第20話
49層に降りて洞窟の通路を歩いて右に曲がると背後で壁が閉まる音がした。これにももう慣れている4人は互いに顔を見合わせるだけでそのまま進んでいく。
洞窟を抜けた先は暴風雨が吹きまくっているジャングルだった。
強風が横から吹いてきて、横殴りの大雨が降っている。そのせいか目の前にあるジャングルにも霞がかかっていて視界が極めて悪い、しかも風と雨の音が大きい。地面を見ると濡れてぬかるんでいた。
「簡単じゃなさそうだな」
帽子を被りながらランディが言った。皆何も言わなくても目の前の状況を見た時点で各自が帽子をかぶっている。
「地面が雨でぬかるんでいる上にこの風と雨と音か。最後になってきついな」
「マーカスに無理をさせよう。サーチを使ってくれるか。使用するタイミングは任せる」
「そうだな。少しでも楽になるな。了解だ」
「その代わり攻略の速度は上げない。少しでも雨風が凌げる場所があったらそこで休みながら進もう。あと罠もあるかもしれない。ランディ、俺、マーカス、最後がハンク。この順で進みたいがいいかな」
ローリーが言うと3人が問題ないと言った。彼らは当然雨具を持っているがそれは移動中に使う為であり、戦闘で使うと体の動きが悪くなるので使えない。従って帽子だけ被った4人は他は普段のダンジョンと同じ格好をしていた。
準備ができると暴風雨のジャングルに進み出した。足元はぬかるんでいるが4人はリモージュでかったグリップの効いている靴を履いているので問題はない。
「左前方にSSクラスの虎が3体」
マーカスが言った。すでに戦闘の準備をしている4人がそのまま進むと木々の間から3頭が飛び出してきた。挑発スキルでタゲを取るランディ。背後にいたハンクが前に出て戦闘に参加。マーカスとローリーも参加して危なげなく3頭のSSクラスの魔獣を倒す。
戦闘が終わると最初の並びに戻って再び前進する4人。ジャングルの中を歩くので普通なら雨風はマシになるはずだがここはダンジョンで普通とは違う。木々が生い茂る中でも強い風と雨に晒される4人。
その中をマーカスのサーチとローリーの気配感知を駆使しながら進んでいく4人。
「待て、罠がある」
ジャングルを歩いているとローリーが声を出した。それと同時にマーカスが言った。
「左にSSクラス3体」
「なるほど。49層になると罠のエリア、魔獣のエリアと区別されていないんだな」
強化魔法をかけられたランディがその場で立ったまま左から襲ってくる魔獣をまともに受け止める。その間にハンクとマーカスが剣と矢で体力を削っていった。ヒヒイロカネの武器の威力はすごく、ランディとハンクが片手剣を振るたびに魔獣の体力をごっそりと削り、短時間で3体を討伐する。すぐにローリーが見つけた罠を解除してさらに奥に進んでいく4人。罠は細い蔦が地面よりわずか上のところを通路を横切る様に張ってあり、これに足を引っ掛けると左右から矢が飛んでくるというものだった。4人は帽子をかぶっているとは言え横殴りの雨と風で全員がびしょ濡れになっていた。
「右前方に小屋らしきものがある」
ローリーが叫んだ。途中でSSランク2体を倒した彼らはジャングルの中に立っている小屋に近づき、中に魔獣がいないのを確認すると一斉に中に飛び込んだ。せいぜい10名程が入れる広さの小屋だが4人の彼らにとっては十分な広さだ。
「安全地帯っぽいな」
小屋にある窓から外を見ているランディが言った。外は相変わらず土砂降りの暴風雨だが小屋の中は別世界の様に静かでそして暖かい。
小屋の中が安全だと分かると全員が来ている服や下着を脱いで吊るして乾かす。全員の防具がびしょ濡れになっていた。ローリーが食料と飲み物を取り出して食べながら話をする。
「入り口から真っ直ぐに歩いてきているのか?」
「やや左方向だがおおむね真っ直ぐと言ってもいいだろう。6時の地点をでて11時の方向になるな」
マーカスの問いに答えるローリー。彼はマッピング能力もあるのし、普段から方向に関しては間違えないことを知っている3人。
「まだ序盤だろうな」
暖かい肉を挟んでいるサンドイッチを口に運んだハンクが言うと、
「そうだろうな。49層が土砂降りと暴風だけで終わるフロアじゃないだろう」
そう言ったのはランディだ。その言葉を聞いたローリーも頷く。地獄のダンジョンの49層が暴風雨だけで終わるのならある意味楽勝のフロアだ。だがそうは誰も思っていない。今までになかった仕掛けがあるはずだ。
これから先が見えないのでここで野営をしてしっかり休養を取ることにする。濡れた服屋下着を乾かす必要もあった。特に防具については代えが効かないほど優秀なものだ。また濡れるとしてもしっかり乾かしたい。
小屋にある窓から外を見ると相変わらず横殴りの雨がジャングルに降り注いでいた。激しい風で枝葉が揺れているのが見えるローリーはパンツだけの格好で小屋を出ると屋根の上に登ってみた。何かサインがあるかどうかを確かめようとして土砂降りの中、屋根を隅々まで見てみたが結局何も見つけることができなかった。
「屋根の上には何もなかったよ」
タオルで全身を拭きながらそう言ったローリー。
食事を終えた4人は今は各自飲み物を手に持ってくつろいでいた。皆切り替えが上手い。気を張り詰めたままだと疲れてミスが起こりやすくなるのを知っている。
「小屋の中とは言え見張りは必要だな」
マーカスが聞いてきた。安全地帯であってもそこがずっと安全だという保証は何もない。3時間ずつの交代で4人が見張りに立つことにする。49層まで降りてきて焦る必要は何もない。しっかり休んで体調を100%回復することが結果的に攻略に一番近い。
12時間以上小屋で過ごした4人。防具は乾いており、疲れもしっかりと取れていた。朝食を食べながら打ち合わせをする。参謀のローリーが言った。
「このジャングルは下がぬかるんでいて道がない。挑戦者を迷わせようとしている気がしているんだ。なのでとりあえずは真っ直ぐ奥に進んでみたい。奥がどうなっているのか、そもそも奥があるのかすら分からないが」
「小屋の中にもサインらしきものは見当たらないしな」
ランディだそう言い、他の2人もないなと言う。
「そうなんだよ。だからここを出るとこのまま真っ直ぐに進んでみる」
木々が生えているジャングルでは真っ直ぐに進むことが簡単ではない。ローリーだから言えることであり、それを知ってる4人は彼の言葉に頷いた。
準備を終えるとランディが4人を見て言った。
「土砂降りの中を真っ直ぐ行くぞ」
4人は再び暴風雨のジャングルの中を奥に進み出した。
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