第39話
ドロシーらは47層を彷徨っていた。攻略を開始して2日が過ぎて今は3日目だ。崖下にいるSSランク3体を倒して安全地帯の洞穴で休憩をしていたがメンバー全員疲労の色が濃い。最初は定石通りに崖下を進み出したがほぼ100メートルごとにSS2体と遭遇して戦闘になることから崖下から離れ狩人のサーチを利用して崖の周りを歩くことにした。これはランディらと同じ攻略の方法で、このやり方に変えてからは戦闘回数も減り楽にはなったが肝心の攻略の糸口が全く見つからない。
「あの崖の扉じゃないの?」
洞窟の中に腰を下ろして水分を補給している5人。冷たい水を飲んでいたシモーヌが言った。ドロシー、ルイーズ、そしてカリンら3人がケイトに顔を向けた。
「あれは違う。それは自信を持って言えるわ」
「どうしてだい?」
ドロシーが言った。彼女もあの崖の中腹あたりにある扉が怪しんじゃないかと思っていた。
「ローリーからはヒントはもらっていない。でもヒントに近いのはもらっている」
「「ヒントに近いもの??」」
全員がケイトに顔を向けている。その視線を受け止めて頷くと続けて言う。
「そう。彼らはあのダンジョンのクリアに8日間かかった。そのうち6日は無駄足だったって言っていたでしょ?」
その言葉を思い出している彼女達。そしてほぼ同時に全員が気がついた。6日あればあの崖の中腹に登って扉を開けて進めるはずだと。彼女らが気がついた表情になったのを見て頷いてからケイトが続ける。
「そしてあの時ローリーはこう言ったの。あと2日くれって。そしてその言葉通り2日でこの47層をクリアしてる。つまり48層に続く階段はスタート地点から2日で見つけられる場所にあるってことよ」
「じゃあどこなの?」
カリンが聞いてきた、ケイトの今の説明で状況は理解した4人。
「私たちは46層からの階段を降りてきて崖沿いを左に進んだ。でも右に進んだらどうなるか?と思ったんだけどおそらくそれも正解じゃないって思っているの」
4人は水を飲むのも止めてケイトの話を聞いていた。
「最初6日間は無駄足だった。つまり彼らは6日かけて崖下をぐるっと1周したのよ。それで何も見つけられなかった。つまり階段を降りてきて右に進んでも結果は左に進んだのと同じ。何もない」
「確かにこのペースで進んだら6日ありゃ崖下を一回りして階段があった小屋に戻ってこられそうだね」
ドロシーが言うとその通りだとケイト。彼らも狩人のマーカスのサーチを使って崖下から少し離れて歩きながら周囲を探索したのは間違いないだろう。自分たちが気がついたこの方法をローリーが気が付かないはずがない。そして6日あれば彼らならあの崖の中腹に登って扉を調べるには十分な時間があったはずだ。
「でも彼らは何も見つけられなくて一旦地上に戻ってきた。つまり48層に降りる階段は崖下にはなく砂漠のどこかにあるってことになる。そう思ったのよ」
ケイトの説明を聞いていた4人は皆納得した表情になる。ケイトだけは自分で話をしながらも渋い顔をしていた。ノーヒントで攻略するつもりが間接的とは言え彼らからヒントを貰ったのと同じになったからだ。
「ケイト、あんたはよくやってくれてる。今の話だってあんたが言わなければ皆で苦労して崖を登ってるところさ。一朝一夕にローリーレベルになれってのは無茶な話だよ。少しずつ努力すればいずれあのレベルになれるよ」
「そうね」
ケイトの表情を見ていたドロシーに肩を叩かれながら言われて頷く彼女。
それはいいとして、ところでこのフロアの正解はどこにあるのか。
「砂漠の中ていったって広いわよね」
安全地帯の洞穴の中から外を見てカリンが言った。洞穴の先には広大な砂漠が広がっている。5人は洞穴を出ると一旦スタート地点の階段を降りてきた小屋に戻ることにする。そこがスタート地点だというケイトの言葉に納得した5人はまた2日かけて階段を降りてきた小屋まで戻ってきた。48層を攻略し始めて丸4日が過ぎていた。
彼女らも一旦地上に戻ることにする。もちろん疲れていることもあるが作戦も決めずに砂漠に繰り出す無謀はことはしたくない。
