第37話
リモージュに戻ってきた彼らは久しぶりにギルドに顔を出した。とは言っても顔を出したのはランディだけであとの3人は先に市内のレストランに移動している。ぞろぞろと行って目立ちたくないというのは4人の共通した認識だ。地獄のダンジョンを攻略しているのがわかれば質問攻めにあうのは見えている。自分たちは攻略に集中したいと思っており余計な雑音はシャットアウトしていた。これはツバルでも同様だしもっと言えばドロシーらも同じ気持ちだった。ただこちらは女性ばかりのパーティなのでギルドにはドロシーとケイトの2人で顔を出しているらしい。
リモージュのギルマスをやっているサヒッドの部屋に入って報告をするランディ。
「全く報告がないと思っていたら47層までクリアしていたのか」
「以前言ったけど余り注目を浴びたくないんでね。ギルマスには悪いと思っているが勘弁してほしい」
30層で止まっていた流砂のダンジョンの攻略。トゥーリアのリゼからやってきたと思ったらいきなり記録を塗り替えては下に進んでいるパーティ。リゼの龍峰のダンジョンをクリアして全員がSランクに昇格したことはここネフドにも通知がきていたしランディとローリーはその後ツバル島嶼国の火のダンジョンもツバルの忍2人と組んで攻略している。その忍2人もダンジョン攻略後にSランクに昇格したと通知がきていた。
地獄のダンジョンを2つ攻略したからか目の前に座っているナイトの男からは普通じゃないオーラが漂っている。気負っている訳でもなく自然に振る舞っているがそれでもギルマスには分かる。普通の冒険者とは雰囲気が全く違う。
「目立ちたくないという希望は聞いている。同じトゥーリアから来ている女性だけのパーティのリーダーもそう言っていた。ギルドとしてそちらの希望を守ると約束しよう」
「頼みます」
「クリアしたら報告に来てくれよ。ボスの魔石の査定もあるしな」
笑いながらサヒッドが言った。こいつらならクリアするのは間違いないと決めつけている口調だ。
「ああ。クリアできたら報告にくるよ」
ギルドを出たランディがレストランの個室に入るとすでに他の3人が料理をオーダーしていた。ランディは任せるよと言ってからギルドに顔を出していたので彼の分の料理もすぐに持ってくる。給仕の女性が部屋を出ていくと食事をしながらの打ち合わせとなる。
「2日、いや3日休養にしょうか。48、49層と厳しいフロアが続くだろうから完全に体力と気力をリセットしたい」
「いいんじゃないか。正直8日間砂漠にいて自分でもバテているって感じるくらいだしな」
ランディとマーカスの会話だがハンクもローリーも同じ気持ちだった。47層はクリアできたがかなり疲れていた。
「それにしてもいやらしいフロアが続くよな」
「戦闘能力が高いだけじゃクリアさせない。かと言って戦闘能力がないとクリアできない。前も言ったけど体力と知力の両方を高いレベルで求められる。それが地獄のダンジョンなんだろう。うちにはローリーという抜群の知力を持っている参謀がいて助かってるよ」
ランディが言うとその通りだとハンクとマーカスも続く。当のローリーはそうでもないぜと言いながら食事をしていた。ランディはローリーに顔を向けると言った。
「さっきのランディの言葉だと48層は戦闘力を試されるフロアになりそうだな」
砂漠の地面に剥き出しになっていた48層に通じる階段を降りた4人の目の前には地下洞窟が広がっていた。地面は砂地で見る限りSSクラスが3体固まって洞窟の中を徘徊しているがその集団の数が多い。討伐に時間がかかると大リンクしそうな雰囲気だった。
「いかに短時間で3体を倒して進んでいくか。洞窟の奥にはまた次の洞窟へと繋がっている通路があるんだろう。通路の中も安全とは限らない。ひたすらに戦闘を続けて進んでいく可能性もあるぞ」
「地獄のダンジョンの最下層に近づいている。誰も簡単なフロアだとは思っていないさ」
2人のやり取りを聞いていたハンク。
「今まで登場しなかった魔獣が待ち受けている可能性もあるな」
