第19話

 2日休養日となった初日、遅めの朝食を宿で1人で食べたローリーは宿を出るとカシアス市内にある図書館に足を向けた。昨日のトレントNM3連戦で手に入れた根、薄い茶色と濃い茶色の粉に関する資料がないかどうかを探しにやってきた。


 図書館にあるドロップアイテムリスト関連の本を数冊手に持つとテーブルの上に広げて目を通していく。こうやって見るのは蘇生薬の資料を探した時以来だなと思いながら本のページをめくっていくが目当てのアイテムについては見つからない。


 根に関してはトレントの根というのはあったがそこにある説明と今彼の収納に入っている現物とはどうも違うアイテムだということがわかった。


 トレントから出た根がトレントの根じゃないとすると2種類の茶系の粉もトレントの物とは限らない可能性がある。テーブルの上に積んだアイテム関連の本を読み終えた時はすでに昼過ぎの時間だった。結局図書館の本では何も分からなかった。


 彼は図書館を出ると今度はギルドに顔を出した。ギルドの資料室で同じ様にNMからドロップしたアイテムリストをチェックする。こちらは冒険者達が手に入れたアイテムをギルド職員がまとめて資料にしたもので、かなり詳細に書かれているが、書かれているのは実際に冒険者が手に入れたアイテムについてだけだ。


 一応チェックしてみたが資料の中にはローリーが探しているアイテムについては説明がなかった。


 つまりギルドから見れば未発見のアイテムだということになる。図書館の資料を見る限りだが今までに出たことがないアイテムかも知れない。


 やはりリモージュのアラルに聞くしかないという結論に達したローリー。日が暮れた頃にギルドを出て常宿に戻り、そこの食堂で夕食を注文して待っていると客室のある2階の階段からランディが降りてきた。食堂にいるローリーを見て片手を上げると彼のテーブルにやってきた。


「今から晩飯かい? 一緒してもいいか?」


 どうぞと言うと同じテーブルに座り、何を注文したんだと聞いてきたランディにオーダーした料理を言うと俺もそれをと給仕に言う。


「部屋で寝てたのか?」


「ああ。自分が思っていた以上に疲れていた様だ。いくら神龍の盾で体力が戻っているといってもやっぱりダンジョンの深層部での戦闘で疲れてたんだろうな。朝飯食ってまた寝てついさっき起きたところだよ」


 肉体よりも精神的にきついと言うランディ。深層部では1つのミスが命取りになる。ランクが上の敵との連戦で一瞬たりとも気が抜けない。ダンジョンの中で休憩をしっかりと取っていても疲れるんだよという。


「だから2日の休養は正解だよ。ところでローリーはどうしてたんだ?」


「図書館とギルドの資料室に行ってきた」


 そう答えたタイミングで2人分の料理が運ばれてきた。2人ともジュースを飲みながら食事をする。ダンジョン攻略中は禁酒だ。


「トレントのNN3連戦で出たアイテムに関して何か資料があるかなと思ってな。でも結局どちらでも見つからなかったよ」


「とういことは新しいアイテムだな」


 ローリーの話を聞いていたランディが言った。蘇生関連のアイテムかも知れないぞというランディ。


「だといいがな。まぁあまり期待はしない方がいいだろう。ダンジョンをクリアしたらリモージュのアラルに見てもらうつもりだよ。その前にボス戦で天上の雫が出たら一番いいんだけどな。もしボスから出なかったらその時はエルフの村に行ってキアラに頭を下げよう」


「そうしよう。時間はかかるがビンセントを生き返らすのが俺たちの使命だからな」


 2人はそれからは食事をしながら雑談をする。攻略中のダンジョンと関係のない話をすることで気分転換になることを知っている彼ら。気持ちの切り替えがリフレッシュにつながると経験上から知っていた。



 2日目は文字通りの完全休養日としたローリー。食事以外の時間は部屋でゴロゴロしながら収納に入っている荷物の整理をしたり、乾いた布で杖を拭いたりと普段リゼの自分の部屋でしている事と同じことをしてゆったりと過ごしたことですっかり知力、体力共に回復した。


 3日目の朝、宿のロビーに4人が揃った。皆体調に問題がないという。4人全員がリフレッシュして顔色も悪くない。宿を出ると大森林のダンジョンに続く道を一塊になって歩いていく。この次にカシアスに戻ってくるのはダンジョンをクリアした後だと分かっている4人。


「ローリーは49層の予想は立てているのか?」


 歩きながらマーカスが聞いてきた。


「いや、全く予想がつかないよ。ただ分かっていることは今から挑戦するフロアはボスがいるであろう50層に繋がっているということだ。簡単じゃないってことはわかるよ」


 ここ大森林のダンジョンは今までとはまた違っている。下層部に降りると魔獣の強さに加えて地形や天候で挑戦者を痛めつけてきている気がしていた。彼がそう言うとそれもわかると言うメンバー。


「ジャングルのダンジョンってのは魔獣以外にたいてい湿気が多くてジメジメしているから知らない間に体力を削がれるよな」


 ハンクの言った通りだ。敵の強さについては特筆すべきものは今の所ないが視界が悪いのとフロアの湿度が高い。4人は体温調節機能のついたインナーを着ているがそれでも不快感は拭えない。フロアの不快指数が他のダンジョンよりも高く設定されている様だ。不快指数が高くなると文字通り気持ちが平穏でいられなくなり、それが焦りに繋がったり攻撃が雑になったりする。その結果考えられない様なミスが起こったりするものだ。


「無理せずに行こうぜ。ここまできて焦っても仕方がない」


 先頭を歩いているランディが言った。


 カシアスから4時間弱歩いて地獄のダンジョンの前についた4人。それぞれ荷物の最終確認をしてからその場で軽くストレッチをして体を動かす。いつものルーティーンだがそれを見て普段と動きが違うメンバーがいるかどうかをチェックするのもローリーの仕事だ。体調が悪いと動きが普段と違う。ほんの少しの違いでも彼は見つけることができる。それくらい長い間このメンバーと一緒に活動をしていた。


 見ている限り誰も問題なさそうだ。ストレッチを終えると各自で水分を摂る。誰も何も言わないが今からこのダンジョンの最後の挑戦をするのだということを知っていた。


「行こうか」


 ランディが声をかけて全員がダンジョンに入って49層に飛んだ。

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