常宿に戻るとランディらの姿はなかった。ダンジョンを攻略しているのかそれとも休養日で皆出かけているのか分からない。仲が良い、異国とは言えお互いがお互いを待っているということはない。それぞれトッププレイヤーであるというプライドがある。自分たちのペースで動くのは当然だ。
部屋でシャワーを浴びてすっきりした5人は階下にある食堂に集合した。全員このあと外出するつもりがないのだろう。皆私服で階段を降りてきた。食事が始まると話題は当然47層になる。
「ローリーはヒントを解いたんだろうね。だからこの前ここで2日くれと言ったんだよ」
会話の口火を切ったのはリーダーのドロシーだ。
「つまりあのスタートの小屋から2日目の所に48層に降りる階段があるってことね」
「砂漠のどこかにね」
「砂漠の中にあるのは間違いないでしょうね」
ドロシーに続いてカリン、ルイーズ、シモーヌが言った。ケイトは黙って彼女らのやりとりを聞いていたが頭の中はフル回転している。ドロシーが言った通りローリーはヒントを解いたのだ。2日でクリアしてみせると言ってその通りにクリアしている。彼ら最初の6日間で崖の周りを1周して戻ってきた。そしてその時点で砂漠しかないと思ったが何かクリアできるヒントをそこで見たのだ。だから砂漠を攻める前に2日で攻略できると言った。
あの小屋から反対側の崖下までまっすぐに歩くと丸2日で行けると言えば行けそうだ。ただ反対側までは行っていないだろう。つまり砂漠の中で野営をして2日目に階段を見つけている。
野営?数が少ないとはいえSSクラスの魔獣が闊歩している砂漠で野営?
自分で考えながら野営という言葉に引っ掛かりを覚えたケイト。
「どうしたんだい?ケイト」
一人会話に加わらず難しい顔をしていたケイトを見ていたドロシー。そのケイトの表情が変化したのを見逃さずにそのタイミングで聞いてきた。
「え!? ああ、今彼らの動きを予想してたんだけど彼らは砂漠を2日で攻略して次の階段を見つけたわよね」
自分の考えを整理しながら話をするケイト。4人が頷いたのを見て言った。
「初日の夜は砂漠で野営をしたのかしら」
「オアシスでも見つけたんじゃないの?」
食事を口に運んだカリンが言うとそれよ!と声を上げたケイト。言ったカリンをはじめ他の3人もケイトの声にびっくりした表情になる。
「オアシスよ。いや小屋かもしれない。どっちにしてもローリーは必ず砂漠に安全地帯があると確信したのよ」
「でもどうやってそれを見つけたの?あの砂漠、めちゃくちゃ広いわよ」
ルイーズが言った。そうそうと彼女の言葉に頷くカリンとシモーヌ。ドロシーは黙ってじっとケイトを見ている。
「それがヒントよ。きっとローリーは階段の小屋を出るとまっすぐに砂漠を横断したと思うの。だってそれが一番オーソドックスだから。ダンジョンは意図を持っているって彼が言っていたの。つまり闇雲に突き進んで見つけるのはダンジョンの意図、意志じゃないと思うのよね。だから安全地帯はまっすぐ進んだどこかにある。彼はダンジョンの意図をそう読み取ったと思うの」
「確かにあの砂漠を適当に歩かせるとは思えないね」
ドロシーが言った。
「そう。それにさ、思い出してよ。崖の中腹にはいかにもそれっぽい扉があったでしょ?ローリー風に言わせればあの扉に惑わされる様じゃ攻略できないぞ。もっとシンプルに考えろってダンジョンが言っているんじゃないかって」
確かに崖下を進めば絶え間なく魔獣が襲ってくる。そして安全地帯があればこれが正解だと思いがちだ。そしてあの崖の中腹にある扉。それらが全てギミックだとしたらこのフロアの正解のルートは砂漠横断という王道だ。となると当然砂漠を横断するための安全地帯が用意されているはずだ。
ケイトの話にいつの間にか他のメンバーも食事の手を止めて聞き入っていた。
「じゃああの階段の小屋を出て砂漠をまっすぐに進むとオアシスがあるかも知れないって事は分かったわ。そこで野営をしてから翌日もまっすぐに進めってことかしら?」
ドロシーが言うとおそらくそうじゃないかとケイトが言った。
「それで下に降りる階段が見えてくるはずよ」
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