ネフド

第1話

 4人が上陸した地点に戻ると川の沖で待っていたハバルの漁船がエンジンをかけて近づいてきた。船を降りたのは3人、そして今度乗り込んできたのは4人だが彼は何も言わずに船を出すと今度は川を下ってリモージュの街を目指す。


 途中でネフド側に接岸して野営をした際にランディがマーカスを紹介した。詳しい話はしなくてもハバルは事情を分かっていてくれたのか突っ込んだ事は聞いてこない。あるいは友人のアラルからはおおよその事情を聞いているのかも知れない。いずれにしてもハバルの口からエルフの森のことが広まる事はないだろう。ランディもローリーも無口なハバルを十分に信用している。


 翌朝再び船を出したハバル。その日の昼過ぎにリモージュの大きな街の城壁が川のうえからでも見える程に近づいてきた。


「王都でもないにしてはでかい街だな」


 船首からリモージュを見ているマーカスが言った。


「でかいぞ。ダンジョンの街だからな。そして流砂のダンジョンはあっちの方角になる」


 ランディが指差した方向に顔を向けるマーカス。


「たっぷりと休んでいたからな。これからは頑張るよ」


 そう言ってエルフからもらった精霊の弓、ロングボウを軽く叩く。


「頼むぞ、当てにしてるからな」


 出航した時と同じ場所にハバルの漁船が戻ってきた。


「世話になった」


「これくらいお安いご用だ」


 他の3人もハバルに礼を言って船を降りるとその足で市内のアラルの店に向かった。店先で彼らを出迎えたアラル。1人増えているのを見て全てを理解する。彼の案内で店の奥に入った4人がテーブルに座ると人数分のお茶を持ってきたアラルが配り終えると自分も椅子に座った。ランディがエルフの村での出来事を説明し、新しい仲間であるマーカスを紹介した。


「世界樹の恵み。同じ効果があったんだな」


「世界は広いよ。俺たちの知らないことがまだまだ沢山ある」


「その通りだ。人間がいかにちっぽけな存在であるかというのが良く分かるな。自分たちが知らないことがこの世界には数多くある」


 ランディの言葉に頷きながら答えるアラル。


「それで4人になってこれからどうするのだ?この街の流砂のダンジョンの攻略か?」


「そうなるだろう。あと1人蘇生させなければならない仲間がいる。俺たちは地獄のダンジョンを2つ攻略しているが蘇生薬を手にいれるには難易度が高い地獄のダンジョンを攻略するのが最も可能性が高いだろうと信じているからな」


 ランディの話をじっと聞いているアラル。彼は話を聞きながらも内心ではランディの隣に座っているローリーの事を考えていた。砂漠の民が信じているツキ、運。ローリーと言う男は自分の想像以上にそれらを持っている男だ。最初に1人でやってきて以来次々と仲間を復活させている。それも生やさしい方法じゃない。地獄のダンジョンの最下層までもぐったり、御伽噺のエルフの村を探し出したばかりかそこからも蘇生薬を貰っている。


 砂漠の民の中でもここまでツキを持っている男はいないだろう。と同時にローリーならあと1人分の蘇生薬を持ってくるのは間違いないだろうと確信する。


「ところでアラルに鑑定してもらいたい武器があるんだが」


 ランディの言葉で現実に戻ったアラルが彼を見るとマーカスと呼ばれている男が背中にかけていたロングボウをテーブルの上に置いた。それを見たアラルの目が光った。


 じっと弓を見ていたアラルが顔を上げた。


「エルフの森で手に入れた弓か?」


「そうだ。エルフからもらった弓だ。精霊の弓というらしい」


 テーブルに置かれた弓を手に取ってじっと見るアラル。他の4人はその仕草を黙って見ていた。


「矢が勝手に出てくる。しかもその矢の種類がスキルに依存するとはな。これほどの弓は初めて見る」


 流石にアラルだ。一眼見ただけで弓の持っている特性を見抜いていた。


「他に何か付随している効果やスキルはあるかな?」

 

 そう言ったランディに顔を向けると、


「遠隔攻撃力、命中ともに+20、それに加えて敵対心-2の効果がある。弓自体の威力が大きく敵対心が減少する。この弓は弓使いにとっては垂涎の的になるな」


 マーカスがもう1本の弓を見せるとそれも良い弓だがエルフから貰った弓の方がずっと優秀だと言った。矢が無限に射てるメリットは何者にも変え難い。持っていた弓をマーカスに返すと言った。敵対心マイナスと聞いてマーカスの顔が緩んだ。


「遠慮なく序盤から討てるな」


「これでまたダンジョン攻略が楽になるぞ」


「難易度が高いと言われている地獄のダンジョンでは効果があるだろう」

 

 マーカスとハンクのやり取りを聞いてからそう言ったアラル。


「あと1人寝たきりの奴がいるんでね。ここのダンジョンで出なければクイーバまで出向くつもりだ。そこでも出なければもう一度クリアしたダンジョンに挑戦するさ」


 ローリーが決意を込めた言葉で言った。他の3人もその通りだと頷いている。

 目の前にいる4人の装備だけを見ると大陸中でも他の追随を許さない程優れたものばかりだ。その上にランディとローリーは地獄のダンジョンを2つ攻略している。彼らならやるだろう。そして持ち込まれる小瓶を鑑定するのは自分の仕事だ。


「また小瓶が出たら持ってくるとよい」


「頼む。アラルの鑑定が頼りだからな」


 アラルの店を出た4人。まずはマーカスを宿に連れていって部屋を確保する。これでリモージュでの活動拠点ができた。その後は4人で市内のレストランに入って今後の活動について話をする。


 流砂のダンジョンはすでに3人で25層までクリアしているが今一度最初から攻略することにする。それに関してマーカスがすまないなと言ったが


「25層でも出てくるのはランクAだ。1層からもう一度攻略しても2、3日で辿り着けるから気にするな」


 マーカスの肩を叩きながらランディが言った。ランディと2人で初めたダンジョン攻略が今では4人になった。忍のカイとケンはもういないがそれに代わって元々の仲間が復活している。装備も上がっている分戦力的にはツバル島嶼国の火のダンジョンを攻略した時と同等かそれ以上になっているだろう。ローリーは今の戦力をそう分析している。刀も強い武器だった。今度は片手剣と弓だ。しかも弓は2つとない業ものときている。


 このメンバーならダンジョンの最深部までいける。


 ローリーは確信する。

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