第18話

 ランディが宝箱を開けると中には金貨100枚と今度は透明なガラス瓶があった。ローリーが手に持って瓶を見てみる。その中身は薄い茶色をした粉だ。どう見ても天上の雫には見えない。


「これも初めてのアイテムだな」


 ローリーが手に持っているガラス瓶を横から見ていたランディが言った。


「これもアラルに鑑定してもらおう」


 さっきと同じ様にローリーの収納にアイテムと金貨を収めた。


「もう1度あるかもな」


 ランディがそう言って広場に戻ると予想通りというか広場にトレントがPOPしていた。その数は5体。


「永遠に増えてくのかよ?」


 広場を見ているハンクが言ったがそれはないだろうと即座に否定するローリー。どうしてだという顔をしてこちらを見る。ハンク以外にランディとマーカスもローリーに顔を向けた。


「見てくれ、この広場だとせいぜい5体だ。無理して6体くらいだろう。それ以上湧かせる前提なら広場をもっと広くしているはずだ」


「なるほど。このNMが湧く広場の大きさにも理由があるって訳か」


 マーカスがそう言うと俺はそう思うと答えるローリー。ダンジョンには必ず意図があると言うのが彼の考えだ。無限湧きを想定しているのなら広場にせずに草原やジャングルにすれば良い。この広さの広場だというのに意味があると考えていた。

 

 彼がそう言うと他の3人が皆納得した表情になる。


「ローリーの読み通りならこれで最後かあってももう1回ってことだな」


「ランディならこのトレント6体ならいけるだろう」


 強化魔法を受けているランディにハンクが声をかける。まぁなと答えてから行くぞと中央のトレントに挑発を入れると5体が近づいてきた。5体になると蔓が10本だ。流石のランディも何度か蔓の攻撃を受けるが強化魔法、そしてアーマーの能力でそれらに耐えながらもリキャスト毎に挑発を入れていく。ハンクとマーカスのやることは変わらない。順に倒していくだけだ。ローリーは精霊魔法よりも回復、強化魔法に注力してランディのフォローをしている。彼が倒れると全てが終わる。何としても盾は守らなければならない。


 時間はかかるが確実に1体づつ倒していく4人。残りが3体になるとローリーも精霊魔法を使い始めたことで討伐のスピードが上がった。マーカスの弓が矢が必要ないというのはこういう連戦では大きなアドバンテージになる。彼はひたすら矢を連射してトレントにダメージを与えていった。


 最後に残った1体は全員で総攻撃するとあっという間に倒れて光の粒になって消えた。4人はまた洞窟の奥に足を向けると予想通りそこにはまた宝箱が湧いていた。


「今度はこれか」


 宝箱の中には金貨100枚と今度は透明なガラス瓶の中に濃い茶色の粉が入っていた。もう何も言わずにそのまま収納に収めるローリー。


「さてどうなっているかな」


 ランディがそう言って4人で広場に戻るとそこにはもうトレントのNMは湧いていなかった。


「ローリーの読み通りだったな」


「ああ。そしてこの小島は49層に抜けるルートでは無かったと言うことになる」


 4人は装備が優れていて実力があるとはいえSSクラスのNMの複数体の連戦で体力を消耗していた。広場を抜けて階段を上がって小屋の中に戻ると休憩を取る。

 

 各自が思い思いに軽食をとりジュースや水を飲んでいる中、ローリーも水分を補給しながら考えていた。根と薄い茶色の粉末と濃い茶色の粉末。金貨とは別に出たアイテムはこれだけだ。武器や防具、アイテム類が全く出ていない。トレントのNMはSSクラスとは言え3、4、5体と増えていくのを倒すのは簡単ではない。ということは簡単でないNMを倒した報酬のこのアイテムにはきっと何か意味があるはずだ。


「ローリー、何を考えてるんだ?」


 水が入っているグラスを持ったまま考えて耽っていたところを見たランディが声をかけてきた。ローリーは今自分が思っていたことを3人に話をする。ローリーの予想を黙って聞いている3人。それぞれが彼の話を聞きながら十分にあり得る話だと思っていた。


「なるほど。3つでワンセットという可能性は確かにありそうだな」


 彼の話を聞いたマーカスが言った。


「それでどうする?48層をクリアした時点で一旦リモージュに戻るつもりかい?」


「いや。せっかくこの流れで攻略している。50層まで行ってクリアしてから戻ろう。ボスから天上の雫が出るかもしれないしな」


 ツバルの火のダンジョンでもそうだった。ダンジョン攻略には流れ、そして良い意味での慣れがある。攻略しているダンジョンに馴染むと言った方が良いかもしれない。戦闘はもちろんだが、それ以外にダンジョンの癖に慣れることで罠や違和感を見つけやすくなる。これが途中で違うことをすることによって今までの流れが一旦切られるとそればすぐに戻らないことがある。特に地獄のダンジョンで万が一流れを戻せないとなればそれは即、パーティメンバーの死に繋がるとローリーは考えていた。一緒にツバルのダンジョンを攻略したランディもそれを分かっているのでローリーがこのまま進もうと言うとすぐに賛成する。


 小屋がある小島は彼らが攻略した時のままで、大木が小島にかかったままになっていた。その大木を渡って向こう側に戻ると再びジャングルの中を奥に進んでいく4人。SSランクの魔獣が木々の間から襲ってくるのを倒しながら3時間程進んでいくと49層に降りる階段を見つけた。階段を降りながら話をする4人。


「あの幹の穴に入っても49層には行けたんだろうな」


「おそらく48層は攻略ルートとがいくつかあるんだろう。上の層でもあっただろう?俺たちが木の上から移動したが木々の間からでも行けなくな無かったフロアが。あれと同じだと思う」


 どちらのルートが正解だったかは分からない。わからないが恐らく木の幹に入ったらあの小島には行けない様になっていたのではないか。あのトレントがNMであったことから見ても通常ルートでは遭遇しない様にしていたのではないかと予想しているローリー。


 結果的に自分達は48層の中で難易度が低いというか裏ルートを探り当てたと思っていた。トレントのNM戦がなければ基本力技で押していけるフロアだからだ。前3後1のこの前のめりパーティは力技のフロアには滅法強い。4人だが普通の5人パーティよりもずっと戦闘力は上だ。


 階段を降りると49層だがそこはまた洞窟になっており、先で曲がっていてフロアの様子を伺うことができない。


「49層を簡単に攻略させるとは思ってないからな。まぁ予定通りってとこか」


 ランディがそう言って上に戻ろうと全員が転送版にカードをかざして地上に戻っていった。カシアスの宿に戻ってきた4人は宿の食堂で早めの夕食を摂る。幸いに周囲には他に客がいなかった。


「明日、明後日の2日を休養日でいいかな?」

 

 ランディの提案に全員が頷く。49層に降りるとボスのいるであろう50層まで地上に戻っては来られない。しっかり休むと同時に食事や薬品関係の補充が必要だ。


「もし2日で疲れが完全に取れなかったら隠さずに言ってくれ。100%の体調じゃないと49層、50層の攻略は難しいからな。3日でも4日でも全員がOKになるまで攻略はしない」


「ローリーのいう通りだな。いよいよ大詰めだ。ここで無理したら今までやってきたことが無駄になる」


 ハンクが言った。マーカスもその通りだと言い、ランディも頷いている。

 大森林のダンジョンの最下層部に挑戦する前にしっかりと休んで英気を養うこととなった。

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