第6話
9人はトゥーリアでアライアンスを組んだ経験もありお互いの技量や癖を覚えていた。26層から攻略を開始したが全く危なげなく攻略していく。各自の連携も27層、28層と降りていく度に良くなっていった。1日で30層までクリアする。
宿に戻って全員で夕食をとりながらの反省会と明日からの打ち合わせだ。
「31層に降りた所から見てもわかるだろうが31層は3体がリンクしている。3体以上の場合もあるかもしれないがランディとドロシーが常時2体をキープしてくれるかな。残りは戦士2人でタゲ回しでいけるだろう」
タゲ回しとは1人がヘイトを稼がない様に交互に攻撃して常に2人にヘイトを分散させることだ。ハンクとケイトにとっては難しいことじゃない。戦士2人はわかったとローリーに言う。
「上のフロアでいくつか流砂渦があったけどあれは今後どうなると見てる?」
ケイトがローリーを見て聞いてきた。他のメンバーの彼に顔を向ける。蟻地獄の様な流砂を彼らは流砂渦と呼ぶことにしていた。このダンジョンではその流砂渦は今のところは直径5メートルから7メートル程度だがこれが下層にいくと大きくなるだろうとローリーは予想している。
「下層に降りると渦も大きくなるだろうしそれに最初から流砂渦は出ていなくて俺たちが近づくと突然現れるんじゃないかと見ている」
「それってやばくないか?」
マーカスが言った。
「その通り。もし俺の予想通りだったらあまり嬉しくない展開になるな。だから各自ロープを用意しておいてくれ。5メートルくらいあればいいだろう」
なるほどとすぐにランディが言った。他のメンバーもロープを用意するという言葉で全員が理解する。
「あの渦にはまると抜け出すのに苦労する。その間に底から魔獣が出てくる。その前に引き上げないとまずい」
31層からは未知の世界だ。誰も降りていっていない。とは言ったもののここにいる9人は別だ。ドロシーらもリゼの龍峰ダンジョンで40層までクリアしておりローリーとランディに至っては50層まで2つクリアしている。地獄のダンジョンのギミックをある程度予測できるメンバーが揃っていた。
翌日を休日にして休養とロープや薬品などの補充に当てた彼らは休養日明けに31層の攻略を開始した。以前としてフロアは一面砂漠になっておりその砂漠の起伏が徐々に大きくなっている。陽は常に真上にあるがこれも下に降りると時間と共に暗くなり夜が来るだろう。
31層ではランクAが複数体で、そして単体でランクSが出てくるが9人の敵ではなかった。流砂渦も最初から現れているのでそれを避けて進んでいくと31層に降りる階段が見えてきた。その階段は今までとは違って螺旋状になっていた。
「おかしい。緩すぎる」
螺旋階段を降りながらローリーが言った。確かに簡単にクリアできているとランディも同じ気持ちだった。マーカスとハンクも言われてみればそうだよなと同意している。普通のランクAの4、5名のパーティなら30層も31層もランクAが3体以上固まって襲ってくるし、単体とは言えランクSがいれば難易度が高いと感じるだろう。ただここにいる9人は別だ。
螺旋階段を降りていった先にある32層の景色を見たローリーは階段で立ち止まって前を向いたまま言った。
「ここからが地獄のダンジョンの始まりだろう」
「これが流砂のダンジョンの本当の姿ね」
後から階段を降りてきた女性5名がローリーらに合流して32層のフロアを見て言った。
目の前には今までと同じ砂漠が広がっていたがそこには砂嵐が吹いていた。
「風で矢が流されるぞ」
マーカスが言うと同じ様にフロアを見ているシモーヌもこれはきついわねと言う。
「視界が悪くなる。砂が目や口に入る。そして風が吹いている。流砂渦もどこにあるか分からなくなっているだろう」
そう呟いたらローリーを全員が見ていた。8人の視線を受け止めてローリーが言った。
「フロアには必ず安全地帯とヒントがある。推測になるが砂嵐はずっと吹いているのではなくて吹いたり止んだりするのだと思う。32層でずっと吹きっぱなしとは考えられない」
8人に説明しながら自分の中で状況を整理しているローリー。
「砂嵐の時は結界内で待機、止んでいる時に前進するんだろうな。あとは念の為に俺の様な帽子かネフドの民が身につけている様な頭を隠せて顔を守れる装備を準備した方がいいな」
ローリーは他のメンバーを見ると
「皆はここから地上に戻ってくれるかな。俺はここで野営をしながら砂嵐の時間を計りたい。悪いが明日は休養日にしてくれないか」
「おいおい、水臭いことを言うのは無しだぜ」
ハンクが言うとランディとマーカスもそうだ俺たちも付き合うと言う。ランディがドロシーら階段に立っている女性5人に顔を向けて言った。
「女性陣は戻ってくれ。結果が出たら報告する」
「いいのかい?私たちも付き合うよ」
「いや、大丈夫だここで砂嵐の様子を見るだけだ。戦闘する気はないから俺達4人で十分さ。宿でしっかりと安んで疲れを取ってくれ」
ドロシーは彼らの気遣いが分かった。確かに9人が雁首揃えて景色を見ている必要はない。それに自分たちは彼らに比べて装備が劣っている。つまり疲労度が彼らよりも高い。いくら楽なダンジョンとは言えローリーらに比べると全員疲れているのは間違いない。しっかり休んだ方が良いというのは正論だ。
「わかった。私たちは先に戻る。明日は休養日にするが別に明後日もそうしても構わないからね。ここでの調査が終わった時点で宿で話をしましょう」
「頭を隠す防具だけは準備しておいてくれよ」
「わかった。そっちも気をつけてね」
そう言うと女性5人が順に挨拶をして転送盤を使って地上に戻っていった。階段には男4人だけが残った。
「さて俺の見立てが正しいかどうか検証しようか」
「ローリーの見立てが間違っていることはないだろう。32層で砂嵐が吹きっぱなしということは考えにくい」
「ということは下層、深層に降りたら砂嵐が常時発生しているということもあり得るということか?」
ローリーとランディの話を聞いていたハンクが言った。ローリーは彼の言葉に頷くと、
「常時吹きっぱなしの可能性はあるだろう。ただその場合には必ず別の安全地帯が存在している。それを見つけることができればそのフロアの攻略の難易度が下がる」
今までのダンジョンで安全地帯がなかったことはない。フロアのヒントを見つけることができれば攻略できる。ローリーはそう信じているしランディも同じ考えだ。
階段に思い思いに座った4人は食事を摂りながら32層の監視を始めた。
32層の前では目の前では砂漠一面に砂嵐が吹いて視界が極めて悪くなっている。せいぜい10メートルちょっとだろう。
「大した砂嵐じゃないな。ローリーの結界なら何も問題ないだろう」
砂嵐を見ながらランディが言った。
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