第21話

 相変わらず土砂降りのジャングルの中で魔獣が襲ってくる。ランクSSの四つ足やら昆虫やらが次々と襲ってきた。そして同時に落とし穴などの罠もある。マーカスのサーチとローリーの気配感知がなければまず進めないだろう。木々が多く、その上に雨風で視界が制限され音も聞こえない。そんな中木々の間や木の上からSSクラスが襲いかかってきた。


 さらにその合間にはSクラスが集団で襲いかかってきた。蜂の大群だ。


「蜂は俺がやる。ゴリラを任せた!」


 SSクラスのゴリラを見つけたと思ったら反対側から蜂の大群が来る気配を感じたローリー。気配が近づいてくる方向に杖を突き出すと範囲化された雷の魔法が飛び出して蜂の集団に命中したかと思うと次の瞬間には蜂は全滅している。SSのゴリラも3人で問題なく倒していた。


「ローリーの範囲魔法で助かったぜ。あの数が来たらやばかった」


 歩きながらマーカスが背後から言った。


「雨が降っているからな。雷魔法で威力が増加した。固まってたのもあるしまぁ問題なかったな」


 S級、そして地獄のダンジョンをいくつもクリアしているこのメンバーだから49層を攻略できているが普通ならとっくに全員が死亡しているだろう。SSクラスやSクラスの複数体が連続して襲いかかってくる中を進んでいくことはできない。


 2日目もひたすら敵を倒しながら奥に進んでいった彼らの前に小屋が現れた。周囲と小屋の中の安全を確認してから中に入った4人は濡れ鼠のまま部屋の中をチェックする。小屋に入っても各自の帽子の鍔の先から水滴が垂れ落ちていた。


 安全を確認すると前日と同じ様に防具を脱いで乾かす4人。初日と全く同じパターンでこの日を終えた。


「この調子で続くのかな?」


 ローリー以外の3人が思っていることをハンクが口に出した。


「おそらくそうじゃないという気がするんだ」


 脱いだローブとズボンを吊し終えたローリーが言った。他の3人が彼に顔を向ける。

防具を吊るす際に窓の外を見ればずっと暴風雨が続いている。


「この雨と風はそのまま続くだろう。でもこのフロアとしてはそれとは別に何か仕掛けがある気がする」


「ローリーの勘か?」


「そう。なんとなくとそういう感じがしているんだ」


 床の上に座り込んだローリーは収納から飲み物と食事を取り出しながら話を続ける。


「確かに暴風雨の中を進んでいくこのフロアは簡単じゃない。でもここは49層だ。嫌がらせがこれだけで終わるとは思えないんだよな」


 最後は独り言の様に言ったローリーだがその言葉は広くないこの小屋にいる他の3人にもしっかりと聞こえていた。賢者ローリー、この男の読みはまず外れない。常に周囲を警戒し状況判断をしてその時々で最良の判断を瞬時に下す。彼の力量についてはパーティメンバーはもちろん、彼を知る周りの男女がそれを認めていた。


「となるとだ。今日もここでしっかりと休んだ方が良いってことになるな」


 そう言ったランディに顔を向けたローリー。


「そうなる。皆も気づいているだろう。ここはダンジョンの49層なのに時間の概念がない。暴風雨だが夜にならないってことを。つまり休む、休まないの判断は挑戦者で決めろということになる。マーカスは特にしっかり休んでおいてくれ、サーチ頼りのところもあるからな」


「分かった。ただローリーの気配感知にも相当助けられてるぜ」


「そうだな、マーカスとローリーのおかげでかなり助かってるぞ」


 窓の外を見ていたランディが言った。


 今朝小屋から出てせいぜい6、7時間程度の進軍でこの小屋が見つかった。普通ならもう少し前に進んでも良いところだろうがここに小屋があるということはこの先暫く無いということになる。まだ早いがしっかりと休めと言うことだろうと言うローリー。


 ランディ、ハンク、マーカスはローリーを信用している。彼がそう言ったのならそうだろうと野営の準備を始めた。


「出て来る敵の強さは今日も変わらなかったな」


「とは言っても簡単じゃないぞ、この視界とジャングルの中での戦闘だ。雨も体力を奪っていく」


「ランディの言う通りだ。しっかり休もうぜ」


「そうそう濡れた防具を少しでも乾かせるしな」


 ハンクとランディとマーカスのやりとりを聞きながらローリーは野営明け以降にどうなるかを考えていた。この3人はS級冒険者として普通以上に技量と体力がある。まぁ自分もだが。だからこの暴風雨の中SSクラスを倒しながらここまで進んでこられた。ただダンジョンの意思から見ればここまでやってくるのは想定内だろう。周囲の環境が悪い程度で事故を起こすのならそもそも49層まで降りて来られない。


 明日になれば状況がわかるだろう。もし今までと同じならこの49層は暴風雨のフロアでそのフロアがものすごく広くて攻略に時間がかかると言うことになる。


 今までと違ったら、そこでまた考えれば良いか。


 大雑把な方針だけ決めると体を休めることにするローリー。初めてのフロアで細部まで予測できない。



 交代で見張りをしながらしっかりと休んだ4人。窓の外は相変わらずの暴風雨だ。雨で地面がぬかるんでいて道がないダンジョンではとりあえず直進するしかないと思っているローリー。それが合っているのかどうかなんて誰にもわからない。であれば自分達の行動を単純化した方が良いだろう。真っ直ぐ進んで何もなければ右か左に移動して49層の入り口に戻っていけばいい。下手に何も考えず、無闇にジグザグに進む方が見落としが出る。


 交代で休養をとった4人は朝食を食べると小屋の中で思い思いにストレッチをして軽く体を動かす。


「ここを出ると真っ直ぐに行けばいいんだな」


「頼む」


 体を動かしながら聞いてきたランディに短く答えるローリー。

 

 また外に出ればびしょ濡れになるのはわかっているのだが、半乾きの防具を身につけた4人。ローリーの強化魔法が全員にかかると、扉の前に立ったランディが振り返って言った。


「皆の衆、雨中の行軍の時間だ」


 ランディが扉を開けて暴風雨の中を飛び出すとその後に3人が続いた。

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