第5話

 宿の食堂ではローリーらのパーティ4人とドロシーらの女性5人組と一緒だった。彼女らは今日はダンジョン攻略をして明日が休養日らしい。さっくりと25層までクリアしてきたよとドロシーが言っているがそれが誇張でないことを男4人は知っている。


 ランディがその帽子どうしたんだ?と聞かれたので今日の話をする。黙って聞いていた8人だがローリーがその効果を話した時は皆の目が大きく開かれた。


「隠し効果?」


「初めて聞いたわ」


 口々に言う彼らの言葉を聞いていると、


「それにしてもよく見つけたな」


 とランディが言った。


「何の気なしに露店を見て回ってたんだよ。食器やカバン、靴とか売ってる店をね。そしたら帽子を売っている店があってそこにこの帽子が置かれてたんだけど見た瞬間に何というかこれだ!みたいな感覚が身体中を駆け巡ってさ。砂漠縦断の時に世話になった兄弟に価格交渉をしてもらって買ったんだよ。自分では気に入った帽子が手に入ってよかったなと思ってたんだけど一応アラルに鑑定してもらおうと思ってさ。そしたら今言った性能だろう。こっちもびっくりしたよ」

 

 本当にびっくりした表情で話をするローリーだが聞いている8人はいかにもローリーらしい話だと感じながら聞いていた。


 休養日に広いリモージュの街を歩いていて砂漠縦断の時に世話になった兄弟に会う。そのまま面白い場所というのに一緒に行く。露店を歩いて気に入った帽子を見つけて買って鑑定してみたらそれはとんでもない帽子だった。


 まるで小説の様な話だ。偶然が重なり合っている様に見えるがよく考えてみれば偶然じゃなく必然だったのかも知れない。それくらいにローリーは何かを持っている男だ。今までの蘇生の流れを見てもそうとしか思えないとここにいる8人全員が思っている。


「相変わらずのローリーだね」


 彼の話が終わった後でケイトが呟いたその言葉が全てを表していた。


「ところでさ、せっかくこうして同じ地獄のダンジョンを攻略しているんだ。行けるところまでは一緒に降りて行かないかい?」


 話が落ち着いたところでドロシーが全員を見て提案してきた。普通のダンジョンではボス部屋以外のフロアでは定員がない。集団、数の力で行こうと思えば行ける。ただそうやって下に降りても結局ボス戦はパーティ単位での戦になることと途中で出るNMや宝箱からのドロップ品についてもめる事が多いので普通はやらない。しかも数の暴力で無理やり下層に降りていった場合にはフロア見合いの実力がない事が多く大抵は事故を起こしたり命を落としたりしている。従ってダンジョンではアライアンスというのはほとんどやられていないのが現状だ。


 今ドロシーが行けるところまでと言った表現をしているのは地獄のダンジョンはボスの1つ上のフロアではなくもっと上のフロアから人数制限がかかるのではないかと見ていることの裏返しだ。


「そっちの希望は?」


 ドロシーの話が終わるとランディが彼女に聞いた。


「天井の雫あるいはそれかもしれないという小瓶。つまり薬品はそっちが優先権、それ以外はこっちに優先権を貰いたい。具体的には武器、防具、装備品だね」


 蘇生薬以外はドロシーらが優先権を持つということだ。どう思う?とランディが男3人に顔を向けた。


「知っての通り俺は蘇生組だ。ダンジョンの攻略については龍峰しか知らない。ここで意見を言うべきではないと思う。決まった決定に従うよ」


「俺もマーカスと一緒だ。ランディとローリーで決めてくれ。結果には従う」


 蘇生組の2人がそう言うとランディはローリーにどうする?と聞いてきた。


「いいんじゃないか。俺たちはそれなりの装備を持っているし下層へ降りるスピードが上がるのなら攻略時間が短くなる。俺は賛成だ。砂漠のフロアが多いだろうし四方八方を警戒する”目”は多い方が楽になる」


 その言葉を聞いたランディが拳をドロシーに突き出した。満面の笑みで拳をぶつけてくるドロシー。他の女性4人もホッとした表情だ。


「あともう一つ」


 ドロシーが言って全員が彼女に注目した。他にまだ何か要求があるのか?それは何だと言った視線だ。


「ダンジョン攻略、つまりアライアンスで攻略する流砂のダンジョンの中での指揮命令系統だがローリーに任せるわ。何でも指示してくれて構わないから。私たちはそれに従う」


 リーダーはローリーで良いという。


「ちょっと待て」

 

