第38話

 港を後にして市内をうろついていると目の前に冒険者ギルドの見慣れた看板が目に入ってきた。


 そう言えばふらっとここに入って忍のカイとケンの2人に出会ってそのままツバルに渡ることになったんだなと同時を思い出してギルドの扉を明けて中に入る。昼の時間帯であったこともありギルドの中は閑散としていた。見るともなく掲示板に貼られているクエスト票に目を通すローリー。ランク毎にクエストがまとめられて張られている。場所柄なのか砂漠にいる魔獣の討伐やここリモージュと近隣の街へと続く街道の護衛クエストがあった。


「何かクエストでもやろうとしてるのか?」


 その声に振り返ると受付カウンターを越えて1人の男が近づいてきた。このリモージュのギルドマスターであるサヒッドだ。


「いや、どんなのがあるかなと思ってみてただけだよ」


「そうか。時間があるならちょっと話をしないか?」


 そう言ってギルマスの部屋に案内されたローリー。ギルマスのサヒッドはギルドにいるローブを着た男を一目見た瞬間に以前会ったトゥーリア出身でSランクの賢者ローリーだと気がついていた。


「この前お宅のランディがやってきて報告は受けてる。47層までクリアしたらしいな。今日は休養日かい?」


 職員がジュースをテーブルに置いて執務室から出ていくとギルマスが言った。


「そうなんだよ。47層のクリアに8日かかったからね」


 そう言うと彼の目が見開かれた。ランディはそこまで言っていなかったらしい。


「1つのフロアで8日か。そりゃきつそうだな」


「ああ。一筋縄ではいかない。これはここに限らず他の場所にある地獄のダンジョンでも同じだ。力技、実力はもちろん必要だが力技だけでは攻略できない様になっている」


 目の前の男は大陸でもまだ一人しかいないのではないかと言われている本物の賢者だ。精霊魔法と回復魔法を完璧にこなし膨大な魔力を保有しているからこそAランクとなり地獄のダンジョンを攻略してSランクになっている。しかもすでに2つも地獄のダンジョンを攻略し3つ目のここリモージュでも47層まで降りている。並の冒険者じゃないことは実績からもわかるし目の前に座っているローリーの雰囲気からも強者のオーラが出ている。


 自分もAランクの元冒険者だったからわかる。ランディもそうだったがこのローリーもその実力は疑うべきものではないと。


 それまで30層まで攻略した者が最も深いところまで行ったパーティと呼ばれていた流砂のダンジョン。ところが目の前の男がいるパーティがこのダンジョンに挑戦するや否やあっという間に30層をクリアして今や47層まで攻略済みになっている。そして同じトゥーリアのリゼに所属している女性だけのパーティも同様に40層以下のフロアを攻略中だ。


 地獄のダンジョンの難易度が下がった訳ではない。それが証拠にこの2つのパーティ以外は皆相変わらず30層の手前で躓いているのはギルマスとして報告が上がって来ていた。


 この2パーティが異常なのだ。特にローリーとランディ。この2人は龍峰のダンジョンのあとツバルの忍と組んで火のダンジョンも攻略して50層のボスを倒してクリアしている。化け物並みの実力があるという事だ。こうして目の前に座っていてもオーラは感じるが決して強さをひけらかせている様ではない。仕草も落ち着いているし会話も同じテンションだ。興奮もしていないし自分達を自慢することもない。淡々としている。これはランディも同じだ。


 本当に強いと言われる者達はこうなるのかとサヒッドは話をしながらローリーを観察していた。


「ダンジョンの攻略について詳細を話してくれとは言わん。一言教えてくれ。ここの流砂のダンジョンのダンジョンレベルはトゥーリアやツバルと比べてどうだ?」


 ギルマスの質問の意味を理解するローリー。地獄のダンジョンと言われているがそれらのダンジョンの難易度が同じなのかそれとも難易度に差があるのかは未攻略だから誰も判断できない。多くの挑戦者がだいたい30層前後で攻略を止めてしまう。そこから先はレベルが上がって攻略が難しいと断念するのだ。その時点でもまだNMやSSクラスが出て来ない事などからこの4つの未攻略のダンジョンをまとめて地獄のダンジョンと呼ぶ様になっただけだ。その4つが同じレベルかどうかを判断できるのは2つクリアしているローリーとランディだけだろう。


「まだ流砂のダンジョンをクリアしていないので47層まで攻略した限りでの印象になるが、一言で言えばここも他の地獄のダンジョンと同じレベルにあると言える。ただそれぞれのダンジョンに特徴がある。つまり同じ攻略の仕方をしているだけでは複数の地獄のダンジョンはクリアできない。ダンジョンによってもそうだし1つのダンジョンの中でもフロアによって攻略の仕方が変わってくるんだ。ここ流砂のダンジョンも他と同様に簡単ではないよ」


「なるほど。それぞれのダンジョン、そしてダンジョンのフロアにも癖があるということだな」


 ギルマスの言葉にそう言う事になるとローリー。


「ランディにも言ったが攻略し終えたら報告に来てくれ、期待しているぞ」


 分かったとソファから立ち上がってギルマスの執務室を出て1階のロビーに出ると数名の冒険者達が併設してある酒場のテーブルに座って打ち合わせをしていた。彫の深い顔をしているのでおそらくここネフドの冒険者達だろう。彼らを一瞥してからローリーはギルドを出た。酒場にいた連中は話しをしたそうだったがそれを無視する様にしてギルドを出たローリー。流砂のダンジョンの攻略中は余計な雑音を聞きたくない。攻略に集中すると決めている。


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