
「妖精は姿を見せないだけでこの大陸のあちこちにおる」
「妖精に認められたらどうなるんだ?」
「何かが変わる訳じゃない。普段通りにすればよかろう。心の片隅に今わしが言ったことを覚えておいてくれればいい」
「分かった。覚えておこう」
そう言うと大きく頷くキアラ。最後にもう一度挨拶をした4人はエルフの森を後にしてジャングルの中に入っていった。ジャングルの中を移動中マーカスが新しい弓の試し打ちをしてその威力に全員がびっくりする。
見たことがないスピードで矢が飛び出したかと思うと太い木の幹にミスリルの矢が深く突き刺さっている。
「ものすごい威力だ」
「ああ、想像以上だ。これは強力な武器になる」
ハンクと矢を射ったマーカスの二人が太い幹に突き刺さっている矢を見ながら言う。
「あとは敵対心だな。こればっかりは試打じゃわからないか」
「リモージュに戻ったらアラルに見てもらおう。彼なら鑑定できるかもしれない」
「なるほど。アラルなら分かるかも知れないな」
ローリーが言うととそれがあったなとランディが納得する。
ジャングルの中で1泊した4人。
「ローリーの結界。強くなってないか?」
野営の時に張られた結界を見てマーカスが言った。
「装備がよくなっているからな」
「いや、装備だけじゃない。地獄のダンジョンを2つクリアしてまた強くなってる」
「それは俺だけじゃない、お前もだろう」
「どっちにしてもだ。ローリーとランディが強くなってる。俺とマーカスもこれから頑張らなきゃいけないってことだ」
「そうだな。足を引っ張らない様にしないとな」
以前のチームワークが戻りつつあるとローリーは感じていた。あとはこの場にビンセントを引っ張り出すだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます