第25話

 翌日4人がアラルの店に顔を出すと奥から直ぐに当人が出てきた。

 久しぶりの再会を果たした挨拶を終えると、


「クイーバから戻ってきたのか。あちらのダンジョンをクリアしたのかい?」


 そう聞いてきた。4人が頷き、ランディが代表して言った。


「そう。そこで鑑定をお願いしようと思って」


「なるほど。じゃあ奥に行こうか。それにしてもお前さん達は結局全ての地獄のダンジョンをクリアしたのだな」


「そうなるかな」


「大したものだ」



 雑談をしながら店の奥、外からは見えない場所にあるテーブルに腰かけてた4人とアラル。ローリーが収納から防具2つと片手斧を取り出した。


 それらを一目見たアラルが顔を上げると、ダンジョンボスからか?と聞いてきた。

そうだと答えるローリー。


「やはりか。防具は今ハンクが着ているものと同じだ。ローブもローリーのと同じものだな」


「相変わらず良いのが出るな」


 アラルの説明を聞いていたランディが言った。


「そしてこの片手斧だ。これも優れものだ。攻撃力+20に加えて二刀流効果アップというのが付いている。両手に片手斧を持った時に限って攻撃力が更に+10になると同時に素早さが+30になる。2つとない片手斧だな」


「凄いな、ビンセントにぴったりじゃないか」


 ハンクが言うとお前の言う通りだとランディ。


「この片手斧とハンクと同じ防具でとんでもなく強くなりそうだ」


 マーカスも片手斧の性能を聞いて驚いた表情になって言った。


「出たのはこれだけか?」


「いや、まだある」


 ローリーはそう言ってまずはボスの宝箱から出た赤黒い色をした液体が入っているガラス瓶を置いた。


「これはボスから出た。そしてこっちはその前のNMの連戦から出たんだ」


 そう言って何かの根、そして薄い茶色の粉と濃い茶色の粉が入っている瓶をテーブルに置く。それをじっと見ていたアラルが眉間に指をあてた。それからテーブルの上に置かれた4つのアイテムを順に手に持ってじっくりと見る。その間4人は誰も言わずにアラルの仕草を見ていた。


 どれくらいの時間が経ったのだろうか。結構長い間アイテムを見ているなとローリーが思った頃にアラルはようやくアイテムから顔を上げたアラルがその顔をローリーに向けた。


「結論から先に言うと、ここにある4つのアイテムは蘇生薬を作る原料だ」


「「!!」」


 思わず全員が姿勢を正してアラルに視線を向けた。その視線をしっかりと受け止めるアラル。


「お前さん達は蘇生薬を作る為のレシピを手に入れたんだよ」


 そう言うアラルだがローリーはじめ他のメンバーは言う言葉が見つからない。

 順に説明しようと言ったアラル。最初にボスから出た赤黒い液体が入っている瓶を手に持った。


「これはエリクサーだ」


「エリクサー、これがそうなのか」


「ローリー、知ってるのか」


 ランディが聞いてきた。


「ああ。書物で見た。死以外の全ての外傷、内傷を完全に回復する薬だ。腕がちぎれていても足がちぎれていても何もなかったかの様に完全に復活できる幻の薬と書かれていた」


「ローリーの言う通りだ。この瓶で一人分だ。生きている奴にこの中にある液を掛けると完全に復活する」


 生きているという条件付きだがこれもレア中のレアアイテムだ。エリクサーという存在を初めて知った他の3人は驚いた表情をしたままだ。黙っているとアラルが言葉を続ける。


「このエリクサーだけでも凄いがそのエリクサーを使う事で蘇生薬を作り出すことが出来る様だ。そのレシピがここにある3つのアイテムだ」


 そう言ってテーブルの上に置いてあるアイテムを指さしながら説明していく。


「これは王様トレントの根と言われるものらしい。トレント種の中にまれにいる最上級のトレントが地面に伸ばしている根の中で最も栄養価の高い部分だ」


 トレントにランクがあるという話も初めて聞く、しかもその根の中で最も栄養価が高い部分。どうやって見つけるのか見つけ方すら想像がつかない。


「トレントにランクがあるなんて初めて聞いたよ」


 ローリーが言うと俺もだと他の3人も口をそろえて言った。


「わしは鑑定はできるが入手方法は知らないぞ」


 そう言ったアラルは次に濃い茶色の粉が入っている瓶を手に持った。


「これは木霊の表皮を細かく粉砕したものだ」


「木霊?」


 これは流石のローリーも初めて聞いた言葉だ。


「木霊とは天上の雫と同じくお伽噺に出てくる木で、簡単に言うと精霊が宿っている木の事だ」


 黙っていると今度は薄い茶色の粉が入っている瓶を手て持つ。


「こっちは木霊の表皮をめくった内側にある幹の一部を細かく粉砕したものになる」


 こっちも木霊から採れるアイテムらしい。


「それでだ、まず王様トレントの根を細かく粉砕する。そして粉になったところでこちらの2つの粉と一緒にして均一に混ぜる。完全に混ざったところに最後にエリクサーをそこに全て垂らすと蘇生薬ができあがる。ここにある原料を使って出来る蘇生薬は1人分になる」