「十分にあるだろう。しっかり休んで気合いを入れ直そうぜ」
翌日から3日間は完全休養日となった。
休みの日は基本バラバラで好きな事をしてリフレッシュするというのがパーティを組んだ時からの決まりになっている。ローリーは遅めの朝食を宿で摂ると冒険者の恰好でそのまま街の中に繰り出した。特に行きたい場所がある訳でもなく市内をウロウロとするだけでも気分転換になる。この前はこうやって歩いていると砂漠の案内人であるアニールとクマールに出会って旧市街の中にあるバザールに案内してもらってこの帽子を買ったなと思いながら見るともなく街の中や露店を覗きながら市内を歩いているとそう遠くない場所から水の気配がしてきた。
気が付かない内に大河ナタールにむかって歩いていた様だ。そのまま歩いていると白い色に塗られた住宅街の先にリモージュの港が見えてきた。大きな桟橋には船は泊まっていない。こことイン・サラーとを結ぶ船や上流のブカルパのの街とを結んでいる定期船は出たばかりなのかそれともまだリモージュには入港していないのだろう。
視線を大桟橋から左に移すと漁船が固まっているのが目に入ってきた。ハバルの船に乗せて貰った場所だ。
漁船が固まっている方に歩いていくと漁船を掃除しているハバルの姿が見えた。桟橋に係留してあるハバルの船に近づいていくとそれに気が付いたのかハバルが顔を上げてこちらを見た。
「漁は終わったのかい?」
目が合うと声をかけたローリー。声をかけてきたのがローリーだと分かると表情を少し緩めたハバル。
「今日の漁は終わった。釣った魚を組合に卸したところさ」
話をしながらもハバルの手は停まらない。船べりや船倉を丁寧に掃除している。自分の商売道具を丁寧に扱う姿を見て彼が優秀な漁師なのは間違いないなと感じるローリー。彼の仕事を黙って見ているとハバルの方から話かけてきた。
「そっちは今日は休養日かい?」
「そうなんだよ。ダンジョンに挑戦しているが体力、気力は毎日続かない。何日か挑戦して何日か休む。体調管理も必要だからな。でないと事故が起こりやすい」
「漁師とは違うな。魚は待ってはくれない。季節が変わればいなくなる魚もある。風や雨が吹いても同じだ。獲れる時期は毎日休みなしさ」
話をしながら今は網を綺麗に畳んでいるハバル。
「見事なもんだ」
大きな投網を綺麗に畳んで小さくしているハバルを見て言った。ほれぼれする程の手つきで網を畳んでいく。大きかった網がちいさくコンパクトになっていく様は見ているだけで楽しい。
「これが俺の仕事だ。仕事はきっちりやる。あんたもそうだろう?」
「確かにな」
投網を畳み終えると仕事が終わったのか大きな伸びをしたハバル。船の船側のヘリに腰かけるとポケットから煙草を取り出して美味しそうに吸い始めた。
「クイーバの連中はこの河に漁にはこないのかい?」
「あいつらはもっと河口でやってるって話だ。見ての通り対岸はジャングルで人も住んでない。河口から登ってくれば魔石の燃料も食う。クイーバの連中でここまで漁をしに来る物好きはいないな」
幅の広いナタール河の向こう側にクイーバの大森林が見えている。うっそうとしたジャングルだ。ローリーが対岸に顔を向けているのを見ていたハバル。
「あっちにもダンジョンがあるんだよな」
「ああ。大森林のダンジョンと呼ばれている。この後に行くつもりさ」
「クイーバの港へならいつでも送ってやるよ」
口下手なハバルだがそれが彼の好意であることはすぐに分かったローリー。
「本当かい?そりゃ助かる」
「あんた達と違っておれはここが仕事場だ。アラルも同じだけどな。だから行きたい時にここに来てくれればいい。行きたい場所に運んでやるよ。アラルの友人のあんた達は俺にとっても友人さ」
「そうだな。その時には世話になるよ」
軽く手を挙げてハバルと別れるとそのまま市内に戻ってきた。何気ない会話だったがダンジョンの攻略ばかり考えていたローリーには良い気分転換になった。
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