そして全員揃った

完話

「本当に世話になった」


「いや。全てはお前さん達の力だよ。わしは単に鑑定をしただけに過ぎん」


 アラルの店、部屋の奥で生き返ったビンセントにランディとハンクが事情を話している間、ローリーとマークスは店に戻ってアラルにお礼を言っている。暫くすると奥からビンセントとランディがやってきて改めて4人でアラルに礼を言った。


「アラルがいなければ誰も生き返れなかった」


 まだ涙目のローリーが言った。ローリーのみならず全員が涙を流している。アラルがいたおかげでこうやってパーティメンバー全員が再び揃ったと言っても過言ではない。


 アラルはローリーに近づくと首を左右に振りながら両手を彼の肩に置くと言った。


「わしの力ではない。全てはローリー、お前から始まった。お前がこの街にやってきたことが全ての始まりだ。ローリーが来てくれたことでそれまで無気力で日々を無為に過ごしていたわしに人生の張りを取り戻してくれた。礼を言うのはこちらだよ」



 ランディらはリモージュで3日過ごした。その間にビンセントに長い話をし、今ではビンセント自身も自分の立ち位置が分かっていた。4日目の朝、5人はアラルの店に顔を出した。


「ハバルの船を借りたよ」


 ランディがそう言うと、それだけで5人の目的を察したアラル。


「世話になった人達にきちんとお礼を言う。当たり前の事だがそれが出来ない者が多い。5人で行けばエルフも喜ぶだろう」


「そうだな。エルフの森から戻ってきたらまた顔を出すよ」


 待ってるぞという声を聞いて5人はリモージュの港に行き、ハバルの船でナタール河を上流に進んだ。ネフドの対岸で降りると森の中を進んでアルと出会い、彼の案内でエルフの森に入っていった。ローリーらが5人でやってきたことでエルフの人達は全てを理解していた様だ。


「やり遂げた様だの」


 集会所の様な建物の中で長老のキアラが5人を見て言った。


「世界樹の恵が無ければ全員の蘇生は無理だった。エルフの人達には世話になった」


 頭を下げる5人。


「ローリーは結局全ての地獄のダンジョンとやらを攻略したことになるの」


「そうなるな。まぁツイていた」


「ツキだけでクリアできるとも思えぬが、お主がそう思うのならそれでよかろう」


 キアラは森の妖精を通じて彼らの動きを見聞きていた。どんな時でも周囲やメンバーの事を考えて行動しているその姿はキアラをはじめとするエルフ達に感動を与えていた。そんな人間性に優れたメンバーの中でも特にローリーが優れている人間だと感じているエルフ。


「ここにお邪魔したのは世界樹の恵のお礼を言うためだが、それとは別に蘇生薬のレシピが判明したのでエルフにも知ってもらおうと思ってね」


 会話の流れからローリーが切り出した。その言葉を聞いて目を見開くエルフの人達。


「世界樹の雫から採れる蘇生薬はあるがそれとは別に蘇生薬を作る方法がある。残念ながら自分達はその原料を見つけることが出来ないがエルフなら出来るかもしれないと思っている」


 ローリーが開示したアイテムとその処理方法を聞くエルフ。


「トレントの王様の根は流石にエルフも分からない。この地にはトレントという魔物はおらんからの。ただ、もしトレントを見た時にその中に他とは違うトレントがいれば、それはエルフには見えるだろう」


 やはりかと言った表情になるローリー。キアラによると木霊の表皮や幹については森の中にあるかもしれないと言う。木の精霊と言われているくらいだ。精霊に通じているエルフなら見つけられるかもしれない。


「ただエリクサーはエルフが手に入れる事が出来るとは思えない。それはどこかにあるのだろうが我らには全く見当がつかん」


 そう言った長老のキアラはローリーを見ながら言った。


「ローリー、蘇生薬のレシピをエルフに開示した意図は?」


「世話になったという理由だけじゃ駄目かな? マーカスはここで生き返っている。世話になったエルフに対する恩返だと思ってくれたらいいんだが」


「何というか、俺達のエルフに対する誠意、そう思ってくれるとありがたい」


 ローリーに続いて黙っていたランディが言った。


「つまりお前さん達はこのレシピは開示するつもりが無いということかい?」


 その通りと頷くローリー。レシピをどうするかはパーティ内でも話あったが開示すればどうやって知ったのかという流れになる。蘇生関連については知っている人間が少ない方が良いだろうという結論になった。死んだ人間が生き返ったと広まれば収拾がつかなくなる。幸いに知っている人間は少ない。彼らは口が固いからそちらから漏れることもない。