「いや、それがいい。それで行こう」


「おい」


 ドロシーが言いそれに同意したランディに顔を向けたローリー。ランディはローリーを見てそれから他のメンバーに顔を向けると言った。


「ローリーに任せておけば安心だ。彼に任せたからツバルのダンジョンをクリア出来てる。逆に言えばローリーがいなかったらクリア出来なかった」


 ランディが言うと皆納得した表情になる。男達のパーティのリーダーはランデイだが参謀がローリー、それも極めて優秀な参謀であることはここにいる全員が知っている。


 ランディがツバルのダンジョンでの話をした。


「ツバルの火のダンジョンは龍峰と違って力技だけではとてもじゃないが攻略できない。あちこちにギミックがあり罠がありそして迷路がある。しっかりと安全地帯を見つけつつダンジョンが俺たちに投げかけてくるヒントを読み取って初めて次のフロアが見えてくる。それができるのはローリーだけだった。こいつに任せておけば安心さ」


「あまりプレッシャーをかけないでくれよ」


 ローリーがそう言うと全員が笑った。その後は具体的にアライアンスを組んでフロアを攻略していく時の立ち回りについて打ち合わせをする。せっかくアライアンスを組んでいるのにそれぞれのパーティがバラバラに動いていたのでは効率は悪いし事故が起こりやすい。そのあたりはトゥーリアで地上のNM戦の際にアライアンスを組んだ経験があるこの2つのパーティは経験があった。


「2枚盾はでかいぞ。メインをランディ、サブをドロシー。複数体いるときはナイトが2体と対峙。ルイーズはできればナイト2人のフォローを。無理ならその時に言ってくれ。俺がサポートする」


 わかったと頷いているルイーズ。


「ケイトとハンクは3体以上の時はそっちのタゲを取ってくれ。2体の時はドロシーがキープしているのから倒してからランディに移ってくれ。盾の性能の差だ。ランディの盾なら耐えられる」


 頷くケイトとハンク。ドロシーとランディもそうだなと頷いている。ローリーの説明は理にかなっているので皆も納得する。


「カリン、敵対心マイナス装備だろう?」

 

「そうよ」


 ローリーが顔を向けると頷いて言った。


「じゃあ基本はケイトのフォローを頼む。シモーヌ、マーカスもケイトと同じ敵を狙ってくれ。バラバラに攻撃すると時間がかかる。短時間で数を減らしていく作戦だ。ドロシーの敵が倒れたらケイトの敵あるいはハンクの敵のどちらかの盾を頼む。敵が前衛ジョブと後衛ジョブがいた場合は敵の後衛ジョブにはこちらも遠隔で対処する。狩人と精霊士が魔法を撃ってハンクとケイトでタゲを取ってくれ」


 ローリーの説明を理解する8人。AランクとSランクという大陸でもトップレベルの彼らだ。理解は早い。


 そう言ってからローリーがマーカスの耳元で何かを言った。


「そうだな。使わないと宝の持ち腐れだ」


 そう言って魔法袋から弓を取り出してシモーヌに使ってくれと言って渡した。その弓の性能を聞いてびっくりするシモーヌ。


「俺は妖精の弓がある。それはシモーヌに差し上げるよ。仲間の戦力がアップするのはメリットがあるからな」


「ありがとう」


 遠隔攻撃、遠隔命中がそれぞれ+20する弓は今彼女が持っている弓よりもずっと優秀だ。女性全員がマーカスに礼を言った。


「それで俺は遊軍になる」


 シモーヌが弓を愛おしそうに撫でているのを見ていたローリーが言った。


「それがいいだろう」


 ランディが賛同した。

 ドロシーらが25層までクリアして次が26層からの攻略になっているのでランディらももう1度26層からアライアンスで攻略することにする。少しでも早く慣れる為だ。


 こうしてアライアンスの役割が決まった。ドロシーらは明日が休養日なので男性組も明日もう1日を休養日に当てて明後日から9名で攻略することにする。

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