 説明を終えたアラルは椅子の背に凭れて大きな息を吐いた。


「これ程のアイテムは初めてだ。鑑定していると蘇生薬の時よりも強い痛みが来た」


 アラルの鑑定スキルがまたアップした様だ、それも数段階。


「今アラルが言った手順でやれば蘇生薬が出来るということだな」


 その通りと頷くアラル。彼によると粉に粉砕する際には鉄の乳鉢は使わない方が良いという。鉄分が混じるとどうなるか予想できないらしい。陶器の乳鉢と同じ品質の乳棒でしっかり潰すのが良いといアドバイスを貰った。


「とりあえず乳鉢と乳棒を手に入れてきたらここで作業をしてもいいかな?」


「構わない。作業に立ち会ってやろう」



 アラルが立ち会ってくれるのならこちらも安心だ。ハンクとマーカスが俺達が買ってくるとアラルの店を飛び出して市内の道具屋に向かった。ランディとローリーは彼らが戻ってくるまでアラルと話をする。


「ローリーのローブだがお前さんは2つ持つつもりなのかい?」


 アラルがどうするつもりだと言って聞いてきた。


「ここにも顔を出していたドロシーらのパーティの後衛の2人のどちらかに渡そうかと思っている。彼女達には世話になっているからな。俺は1つで十分だよ」


 ローリーの言葉を聞いて大きく頷くアラル。彼がローリーを気に入っているのがこういう彼の考え方だ。あのローブは売れば膨大な金額になってしかも取り合いになる程のアイテムだ。ただ彼はそれをせず、また自分のスペアにもせずに知り合いに渡すと言っている。そこに迷いがないのは彼の態度や表情を見れば一目瞭然だ。


 2人のやりとりを聞いているランディもそれがいいだろうと言っている。ローリーに限らずこのパーティは全員が人間的に優れていると感じているアラル。だからこそ彼らの為になることならしっかりと協力してやりたいと考えていた。


 ハンクとマーカスが戻ってきた。テーブルに置かれた乳鉢と乳棒を見たアラル。


「これなら問題無いだろう。まず王様トレントの根を綺麗に粉砕するんだ」


 俺がやろうとハンクが根を乳鉢に入れると右手に持った乳棒で潰し始める。根は固いのか中々粉砕できない。


 ハンクが疲れるとマーカスが交代し、2人で1時間以上も作業を続けてようやくアラルの合格の声が出た。ひたすら乳棒でつぶす作業をしていた2人はぐったりしている。


「2人ともご苦労さん。じゃあ次に2人が潰してくれたこの王様トレントの根の粉末にこちらの2つの粉末を全て注ぎ込んでからもう一度すりつぶすんだ」


「今度は俺がやろう」


 マーカスが乳鉢の中に2種類の粉末を全て落とした後でランディが言ってゆっくりと潰していく。粉が飛び散るとそれだけで量が減って効果が出なくなるかもしれないと慎重に潰して混ぜて言った。粉末になると飛び散りやすくなる。ランディはもちろん、全員が言葉を発せずに作業を見ていた。


「そろそろ良いだろう。しっかり混ざっているのが分かるぞ」


 ランディが20分程慎重に擦り潰しながら混ぜたところでアラルが言った。ここから先はこの店の中ではなく奥の客用の部屋に移動する。乳鉢の上には薄い紙をかぶせて粉が飛び散らない様にする。


「ここからは更に慎重にやらねばならん。粉が飛び散るので咳はもちろん、会話も出来るだけ控えてくれ」


 アラルの言葉に頷く4人。


「ではローリー、持っているエリクサーをゆっくりと鉢の中に流していくんだ。ゆっくりだぞ。それと搔きまわす必要は無い。垂らせば勝手に混ざっていく」


 アラルが鉢を覆っていた紙を取るとその鉢にエリクサーの濃い色液を少しずつ垂らせていくローリー。


 アラルも含めて鉢を見ている全員の表情が変わった。エリクサーを粉砕した粉の上に垂らせていくとその場で透明な液体に変わっていくのだ。


 ゆっくりと瓶の中の液体を全て鉢に垂らせたローリー。鉢の中は透明な液体になっていた。


「できたぞ、それが天上の雫だ」


 アラルの言葉でガッツポーズをする4人。ローリーが収納から布に巻いてあるビンセントの身体を持つとベッドの上でゆっくりと仰向けに寝かせ、上半身の防具を外して裸にさせた。3人を見るとローリーが掛けろと目で言っている。鉢に入っている透明な水、天井の雫をビンセントの胸に垂らせるとその液体の全てが彼の体内に吸収されていく。今までの蘇生薬と同じだ。


 暫くすると全身が光出し、その光が消えたと当時に、


「ううっ」


 唸り声と共にビンセントの目が開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る