「自分達だけで秘匿しておくと言うと言葉が悪いが、やっぱりこの蘇生関連の話は広がらない方が良いと言う気がしている。人間の社会には王族や貴族がいる。彼らが知れば収拾がつかなくなる気がする。仮に将来、蘇生薬がまたどこかで出たとしてもそれが人を生き返らせることができると鑑定できるのは人間の世界ではネフドのアラルという鑑定士だけだ。ここのエルフの村には誰も来られないだろうしな。アラルには話をして納得してもらっている」


 ランディが言った。その言葉に大きく頷くキアラ。


「あんた達の考えで良いと思うぞ。このレシピは余りに影響が大きすぎる。ここには世界樹の恵という蘇生薬がある。我らの蘇生薬とおぬしらのレシピとは同じじゃよ。外に出れば大変なことになるしの」


 その通りだと頷く5人。もちろん彼らもエルフの村や世界樹の恵については何も言うつもりはない。


「トゥーリアのリゼに戻ったらこのことを知っている連中、そうは多くいないが、彼らには口止めをしておく。彼らは仕事柄口が硬い。漏れることはないから安心してくれ」




「それにしても俺が寝ている間に本当にいろんなことがあったんだな」


 エルフが用意してくれた一軒家の居間にいる5人。村人が運んできてくれた夕食を食べ終え、皆で居間に座っている時にビンセントが言った。一時の混乱からはすっかり立ち直っている。


「ローリーが最初に俺を蘇生させた時に言った。メンバー全員を生き返らせるとな。ハンク、マーカス、最後にビンセントとなったが有言実行でやり遂げた。大したもんだよ」


 ランディの言葉に大きく頷く他の3人。


「龍峰のダンジョンで2つと無い盾が出た時点でランディからというのは決めていた。その後は出たアイテムによる順番だ。決してビンセントに意地悪してた訳じゃないぞ」


 笑いながら言うローリー。


「そんな事は全然思っていないさ。それにしても地獄のダンジョン全てクリアか。流石賢者ローリーだな」


 ビンセントはメンバーから自分がいない間の活動を聞いてびっくりしていた。地獄のダンジョンのボスクラスを倒さないと蘇生関連のアイテムを入手できる可能性が無いと言うは分かる。ただその為にきつい、いや難攻不落と言われた地獄のダンジョンに幾つも挑戦し、罠や意図を見抜いてはことごとくクリアしてきたローリーの八面六臂の働きを聞いて感謝していた。


「ツキもあった。ツバルの忍の中でも極めて優秀な2人と知り合った。エルフの村を見つけた。いろんなツキが重なり合ってこういう結果になったんだと思ってるよ」


 あっさりと言うローリーだが他の4人はそうは思っていない。ローリーだからできた。皆そう確信している。


「それでこれからだが、まずはリゼに戻ろう」


 ランディが言うと全員が頷く。


「ギルマスやドロシー達に5人揃った姿を見せないといけなしな。世話にもなっているしな。その後はどうする?それについて皆の意見を聞きたい」


 ランディが続けて言った。


「そりゃ決まってるだろう? この5人でもう一度地獄のダンジョンに再挑戦だ」


「俺は挑戦してみたいと思っているが皆それでいいのか?」


 ハンクが言った後でビンセントが言った。


「いいんじゃないか。地獄のダンジョンレベルでないと鍛錬にならないし、それに金策にもなるしな」


 マーカスがそう言ったあとでランディが顔をローリーに向けた。


「ローリーはどうだ?」


「再挑戦でいいと思う。今度はこの5人で全ての地獄のダンジョンをクリアしよう。リゼに戻ったら少し休んでから龍峰のダンジョンから始めようか」


 そう言って拳を前に突き出したローリに他の4人の拳がぶつかった。






【完】



いつも読んで頂きありがとうございます。完結しました。


冒険者同士の絆や友情を作品の中で表現したく、ダンジョン攻略という設定で書いてみました。


いつもの事ですが特に宣伝もせずに書いていましたが毎日多数のアクセスがあり驚くと同時に感謝しております。


引き続きよろしくお願いします。




花屋敷

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天上の雫 〜幻の蘇生薬を求めて難攻不落のダンジョンを攻略する〜 花屋敷 @Semboku

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